第22話~理由~
「頑張ってください! ご主人様!」
俺に声援を向けるエリーを尻目に、俺は、男と対峙する。
さっきはよく見えなかったが、互いのデッキケースから発せられる光によってその姿を確認できる。
身長は俺よりも高く、黒いマントを着ていて、フード付きの服のせいか、表情が伺えない。
開始直後、俺のデッキがひときわ強く、緋色の光を放った。ということは、俺の先行だ。
というか、先行を取れたのは初めてな気がする。
「先行は俺だ! 俺のターン。ドロー!
スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ!
俺はランク3《龍騎士バルザック》を召喚!」
俺のフィールドに、赤銅の鎧を着た、ごついおっさんの斧使いが現れる。
手札を見る限り、初手は中々良好だ。
「ターンエンドだ」
さて、向こうはどんな手を打ってくるか……。
「私のターン、ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。そして、コールフェイズ!
私はランク2《革命家ランドスノ》を召喚!」
男のフィールドに、軍服を着た少年が呼び出された。
全く相手のデッキがどういうものなのかよくわからない今、迂闊に動くことは出来ない。
ここは相手の出方を見よう。
「《革命家ランドスノ》の効果発動! このカードが召喚に成功した時、デッキから革命と名の付く現代魔法を一枚手札に加えることが出来る。
私はデッキから《革命への衝動》を手札に加える!」
モンスターを召喚して、現代魔法を手札に加えたか……。
まだだ。この動きだけでは、相手のデッキの特徴はいまいち掴めない。
「私は、セットゾーンにカードをセットしてターンエンドだ」
結局、奴の特徴は分からなかった。だが、奴にコンボを決められる前に押し切れば!
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。
コールフェイズ! 現代魔法《ツインドロー》を発動し、デッキから二枚ドロー!」
やっぱり、特に発動するための制限の無いドローソースって便利だわ。
そして引いたカードの中には、丁度俺が狙っていたものもあった。
「俺は《龍騎士バルザック》の永続効果により、種族がドラゴンのモンスターが召喚、追加召喚時のみ、そのランクを一つ下げることが出来る! よって俺は、ランク4のドラゴン《ブレイズワイバーン》を召喚!」
バルザックが天高く剣を掲げると、虚空から、燃え盛る炎の翼を持つワイバーンが現れる。
バルザックの効果は、前にグリフィーが使っていた《ガーゴイルの魔像》と対象になる種族が違うだけで、同じ効果を持っている。
そして、俺のデッキは、ドラゴンデッキ。高ランクで召喚しにくいドラゴンを、サポート系のカードを使ってより早く出し、相手を圧倒するデッキだ。
早い話、殺られる前に殺るということだ。
「行くぜ! 《ブレイズワイバーン》の効果発動! このカードの召喚時、このカードよりBPの低いモンスター一体を破壊する! 俺は《革命家ランドスノ》を選択!」
《ブレイズワイバーン》のBPは4000。それに対して、《革命家ランドスノ》のBPは3000。
つまり、ランドスノは破壊される。
ワイバーンが、弾丸のような凄まじいスピードでランドスノに突撃する。
ランドスノはそれに反応できず、ワイバーンの翼に焼き焦がされ、灰も残らなかった。
「甘い! 古代魔法《革命の引き金》を発動! 自分の《革命》と名の付いたモンスターが破壊された時、デッキからそのモンスターよりランクが低い《革命》と名の付いたモンスターを二体、前衛に効果召喚する!
