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第24話~連打~

 月光届かぬ暗い地下室の中、俺と男との戦いも、終局へ向かいつつある。

 俺のライフは残り一つ。それに対する男のライフは十。

 この圧倒的なライフ差を今からひっくり返す!


「行くぜ! アタックフェイズ! 《ツイン・ガトリングドラゴン》で攻撃! 《デストロイバレット》!」


 《ツイン・ガトリングドラゴン》のガトリング砲に、非殺傷のゴム弾が装填され、唸る回転音の後、耳をつんざく轟音と大量の弾丸が男に向かって放たれる。


「コイツはトリプレットブレイクのモンスター。そのライフ、三つ削らせてもらうぜ!」


「そうはさせない! 私は《革命家アルドフ》でブロック!」


 降り注ぐ弾丸からアルドフが身を呈して男を庇うように守る。

 いくら非殺傷用のゴム弾とはいえ、その痛みは計り知れない。

 やがて、アルドフが膝を付いて崩れ落ちた。同時にガトリング砲の弾も切れた。

 だが、アルドフの近くに二つの団体が現れる。


「私は古代魔法エンシェントマジック《革命の引き金》を発動し、破壊されたランク2《革命家アルドフ》以下のランクを持つ、ランク1《反逆の革命軍》を二体前衛に効果召喚エフェクトコールする!」


 やっぱりそうきたか。だが


「そんなの想定済みなんだよ! 行け、パージ! 《断罪の煉獄火炎弾プルガトリオバースト》三連打!!」


 パージの口から吐き出される三つの超高温の火炎球。

 あれが直撃すれば一たまりもない。


「私は《反逆の革命軍》二体で二回分の攻撃をブロックし、残る一回分をライフで受ける!」


 三つの火炎球のうち、二つが《反逆の革命軍》へと直撃する。

 革命軍は、断末魔の暇さえ与えられることなく、姿さえも残すことを許されなかった。

 後に残ったのは何もない。

 そして、残る一つの火炎球は男の足元に被弾し、爆発の衝撃は男だけでなく、この部屋全体を大きく揺るがすほどだ。


 これで奴のライフは残り七。まだまだ行くぜ!


「更に《ブレイズワイバーン》で攻撃!」


 ワイバーンが低い唸り声を上げ、低空飛行で男の元へ襲い掛かる。

 まるで、早く走りすぎて踵で急ブレーキする昔の漫画のように、爪を前に押し出してだ。


「くっ!」


 ワイバーンの爪を男は横へローリングすることにより、どうにか回避できたものの、その顔には大汗がにじみ出ている。

 そのライフは残り六。


「追撃しろ! 《紅龍イグニス》で攻撃!」


 イグニスは手加減しているのか、しっぽの先で男をはたくだけにとどまった。


「うっ!」


 はたかれた衝撃で、男は風に舞う木の葉のように簡単に吹き飛ぶ。

 だが、いくら手加減していたとはいえ、巨大な龍のしっぽ。打ちどころが悪ければ、骨折してもおかしくない。

 そして、イグニスはツインブレイクのモンスター。そのライフを二つ削る。

 これで残りライフは四。半分を切った。


「更に《紅龍イグニス》の効果エフェクト発動! このカードが攻撃する場合、デッキの上からカードを一枚めくり、それがドラゴンだった場合、効果を無効にして前衛に効果召喚エフェクトコールし、そうでないなら墓地へ送る!」


 この効果はさっき外してしまったが、ここでドラゴンを引けなかったらこのターンでの勝利は無い!

 目を固く閉じて、祈るようにカードをめくり、チラッとそれを見る。

 カードの色は赤。――モンスターカード――その種族は……!


「俺が引いたカードは、ランク7のドラゴン《アライブドラゴン》だ! よって、効果を無効にして前衛へ効果召喚エフェクトコール!」


 イグニスが苦しそうにうめき声を上げながら、口から一メートルくらいはある、赤と黒のまだら模様の巨大な卵を吐き出した。

 卵は二、三回震えたと思うと、殻を内側から破り、中から卵と同じ赤と黒のまだら模様の鱗を持つ、多頭龍ヒュドラが七つある頭から同時に産声を発する。




「《アライブドラゴン》で攻撃!」


 《アライブドラゴン》は本来ならばツインブレイクをもっており、相手のライフを二つ削ることができるのだが、効果が無効になっているため削れるライフは一つだ。

 それでも異形の龍に襲われるのは、どんなに効果を無効にしても怖い。

 これで奴のライフは残り三つ。


 そしてドラゴンを引けた時点で、俺の勝利は確定した。


「《龍騎士ハルペー》の効果エフェクト発動! 活動状態スタンドのこのカードを休息状態レストにすることで、自分フィールドに居る休息状態レストのドラゴンを活動状態スタンドにする!

