第18話~第二の覇龍~
ディルのターンが終わり、続く俺のターン。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズで全てのモンスターを活動状態に、ムーブフェイズをスキップ。行くぜ、コールフェイズ!
俺は、《マッハイーグル》を召喚! そして、《マッハイーグル》の速攻により、《マッハイーグル》を前衛へ!」
再びフィールドに舞い戻ったマッハイーグルは、今度こそは負けない! といった感じで鳴くのだが、ディルの奴は微動だにしない。
だが、本番はこれからだ!
「俺は、後衛に存在する五体のモンスターを休息状態にして、ランク5《龍騎士ハルペー》を追加召喚!」
龍を模した赤い鎧を纏った男が、俺の前に現れた。
このタイミングでこのカードをドローできるとは、ツイてるぜ。
「俺は《龍騎士ハルペー》の効果、速攻を発動しハルペーを前衛へ!」
ハルペーはツインブレイク持ちのモンスター。
コイツならこの状況を突破できるはずだ。
「アタックフェイズ! 《龍騎士ハルペー》で攻撃!」
この攻撃、恐らく奴は《フロストバード》でブロックするはずだ。
ランク5のモンスターだからな、何が起こるか分かったもんじゃないだろうし。
「なるほど、ツインブレイク持ちのモンスターか。だがその攻撃、ライフで受ける!」
「なにぃ!?」
ハルペーの剣がディルの両肩を突き、そのライフを残り七にする。
嘘だろ。アイツ、ハルペーがツインブレイク持ちのモンスターと分かっているのにライフで受けやがったぞ。
そこまでして何故、自分のモンスターを守るのか、疑問が残る。
だが、奴の思惑なんでどうでもいい。俺は俺のやり方で奴を倒すだけだ。
「続けて《マッハイーグル》で攻撃!」
「……ライフだ!」
《マッハイーグル》が巻き起こす旋風に煽られたディルは数メートル後ろへ吹き飛ばされる。
「ディルお兄ちゃん!」
後ろで、ディルを心配する子供達の悲鳴が聞こえてきた。なにこれ、まるで俺が悪役みたいじゃないか。
ともあれ、これで奴のライフは六だ。
「俺は、セットゾーンにカードを一枚セットして、ターンエンド!」
今伏せたカードは《アドバンテージシールド》だ。
実はこのカード、割と強い効果を持つ。
今までは俺のライフが相手よりも少ない時に発動していたが、テキストをよく見ると、自分のライフが相手よりも低い時に発動できる。とは書かれてないのだ。
つまり、相手のライフが少ない時にも発動できるということだ。
自分が劣勢の時は、身を守る盾となり、優勢の時は、相手に反撃の機会を与えない無情の盾となる。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。コールフェイズ!
俺は《荒ぶるカリブー》を召喚! そして、カリブーの効果発動! デッキの上からカードを三枚公開!」
マズイ。この効果でまたモンスターを増やされてしまう。
「俺はランク1《雪花の妖精》を選択し、このカードを効果召喚!」
氷の都から、雪がちらほらと舞い降りて、小さな妖精の形を作る。
可愛いモンスターだとは思うが、何か引っかかる。
それは、さっきのカリブーの効果で公開されたカードの中には、明らかに《雪花の妖精》より強そうなカードがあったのにも関わらず奴は《雪花の妖精》を召喚した。
「更に、《フロストバード》と《荒ぶるカリブー》を手札に戻し、もう一体《冬将軍パンカ》を効果召喚!」
吹雪を引き裂いて、もう一体のパンカが現れる。
アイツ、もう一枚パンカを持っていたのか。
それじゃあ、またパンカの効果が使われてしまうじゃないか!
「パンカの効果発動! このカードを効果召喚するために手札に戻したモンスターの数、つまり二枚、お前のデッキの上のカードを墓地に送る!」
吹雪に巻き上げられ、二枚のカードがデッキから墓地に送られる。
しかし、送られた一枚のカードを見て、俺は驚きのあまり、目を見開いてしまった。
そのカードは、このデッキの重要なピースの一枚だったのだ。
「嘘だろ……。《炎獄覇龍の巫女》が……」
俺のデッキには、墓地に送られたカードを呼び戻すカードが一枚も入っていない。
つまりそれは、もうパージを呼び出す手段を失ったということだ。
「その様子だと、キーカードを墓地に送られたようだな。つまり、お前は俺を倒す手段を失ったということだ」
ディルが哀れむような目でこっちを見てくる。
その態度に俺の中で沸沸と何かが湧き出してきた。
この野郎、好き勝手言いやがって……!
理性が落ち着け! と警告を出すのだが、本能がそれを許さない。
「うるせぇよ。例えキーカードが無くても、お前を倒すことは出来る!」
普段なら余り出さないような苛立ちの混じった声を上げながらディルを睨む。
それが俺の中のイライラを発散させてくれたのか、ある程度まともな思考ができるようになっていた。
そうだ、まだ終わった訳じゃない。このデッキはパージの専用デッキじゃないんだ。手はある。
「俺を倒す。か、面白い。やってみろ! 俺はセットゾーンにカードを一枚セットしてターンエンドだ!」
そんな事、言われなくたってやってやる!
「俺のターン、ドロー!」
今の俺のデッキの枚数は残り二十枚。丁度半分だ。
故にこれ以上俺のデッキを破壊されるわけにはいかない。このターンでケリを付ける!
