第23話~革命~
「私のターン。ドローッ!」
男がデッキからカードをドローする。たったそれだけの行為なのに、なんかこう、闘気のようなものさえ感じていた。
「スタンドフェイズで、モンスターを活動状態に! ムーブフェイズをスキップ。
コールフェイズ! 私は現代魔法《重労働の報酬》を発動!
このカードは、自分フィールドに存在する活動状態のモンスター二体を休息状態にしてデッキからカードを一枚ドローする効果を持っている!
よって、私は前衛の《反逆の革命軍》二体を休息状態にし、デッキから一枚ドロー!」
あれほど元気が有り余っていた二つの反乱軍が、そのあまりの疲労にへたり込んでしまっていた。
しかしあんなカード、普段ならモンスター二体を休息状態にするというデメリットが、カードを一枚ドローするというメリットを上回っていて使うことはないのだが、二体の《反逆の革命軍》を攻撃させることなく(させたら、ブロックで破壊していた)休息状態にさせる為にあんなカードを採用してるなんて、正直驚きだ。
「そして私は、ランク2《革命家アルドフ》を召喚!」
馬に乗って颯爽と現れたのは、テンガロンハットがよく似合う美丈夫。
その登場に、奴のモンスターが湧き上がる。
「《革命家アルドフ》の効果発動! このカードの召喚時、自分の墓地に存在する、革命と名の付いた古代魔法一枚を手札に加えることが出来る。
私は墓地から、古代魔法《革命の引き金》を手札に加える!」
なにそれ、結構強い効果だな。やりようによっては、かなりえげつないコンボが出来そうなんだが。
参ったな。これで迂闊に奴のモンスターを破壊出来ない。《革命の引き金》で、またモンスターを出されちゃ困るんでな。
「私はセットゾーンにカードを一枚セットして、ターンエンド!」
これだけ自分のライフが減らないようにしているんだ。目的は特定のカードが来るまでの時間稼ぎか?
そう思いながら訪れる俺のターン。
「俺のターン。ドロー!」
ドローしたカードを見て、思わずにやけそうになる。
よし! この状況下で、一番来て欲しいカードだ!
「スタンドフェイズでモンスターを全て活動状態に! ムーブフェイズで、《ブレイズワイバーン》を後衛に下げる!」
ブレイズワイバーンは不服そうな顔で此方を見ていた。
仕方ないだろ。お前の効果じゃモンスターを増やされそうだし。
「コールフェイズ! 俺は、三体目の《龍騎士バルザック》を召喚! 更に、現代魔法《詠唱棄却》を発動! 次に俺が行う召喚、追加召喚するモンスターのランクを一つ下げることが出来る!」
これで俺が、召喚出来るモンスターの最大ランクは6、追加召喚できる最大のランクは8となった。
そして俺が出すのは……。
「俺は後衛に存在する四体のモンスターを休息状態に!
赤き血潮滾る灼熱の龍よ。非情なる二門の裁きを携えて、今ここに現れろ! ランク8! 《ツイン・ガトリングドラゴン》!」
虚空から現れ出でたのは、両腕が、ガトリングと化した赤き龍。
その体中には、激戦の後を思わせる大傷が何個もできていた。
これが、俺の表のエースモンスターだ!
まぁ。召喚前の痛々しい口上は、口から勝手に出てしまうからね仕方ないね。
「なんだと! ランク8のモンスターを、四体のモンスターだけで召喚するとは!」
正直言って、何体も後衛にモンスターを並べて高ランクのモンスターを出すのはメチャクチャ効率が悪い。
だから、それを如何に減らすかが、高ランクモンスターを出す秘訣なのだ。
「行くぜ、《ツイン・ガトリングドラゴン》の効果発動! 一ターンに一度、ライフを二つ支払うことで、フィールド上のカードを二枚破壊する!
俺は、お前のセットカードと《反逆の革命軍》を破壊する! 撃ちまくれ! 《ガトリングファイア》!」
《ツイン・ガトリングドラゴン》のガトリングが軋む音を立て、少しずつ回転を始める。
そのスピードが臨界点を超えた時、銃口から吹き出す殺戮の嵐。
凄まじい量の弾丸は大量の民衆をハチの巣にし、セットカードを易々と吹き飛ばす。
これで奴のコンボは破れ、俺の攻撃が可能になった。
だが、その代償に俺のライフが二つ減り、八から六へと変わる。
「こうも易々と私のロックコンボを崩すとは中々だ! だが甘かったな!」
破壊されたセットカードが、男の墓地にひらりと舞い落ちる。
そのカードは……! そのカードは!