 俺は《炎獄覇龍えんごくはりゅうパージ》を活動状態スタンドに!」


 ハルペーが剣を掲げ、剣先からあふれ出た光がパージへと吸い込まれていく。

 やがてパージが立ち上がり、出陣の咆哮を上げる。


「まさか! 私のライフを一気にゼロにするというのか!」


「そのまさかだ! 俺は《炎獄覇龍えんごくはりゅうパージ》で攻撃! 《断罪の煉獄火炎弾プルガトリオバースト》!」


 吐き出された火炎球は、男へ向かって放たれる。

 男も覚悟を決めたのか、目見開いたまま閉じようとしない。

 そんな男の覚悟もむなしく、火炎球は男の手前で消滅した。


 こうして俺の、ある意味命を賭けた戦いは俺が勝利したのだった。


 ☆★☆


「流石です! ご主人様マスター! 私はルールが良く分からなかったので見ているだけしかできませんでしたが、とってもかっこよかったです!」


「おう、ありがとな。お礼に今度ルールを教えてやるよ」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 戦いが終わって俺の方へ駆けてきたきたエリーにそう答えながら、俺は男の方を向く。

 男は何かを悟ったような、すがすがしい表情をしていた。

 この戦いの中で自らの答えを掴んだのかもしれない。


「私は決めた。このような方法ではなく、もっときちんとした方法でこの国を救ってみせると!

 だが、その前に戦いの罰を受けねばな。私を好きにしろ」


 そういえばそんなことを言っていたな。すっかり忘れてたわ。

 コイツを王宮に突き出すのもアレだしなぁ……。


「じゃあ。今日の所は何もせずに帰ってくれ」


 男は、信じられないというような表情をしていた。そんなに驚くようなことか?


「い、いいのか? 私を捕えなくて? 報酬金が付くのだろう?」


「これから国を変えようとする奴を突き出せるかよ。俺は三日後に行われる大会までの滞在費がほしかっただけだし、正直金なんてどうにでもなる」


「……助かる」


 そう告げて男はポケットに入れていたと思しき煙玉を地面に投げ下ろす。

 クラッカーのような軽い音の後に真っ白い煙が吹き出し、薄暗かった視界を白く染め上げる。


「《ブレイズワイバーン》! 煙を払え!」


 俺が叫び、他のモンスターと共にまだ実体化していたワイバーンが、その翼をはためかせ煙を部屋の奥へ追いやる。

 晴れた視界には男の姿は無かった。


 ☆★☆


「ほほぅ。つまり、そなたは財宝を守ることができたものの、賊を取り逃がしたと?」


「えぇ。まぁ」


「それにも関わらず、報酬の半分を望むと?」


「一応半分は達成したわけですしおすし」


 翌朝、再びトリスターニャの王城で俺は王に今回の事の報告をしていた。

 俺の報告を聞いた王は仏頂面をしていて、明らかに不機嫌そうだ。


「ふざけるでない! 依頼は財宝を守り、賊を捕えること! それを達成していないのにどうして報酬を支払わなければならぬのだ! たとえ一度賊から財宝を守ったとしても、再び来られては元も子もないわ!」


 今回の依頼は失敗したわけだが、どうか報酬の半分を貰えないかという交渉をしてみたらこのお怒りようだよ。

 おかしいな。もう賊は来ないって報告したはずなんだけどな……。


 王の周りに控えている大臣は相変わらず死んだ魚のような目をしている。

 こりゃ奴が言った通り、気に入らない者をことごとく処刑しているから、王の起源を損ねないように何も言わないんだろうな。


 この時俺は気が付かなかったのだ。死んだ目をしている大臣に混じって目が狂気の色に染まっている者がいるということを。


 ☆★☆


「フフッフハハハハアハハハハハハハハハハハハ!」


 王城の地下にある部屋。一人の男が、狂ったような笑いを続けている。

 その瞳は狂気を写し、濁り切っていた。


「まさか、この国に《氷獄》だけでなく《炎獄》まで訪れていようとは! 盗賊どもが取り逃がしたと思っていたが、まさかこの城で、私の監視範囲内であっさり出してくれようとはな!」


 この男は、先ほどの翔と、賊の男の戦いを見ていたのだ。

 無論、のぞき見したのではない。そんなことをすれば、エリーに気づかれているはずだ。

 この男もまた、真の契約者コントライナー

 モンスターを召喚コールし、その眼を通じて、戦いの一部始終を見ていたというわけだ。


「さぁ、どう覇龍のカードを奪いましょうかねぇ……」


 氷獄の覇龍を持つ契約者狩り(コントライナーキラー)の男は、騎士達の情報により、二日後の大会に出るということを言っていたということが判明している。

 炎獄の持ち主も、大会にでるということを言っていた。


 そこまでの情報を整理して、男にある考えが浮かぶ。


「どうやらこの私が直々に出るしか無いようですね。ククッ!」


 これまで何度も覇龍のカードを奪うことに失敗している。

 何時本部から処罰が下されてもおかしくない。男はそう判断したのだ。

 この機を逃せば一度に覇龍のカードを奪うチャンスはもうやってこないかもしれない。

 手駒は使えない。ならば自分が行く。


「全ては黒き神の為に」


 そう男は呟き、これからのことについて試案に暮れる。






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