私は、ランク1《反逆の革命軍》を二体同時に効果召喚!」
革命家は無惨な死を遂げた。
しかし、革命家の無残な死が、怒れる民衆を呼び起こしたのだ。
それはやがて、大きな二つの集団となった。
クッソ。モンスターの破壊を引き金として、更にモンスターを出しやがった。しかも俺のターンに。
悔しいが、これ以上何もすることが出来ない。
「俺はターンエンドだ」
この一連の行動を見て、俺の頭に一つの疑念が浮かんだ。
もしかしてコイツ、相当デキるんじゃ……。
そんな俺の疑念を知る由も無く、男はターンを進める。
「私のターン。ドロー! スタンドフェイズをスキップ、ムーブフェイズをスキップ
そして、コールフェイズ! 私はランク1《怒れる農民達》を召喚!」
無駄に広い部屋に現れる、鍬と鎌を携えた農民達。
その眼はどこか殺気立っていた。
「アタックフェイズ! 二体の《反逆の革命軍》で攻撃!」
槍や剣を持った群衆が、津波のように俺めがけて押し寄せてくる。
いくらカードゲームとはいえ、大勢の人に襲われるのは怖いんですけど!
しかし、この攻撃を止めることは出来ない。
「ぐォッ!」
怒号と共に、囲まれて殴る蹴るの暴行を受ける。
ひとしきり済んで満足したのか、群衆は男の元へ戻っていき、後は、満身創痍の俺だけが残された。
痛てて……。あのモンスター、容赦なしに殴ってきたぞ。
これで俺のライフは8。あの暴行でこれだけというのは中々割に合ってない気もする。
「私はこれでターンエンドだ」
男がターンの終わりを告げ、三度俺のターンだ。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズをスキップ。ムーブフェイズで《ブレイズワイバーン》を前衛に。
そして、コールフェイズ! 《龍騎士バルザック》を休息状態にして、もう一体の《龍騎士バルザック》を追加召喚!
更に、二体の《龍騎士バルザック》の効果で、ランクを減らし、ランク5《紅龍イグニス》を召喚!」
俺のフィールドに二体目となる、斧を持つ鎧男と、真紅に染まった鱗を持つ龍が俺の元へ集まる。
イグニスは、というよりかは巨大なコブラに近い。だがこれでも立派なドラゴンだ。
よし、だんだん賑やかになってきたぞ。
「《紅龍イグニス》の効果、速攻を発動! 《紅龍イグニス》を前衛へ移動!
そして、アタックフェイズ! 《ブレイズワイバーン》と《紅龍イグニス》で、二体の《反逆の革命軍》を攻撃!」
《紅龍イグニス》はツインブレイクを持っているモンスターなのだが、ここは《反逆の革命軍》に攻撃しておくことで、その後の相手の攻撃を抑え、フィールドを俺の有利な状態に持っていく。
更に、《紅龍イグニス》にはもう一つ効果がある。
それは、イグニスが攻撃した時、デッキの上からカードを一枚めくり、そのカードがドラゴンだった場合、効果を無効にして、前衛に効果召喚することが出来る効果だ。
これで、もし俺がドラゴンを引いたら、奴のモンスターを破壊した上にライフを一つ削れるって寸法だ。ってあれ?
「どうしてモンスターが破壊されてないんだ……?」
何故か二体の《反逆の革命軍》がまだフィールドに居る。
まだフィールドに居るというか、まだ俺のモンスターが攻撃していないのだ。
しかし、二体の《反逆の革命軍》がまるで、こっちに攻撃して来いよ! と言わんばかりに俺のモンスター達を見つめている。
俺のモンスター達も、どっちに攻撃しようか戸惑っている様子だ。
「残念だったな。《反逆の革命軍》が休息状態の時、相手は私に攻撃できず、このモンスターにしか攻撃できない。
そして、私のフィールドには二体の《反逆の革命軍》が居て、どちらも休息状態。つまり、お前のモンスターは攻撃することが出来ない!」
なるほど、二体の《反逆の革命軍》が互いの効果で、互いを守っているから俺は攻撃できないってことか。
このテクニックは他のカードゲームでもよくあるコンボだからすぐにピンときたが、このコンボは単純故に、崩すのが大変だ。
さっさと崩さないと手遅れになる。
「俺はセットゾーンにカードを一枚セットしてターンエンドだ。中々やるじゃん」
コイツのプレイングは中々のものだ。
正直、賊だからと思ってショボイ手を使ってくるのかと思っていたのだが、コイツは違う。一人の契約者として、全力で俺に向かってきてる。
なら、それに敬意を示すのが礼儀ってもんだ。
「君こそ中々の腕前だ。高ランクのモンスターをいともたやすく召喚してのけたのだから。
だが、それ故に許せない。何故君はその力を民の為に使わず、愚かな王の為に使うのだ!」
なんだコイツ。褒めてきたと思ったら、いきなり血相を変えてキレたんだが。
それに、民の為にって。俺はこの国の人間どころか、この世界の人間じゃないんだっつーの。
「なんで、この力を民の為に使わないって言われたら、関係ないからな。俺にはよくわかんないことだし」
「分からないのか! 愚かな王の所為で、この国は緩やかに滅びを迎えつつあることを! 重税で民から僅かな金を搾り取り、ただ豪遊にふけり、民の事を顧みようとしないあの王に君は何も感じなかったのか!?