「なっ……! 《革命の引き金》じゃないのか!」
セットしたカードは、革命モンスターが破壊された時に発動できる《革命の引き金》ではなかった。
アイツ、ブラフを仕掛けてたのか!
「だが、セットカードがない今、俺の攻撃を阻むカードはもう無い!
アタックフェイズ! 《紅龍イグニス》で《反逆の革命軍》を攻撃だ!」
イグニスが革命軍をその蛇腹で拘束、圧迫し、動きを止める。
革命軍も必死で脱出を図るが、イグニスの力の方が明らかに強い。
止めとばかりにイグニスから紅蓮の炎が吹きだす。
じりじりと肌を焼く熱さが終わり、後に残ったのは、人の形をした炭だけだ。
「まだだ、《紅龍イグニス》の効果発動! このカードが攻撃する時、デッキの上からカードを一枚めくり、それの種族がドラゴンなら効果を無効にして、前衛に効果召喚し、そうでないなら墓地へ送る!」
デッキの上からカードが公開される。
公開されたカードは古代魔法。ドラゴンじゃない。
「外れだ。ドラゴンじゃないので、墓地に送る」
悔しいことに、この戦いの流れは奴が掴んでいるようだ。
だが、それを如何にひっくり返すのかも、カードゲームの醍醐味だ。
「俺はこのままターンエンド!」
ライフ差では負けているものの、俺のフィールドにはモンスターが六体もいる。これだけの物量ならば、やつの目的が果たされるまでに押しきれるはずだ。
「私のターン。ドロー! スタンドフェイズで、全てのモンスターを活動状態に。ムーブフェイズで《革命家アルドフ》と、怒れる農民達》を前衛へ。
コールフェイズ! 私はランク2《革命家パルト》を召喚!」
今度は馬ではなく、ポニーに乗って、両手にサーベルを持った、背の低い軍人だ。
しかし、その雰囲気は並々ならぬものを感じる。あのモンスター、恐らく強い効果を持っているに違いない!
「《革命家パルト》の効果発動!
このカードの召喚時、このカードを墓地に送ることでデッキから《革命への衝動》を手札に加える!」
パルトがどや顔した瞬間、すぐにパルトが爆発四散し、後には何も残らなかった。
えー。あれだけすごそうなのにその効果が、特定のカードをサーチするってどうなのさ。
そういえば、さっきも《革命への衝動》を手札に加えていたような……。
やがて、男は真剣な面持ちで俺を見つめ、ゆっくりと、はっきりとした口調で
「今から見せよう。これが、この国を救うための私の答えだ! 私は現代魔法《革命への衝動》を発動!
このカードは、手札に《革命への衝動》が三枚存在する時に発動することができる!」
当然、男の手札には三枚の《革命への衝動》がある。
一枚は《革命家ランドスノ》の効果で手札に加えたもの、二枚目は《革命家パルト》の効果で手札に加えたもの。三枚目はわからないが、恐らく最初から手札にあったか、ドローしたときに手札に加わったからか。
そんな発動条件が厳しいカードの効果は一体どんなものなのか、想像もつかない。
「このカードは自分の墓地に存在する、革命と名の付いたカードを全てデッキに戻し、その数だけ相手ライフにダメージを与える!
私は墓地に存在する二体の《反逆の革命軍》《革命家ランドスノ》《革命家パルト》そして《伝染する革命》の五枚をデッキに戻し、君のライフを五つ削る! 喰らえ! 我々の、弱者の一矢を!」
地面から五つの赤い光が飛び出し、それぞれが螺旋を描きながら俺へと向かってくる。
それらは正に魂の一撃。
「ガッ!?」
鈍い痛みと共に肺の酸素を強制的に排出させられる。
鳩尾にめり込んでくる一撃一撃が重い。それだけ、カード達の思い入れが深いのだろうか。
俺のライフは一気に削られ、残り一つ。
だからこそというべきなのか、なんとなく伝わってきた。
この男が掴んだ答えを、この痛みで。
弱者の痛み、弱者が団結したときに生まれる強大な力は、全てを打ち倒すことを。
「まだだ! まだ革命は終わっていないぞ!
アタックフェイズ! 《怒れる農民達》で攻撃して止めだ!」
農民達が大挙して此方へ押し寄せてくる。
この攻撃が決まれば俺の負けだ。
だが、俺もここで終わる訳には行かない!
「古代魔法《アドバンテージシールド》を発動!
