第20話~翔in theカードショップ~
裏路地から出た俺と、エリーは。一旦昼食を取ることにした。
「まいど!」
「んん~。おいしいです~」
昼食の内容は、デーヌと呼ばれる、パスタのような食べ物だ。
それに、野菜が載っていて、ヘルシーな仕上がりになっている。
それをエリーはあっという間に平らげてしまった。
あれだけのことがあったのに、よくあんなに食えるよなぁ。
それに対して、俺はあまり食べていない。
食欲がないのもあるが、食べるときに、口を切ったのか、すごくしみるし、鉄の味しかしない。
「食べないんですかご主人様? なら私がいただきますね」
「あ、オイ!」
なんということだろうか。さっきまで「ご主人様と別れたくない」とかかわいいこと言っていたくせに、この変わり身の早さよ。
結局、エリーにデーヌを食われたまま昼食を終えた。
なんか、割と少ない量なのに二皿で銀貨十枚って妙に高くないか?
それは置いといて
「さて、昼食も済ませたことだし、あそこへ行くか」
「ご主人様。あそこって?」
「ついて来ればいずれわかるさ、いずれな。っと、着いたな」
どうやら話しているうちに、目的地へ着いてしまったらしい。
そこは、大きめの妙に真新しい白塗りの商店だ。
看板には『カード売ります買います! デノン商店』と書かれてある。
「ご主人様。ここって?」
「カードショップだよ」
そう、昨日宿屋を探しているときにこの店を見つけたのだ。
いやー。エリーを背負ってなかったら、嬉しさのあまり飛び上がっていただろう。
まさか、異世界にカードショップが存在するとは思わなかったしな。
ここへ行こうと思ったのは、さっきの戦いで、ディルに勝つことが出来なかったから。
全てが通じなかったのならどうするか?
それは、デッキを強化することだ。
ここで、強いカードを手に入れてもうアイツに絶対負けないデッキを作ってみせる。
早速中に入ってみると、そこはカードの宝庫だった。
キチンとガラスケースには見た感じ、レアカードが並べられていて、そうじゃないカードは束になって棚に陳列してある。
まるで地球にいた頃のカードショップのようだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「えっと。デッキを強化したいんですけど、何か良い火属性のカードはありますか?」
カウンターの方から店主らしき男がこっちに来たので、そう告げた。
ぶっちゃけた話、デッキを強化したいというか、デッキを変えたいというのが本音だ。
「それなら、これなんてどうでしょうか」
そう言ってガラスケースを指差した先には一枚のカードがあった。
《ツイン・ガトリングドラゴン》。ランク8のモンスターだ。でも、俺が欲しいのはそれじゃない。
「確かに強力なカードですけど、もうちょっとランクが低いカードとかないですか?」
「え……」
俺の何気ない一言に店主は、何コイツ。馬鹿なのか。と言いたげな呆れと驚きの微妙な表情になっている。
あれ、地雷踏んだ?