私は感じた。だから、こうして王宮が民から奪い取った金を民の元へ戻しているのだ!」
熱弁をふるう男の一方的な言いがかりに流石の俺もいよいよ腹が立ってきたぞ。
さっきはコイツに敬意を持っていたが、そんなものはもう吹き飛んだ。
「知るかそんなもん! 大体俺はこの国の人間じゃねぇ! そんな俺に何を期待するんだよ!」
「だったら、何故君は愚かな王の為に戦う? 地位か? 金か?」
「金だよ。生憎、金には困っていてね、破格の報酬の依頼があったからそれを受けたらこれだったって訳だ、文句あるか!」
最も、金に困った理由がカードだとは口が裂けても言えない。
その回答を聞いた男が、凄まじい形相で俺を見つめ
「金……だと! そんな下らないものの為にあんな王に従うのか! 民から巻き上げた金を手に入れて君は満足するのか!」
「それをいうならアンタはどうなんだ。王宮から盗んだ金を民に分け与えて、それで民の暮らし向きはよくなったか?」
「それは……」
少し男が口ごもる。どうやら良くはなっていないらしい。
それ自体は俺も薄々感じていた。
だってそうだろ。高級料亭でもないのに、パスタ二皿で銀貨を取られるなんて普通じゃない。値上げしないと生活していけないからな。
「違うだろ? 何の解決にもならないのが分かっていながら、盗みを繰り返すアンタは一体何なんだ?
私は民の為に頑張ってますよとでも主張したいのか? そんなのは単なる自己満足じゃねぇか!」
あれ、もしかして俺今OSEEKYOUしてた? 今更だが途中で、正論じゃなくなってる気がする。
「確かに、君の言う通りだ。こんなのはただの自己満足でしかない。なら、私はどうすればいい! この国が滅ぶ様を黙って見てればいいのか!」
苦痛な叫びを発した男の表情は絶望の色をしている。
俺なんかに答えを求められても困るんだが。
「方法なんて自分で考えろよ。
だが、ヒントくらいはこの戦いの中で見つけられるかもな」
俺の言葉に俯いていた男の表情が変わった。覚悟を決めた表情だ。
「そう……か。ならばこの戦いの中で見つけてみせよう! 私のターンだ!」
…………あれ? なんかアイツが主人公みたいなんだが。
新出TCG用語
ドローソース:ドロー効果を持つカード・コンボ
第22話終了時点での両者のフィールド
翔
ライフ:8
手札:4枚
フィールド
(前衛)
ランク5
紅龍イグニス
ランク4
ブレイズワイバーン
(後衛)
ランク3
龍騎士バルザック×2
セットカード1枚
デッキ:30枚
男
ライフ:10
手札:4枚
フィールド
(前衛)
ランク1
反逆の革命軍×2
(後衛)
怒れる農民達
デッキ:31枚