このカードは、自分と相手のライフ差×1000ポイント以下のBPを持つモンスターの攻撃をこのターンだけ無効にする。
俺とお前のライフ差は九。よって《怒れる農民達》の攻撃は無効となり《革命家アルドフ》は攻撃しても無意味となる!」
「何! そんなカードが!?」
農民達の殴打を、深紅に染まった鋼鉄の盾が全て防ぎきる。
奴のモンスターのBPは9000よりも下のモンスターしかいない。
だから、このターンでは俺の敗北はあり得ない!
「くっ……。私はセットゾーンにカードを一枚セットしてターンエンド」
あのカードは恐らく《革命の引き金》だろう。
革命と名の付くモンスターが破壊された時、そのランク以下のモンスターを二体、効果召喚することができるカードだ。
そして、奴のフィールドには活動状態の《革命家アルドフ》がいる。
多分、アルドフでブロックし、破壊された時に発動して二体のモンスターを効果召喚するはずだ。
それに奴のライフは残り十。これだけのライフを三回ブロックされつつ、一ターンで削りきらなくてはならない。
状況は絶望的。だがそれ故に面白い!
「俺のターン。ドローッ!」
引いたカードをチラリと見る。
そのカードは、これまで俺と戦ってきたモンスターだ。
「スタンドフェイズで、俺のモンスターを活動状態に。
ムーブフェイズで《ブレイズワイバーン》と《ツイン・ガトリングドラゴン》を前衛へ。
そしてコールフェイズ! 二体の《龍騎士バルザック》を休息状態にしてランク5《龍騎士ハルペー》を追加召喚!」
巻き上がった土煙から、赤き鎧を身に纏い、大剣を携えた男がその姿を現す。
このカードは『伝説のデッキ』から拝借したのだ。
なんせ、ドラゴンと相性がいいんでな。
「《龍騎士ハルペー》の効果、速攻によりハルペーを前衛へ移動させる。
更に、現代魔法《種の目覚め》を発動! このカードの効果により、俺は手札からランク3のドラゴン《スタードラゴン》を墓地に送り、墓地に送ったモンスターよりランクが低く、同じ種族のモンスター、ここではランク3以下のドラゴンである《炎獄覇龍の巫女》を手札に加える!」
墓地に送った《スタードラゴン》が真紅の閃光を放ち、それに呼応するかのように、デッキから《炎獄覇龍の巫女》のカードが飛んでくる。
行くぜ、俺の裏エース。
「俺はランク1《炎獄覇龍の巫女》を召喚!」
俺の横に、赤い髪と瞳を持つ女の子が現れる。
「更に、《炎獄覇龍の巫女》の効果発動! このカードが召喚に成功した時、このカードと、自分のフィールド上に存在するモンスターのランクが合計10になるように墓地に送り、手札及びデッキから《炎獄覇龍パージ》を前衛に効果召喚する!
俺は、ランク1《炎獄覇龍の巫女》と、ランク3《龍騎士バルザック》三体を墓地に送る!」
突如噴出した巨大な火柱が俺のモンスターを飲み込み、火柱が一際高く昇った。
一対の翼で巨躯をはためかせ、地上に舞い降りる赤き龍。
それは正に全てを征する王者の風格を持ち合わせ、他のモンスターは敵味方問わず、その姿にひれ伏す。
「現れろランク10! 灼熱の世界を統べし龍よ。その炎で、汚れたる世界を焼き尽くせ! 《炎獄覇龍パージ》!」
「バカな!? ランク10のモンスターだと!」
男は、驚きと恐怖で顔を引きつらせる。
だが、驚くのはまだ早いぞ!
「パージの効果発動! このカードが効果召喚に成功した時、四から俺のライフを引いた数×5000ポイントBPが上昇し、その数だけ追加攻撃ができる!」
「BP25000の三回攻撃だと!?」
地面から火柱が三本吹き出し、その勢いで巻き上げられた拳大の石が、パージの周りを衛星のように駆け回る。
さぁ、これで準備は整った! このターンでお前のライフをゼロにしてやるよ!
新出TCG用語
ブラフ:ハッタリで相手を惑わす行為。
第23話終了時点での両者のフィールド
翔
ライフ:1
手札:0枚
フィールド
(前衛)
ランク10
炎獄覇龍パージ
ランク5
紅龍イグニス
ランク4
ブレイズワイバーン
ランク8
ツイン・ガトリングドラゴン
(後衛)
なし
デッキ:27枚
男
ライフ:10
手札:1枚
フィールド
(前衛)
ランク1
怒れる農民達
ランク2
革命家アルドフ
(後衛)
なし
デッキ:32枚