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第19話~決意~

「チックショォォォォォォ!」


 ディルに敗北した俺は、悔しさのあまり、地面を叩きつけながらうずくまっていた。

 それほどまでに完全な敗北だったのだ。

 確かに、地球にいた頃も他のカードゲームで負けたこともあった。

 でも、この敗北はそんな比ではないほどに俺の胸に突き刺さる。その理由は


「ご主人様マスター! しっかりして下さい!」


 俺を心配して駆け寄って来てくれるエリーだ。

 そう、物語に登場するヒーローのように、例え一日かそこらの付き合いであっても、本人が望まぬ事態を止めることが出来なかったからこんなに悔しいのだ。


「俺、負けちまった。ごめんな、お前を守れなかった」


「……いいんです。ご主人様マスターが無事ならそれで」


 そう言ってエリーは優しく俺を抱きしめる。

 柔らかな温もりと同時に、手の甲に冷たい何かが降ってきた。

 それは、エリーが零している大粒の涙だ。


「私、昨日ご主人様マスターに買ってもらわなかったら、あの場で捨てられて死んでいたかもしれません。だから、ご主人様マスターにはとても感謝してるんです。だから――」


 一旦言葉を切ってエリーは再び口を開く


 ――ご主人様マスターとはお別れしたくないです!」


 なきじゃくったままエリーは、それでも俺に笑顔を見せようと努力するが、それでも、笑顔を作るのは無理だったようで、再び泣いている。

 やめてくれ。お前が悪いんじゃない。俺が悪いんだ。だから泣くな。


「話は終わったか。ならば、俺と一緒に来てくれ、エリザベス」


 ここで、今まで口を開かなかったディルがいきなり空気の読めない発言をしだす。

 こいつ……! さっきのエリーの話を聞いていなかったのか……!


「嫌です! 私の心はご主人様マスターと共にあります!」


 エリーのはっきりとした拒絶に、ディルは動揺を隠せないようで


「何故だ! 何故お前はそんなに俺を拒絶する! 兄はお前の為に三年間も旅をしてきたんだぞ!」


「何度も言っているじゃないですか! 私に兄なんていません! 生まれた時からずっと旅人の父と母と旅をしてきました!」


 この発言に深くショックを受けているのか、ディルは俯き、やがて強引にエリーへと迫り


「そんなに俺のことを思い出せないのなら、これから教えてやる! ほら、来い!」


「やっ! やめて下さい!」


 その腕を掴み、路地の奥へと引っ張って行く。

 エリーも必死に抵抗するが、如何せん男と女の腕力だ。少しずつ引っ張られている。

 その姿をみた俺の頭にある、大切な何かがプッツリ切れたのを感じた。

 一瞬で頭が突沸し、ほかのことが何も考えられなくなる。

 もう引き返せない。だが、今やらなくて何時やるんだ。

 こんなに俺を心配してくれる奴を守るために!


「その手を放せぇぇぇぇぇぇ! クソ野郎ォォォォォ!」


 ゆらりと立ち上がり、ディルを叩き伏せる為に走る。

 リアルファイト? 何それ、食えるの?

 奴まであと五メートル、三メートル、一メートル!

 しかし、いくら頭が沸騰していたとはいえ、この時点で、あることを忘れていた。

 ――敗北者の末路を――


「ぎゃあああああああ!!」


 あと一歩で、手が届いたのに。

 突然、俺目がけて閃光が降ってきたのだ。

 あまりの痛みに、動くことなど到底できず、ただのたうち回ることしかできない。

 忘れてた……。敗者が勝者の要求を拒否したら、雷が降るんだった……。

 クソ……。異世界人補正とかで何とかなんないのかよ。


「ご主人様マスター!」


 エリーが泣きながら俺に手を伸ばしている。

 あと、後一歩で届く!


「貴様ら! そこで何をしている!」


 というところで、後ろから誰かの怒号が聞こえる。

 後ろを振り向くと、そこには、鎧に身を包んだ二、三人の男が、こちらを見ていた。

 あの格好。グリフィーが着ていたやつと似ている。まさか、王国の騎士か何かか?

 男たちは、俺とディルを交互に見て、ディルの方を指差し


「青いローブを身に纏った白髪の獣人……。貴様、契約者狩りコントライナーキラーだな?」

「だとしたらなんだ? 悪いが今こっちは立て込んでいるんだが」

「この町の治安の為、貴様を拘束する!」


 その宣言と同時に、男たちが、その手に持つモンスターカードを実体化させた。そして、ディルにゆっくりと近づく。

 おいおい全員、真の契約者コントライナーなのかよ。

 というか、さっきの会話の流れからして、アイツが契約者狩りコントライナーキラーだったのか。


「どうだ。いくら契約者狩りコントライナーキラーとはいえ、多数を相手にするのは難しかろう。かかれ!」


「チッ!」


 この状況は不利だろうと判断したのか、舌打ちしたディルは、エリーの手を放し、俺の方へ押して吐き捨てるように呟く。


「……三日後。この町で大きな大会がある。その舞台でお前をもう一度倒し、今度こそエリザベスを貰う!」


 そう言ってディルは《アイスチャリオッツ》を召喚し、裏路地の奥へと姿をくらませた。


「逃がすな! 追え!」


 男たちも号令と共にディルを追うべく、裏路地へと姿を消した。

 後には、俺とエリーだけが残るばかりである。

 子供たちは、いつの間にかいなくなっていた。


「ご主人様マスター! 私……! 私……!」


 エリーが泣きながらこっちに抱き付いてくる。

 雷に打たれたせいで、体に力が入らない俺は、そのまま仰向けになってしまった。

 しかも、傍からみたら、俺がエリーに押し倒されるような形でのしかかられているので、苦しい。

 い、息が……!


「分かった! 分かったから! 落ち着け!」


 このまま誰かがここに来たら誤解されかねん!

 何とか言い聞かせ、一旦エリーに離れてもらった。

 兎に角、偶然に近い奇跡なのだが、エリーが戻ってきた。

 この喜びを表情には出さず、噛みしめる。


 仰向けになると、青い空がより一層見える。

 そのまま俺は、ディルの言っていたことを反芻していた。

 三日後に行われる大会。その舞台でアイツと再び戦う。


「三日後……か。いいぜ、そこでお前をぶっ倒す!」


 仰向けのまま、空に手を伸ばしてそう誓う。

 これ以上、たった一人の女の子を悲しませないために。









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