一応ランクが低いカードが欲しい理由は、ひとえにディルに勝つためだ。
地球でも、デッキ破壊自体は、他のカードゲームで何度もされてきた。
その経験上、デッキ破壊をする奴に勝つためには、個人的に二つのやり方がある。
一つ。殺られる前に殺る。
二つ。墓地を利用するデッキを作る。
個人的には一つ目が好みだ。
勝率が高いのは二つ目なんだが、それだとロマンが無い。
楽しんで勝つ。それが俺のモットーだ。
どうしても勝ちたい相手がいるのに、高い勝率の方法をとらず、楽しんで勝つっていうのは何か矛盾してるけどな。
「し、失礼ですが、お客さん。炎属性のカードの特徴というものをご存じですか?」
「初めて間もないので、知らないです」
実際、俺が使っているのはローゼン村にあった『伝説のデッキ』だからな。実際にデッキを組んだこともないから、属性の特徴なんて分かるわけ無い。
「わかりました。それではお教えしますね」
その後、十分ほど店主の説明が続いた。
その中で分かったのは、コントラクトモンスターズには、炎、水、木、光、そして闇の五つの属性があることだ。
それぞれの特徴としては
炎属性は、圧倒的なパワーで相手を圧倒し、ライフを一撃で粉砕する。パワータイプな属性。
水属性は、デッキ破壊と手札戻し(バウンス)を得意とする。トリッキーな属性。
木属性は、効果によるドローと、大量のランクの低いモンスターで攻め立てる。速攻が得意な属性。
光属性は、ライフを増やしたり、減らしたりなどをこなす。扱いが難しい属性。
闇属性は、モンスターを破壊したり、墓地からモンスターを復活させたりする。これまた扱いが難しい属性。
ということだ。
従って、俺が、ディルに勝つための方法その一は、木属性が適任で、その二は、闇属性が適任ということだ。
結論としては、木属性も闇属性も却下だな。
理由は簡単で、俺が炎属性のカードを使いたいからだ。
なんせ、『伝説のデッキ』が炎属性のデッキだった訳だし、そこに何らかの縁が絡んでるかもしれないからな。
「じゃあ、ランクが高くてもいいんで、いいカードを下さい」
その後、店主とカードの効果の相談を重ねながら、一時間程の時間が過ぎた。
その結果。俺のデッキは元のデッキとは似ても似つかない程に改造されそうになったので、一からカードを買ってデッキを構築することになった。
英雄の使ったデッキらしいからな。魔改造して本当の持ち主に怒られたくないし。
かかったお値段はなんと金貨七枚だ。
もう残金が殆ど残ってない。
おかしいだろ。ランクの高いカードが金貨一枚もの値が付くなんて。
店主曰く、そうでもないらしい。
何でも、ランク3以下のモンスターカードと魔法カードは、人工的に生産可能で、それ以外のカードは、世界各地に存在する迷宮にしか存在しない希少なもの故に価値が高いんだとか。
ランクの高いカードは迷宮にしかないって、どういうことだよ異世界。
あと、人工的に生産って何さ? ただ、効果を考えて、絵を描くだけだろうに。
だが、カードの為には金に糸目を付けない。それがカードーゲーマーの流儀だ。
とはいえ、マジで財布がすっからかんになってしまった。
このままじゃ、明日の宿代も払えないぞ。
とはいえ、低収入でその日暮らしも性に合わない。
ここで悩んでいても仕方ないので、店を出る。
そして宿屋へ帰る途中だったのだが、隣をエリーがクイクイと、俺の服の裾を引っ張り上気した声で
「ご主人様。あそこに何か張り紙がしてありますよ」
エリーが指差す方向には、一枚の張り紙が無造作に貼り付けてあった。
そこには、俺が探し求めていたものだ。
強者求む!
今宵、王宮の財宝を付け狙う賊が現れる。
賊から財宝を守り、これを捕えた者には報酬として金貨三十枚を与えよう。
我こそは! と思う者は、日が暮れるまでに王宮に参上せよ!
トリスタン王国
これを見た一瞬。俺は確実に茫然としていた。
は!? 金貨三十枚!? マジで言ってんの!?
急いで空を見上げる。太陽はまだ沈む様子を一切見せない。
内容も、賊を倒してお金を貰うだけの簡単なお仕事だ。受けない方がおかしい。
「エリー。俺、今日は宿に帰らないぞ」
「ご主人様。それって……」
「あぁ。この依頼を受ける。お前はどうする? このまま宿に帰るか?」
「何を言っているんですか。私はずっとご主人様と一緒ですよ」
……かわいい事言ってんじゃねぇよ。ドキッとするだろうが。
まるで、向日葵のような明るさのエリーの屈託のない笑みに、思わず赤く火照った顔を逸らしてしまった。
落ち着くために深呼吸して、ようやく顔が元に戻った。と思う。
「さぁ、行くか。王城へ!」
宿への道を引き返し、俺とエリーは王城へと向かった。