「スタンドフェイズで俺のモンスターを活動状態に、
ムーブフェイズで、二体の《月下狼》と、《アヴェンジャーモンキー》を前衛へ!」
現在、俺の前衛には、奴のライフを削りきれるだけのモンスターがいる。
そして、奴のフィールドには盾となるモンスターが一体もいない。
だが、懸念するべきなのは、奴の場に存在する一枚の伏せカード。
それが俺の攻撃を止めるカードかもしれないし、俺を怖気づかせるためのブラフかもしれない。
でも、攻撃することにビビッていたら、勝つことなんて出来ない。ここは臆さず攻める!
「アタックフェイズ! 全てのモンスターで攻撃!」
これで奴に与えるダメージの総量は六。そして、奴のライフは六。
これが決まればジャストキルだ。
「甘い! 古代魔法《クリスタルディフェンス》を発動!」
奴のフィールド全体が光り輝き、轟音を引き連れて、地面からクリスタル製の壁がタケノコのように生える。
しかし、俺のモンスターはその壁が生えきる前に、壁を乗り越えディルに襲い掛かった。
ただ一体を除いて。
「ムキィ!!」
なんと、《アヴェンジャーモンキー》だけ、壁を乗り越えることが出来ずに憤慨している。
一番壁を乗り越えるには適性がありそうなのになぁ……。
いや違う。よく見ると半透明の戦車乗りが、壁を登ろうとする《アヴェンジャーモンキー》を引きずり降ろしている。
「このカードは、手札のモンスターを任意の枚数墓地に送り、その数だけ、相手モンスターの攻撃を無効にする。
このカードによって俺は、手札の《アイスチャリオッツ》を墓地に送り、お前の《アヴェンジャーモンキー》の攻撃は無効だ!」
クソッ! このターンで倒すことが出来なかった。
ん? 何故だ?
頭に小さな疑問が残る。
奴の手札には少なくとも《荒ぶるカリブー》、《フロストバード》の二枚が残っていたはずだ。
そのカードがあれば、ライフを一つまで減らされることも無かったはずなのに。まるで、意図的にそうなるように仕向けたような……。
残りライフ一……?
俺の脳裏に一つの予感がよぎる。
いやまさか、そんなはずは無いはずだ。
「どうした。これで終わりか?」
「ターン……エンド」
今の俺には為す術がない。
だが、《アドバンテージシールド》の効果が最大限に発揮できるライフ差だ。
このターンがダメでも、次のターンで奴を倒す!
「次のターンでの起死回生を狙っているのだろうが、もうお前のターンは回ってこないぞ」
「勝手に決めつけるなよ。お前のライフはたった一。俺のライフは九。デッキだってまだ半分ある。この差をたった一ターンで覆せないだろ!」
「ならば試してみるか? 俺のターン、ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ!
見せてやる、お前の攻撃がお前自身の首を絞める瞬間を!
俺はランク1《氷獄覇龍の巫女》を召喚!」
奴のフィールドに晴れ渡った空のような青い髪と瞳を持った女の子が現れた。
凛とした表情をしているのだが、この極寒の中、薄いワンピース一枚で大丈夫なのか?
って。そんなことを気にしている場合じゃない。
覇龍。奴は確かにそう言った。
これで、全ての疑問が氷解する。
敢えて《雪花の妖精》を召喚したのはランクを丁度10に揃えるため。
敢えて《クリスタルデフェンス》の効果を最大限発揮しなかったのは、残りライフ一という、覇龍の効果が最大限発揮できる状態にするため。
今更ながら、パージが言っていた似たような気配って、そういうことだったのか。
「行くぞ! 俺は《氷獄覇龍の巫女》の効果発動!
自分のライフが三以下で、このカードを召喚した時、このカードと、自分のフィールド上に存在するモンスターのランクが合計10になるように墓地に送り、手札及びデッキから《氷獄覇龍ラヴィーナ》を前衛に効果召喚する!
俺は、ランク1の《氷獄覇龍の巫女》、《雪花の妖精》、ランク4の《冬将軍パンカ》二体を墓地に送る!」
吹き荒れる猛吹雪の中。奴のフィールドのモンスターが氷に包まれた直後、地面から巨大な氷塊が突きだす。
それは内側からの力によってヒビが入り、やがて、雛が卵を割る様に氷塊の中から、鋭い牙と爪と一対の翼を携えた青い鱗に身を包んだ龍が解き放たれた。
「現れろランク10! 紺碧の世界を統べし龍よ。その吹雪で、不浄なる世界を凍てつかせよ! 《氷獄覇龍ラヴィーナ》!」
これが、奴の覇龍。
姿は違うのに、その雰囲気はどこかパージに似ていた。
「俺は《氷獄覇龍ラヴィーナ》の効果発動! このカードが効果召喚に成功した時、四から俺のライフを引いた数だけ、フィールドに存在するカードを持ち主の手札に戻すことが出来る! 俺のライフは残り一つ。よって、手札に戻せるカードは三枚! この効果でお前の二体の《月下狼》と、《アヴェンジャーモンキー》を手札に戻す!」
ラヴィーナの起こす吹雪が俺の三体のモンスターを巻き上げ、俺の手札へ強制送還した。
だが、所詮その程度だ。パージの効果よりも大したものじゃない。
「そして、戻したモンスターの数だけ、お前のデッキの上からカードを三枚墓地に送る!」
「はぁ!?」
前言撤回。恐ろしい効果だった。
「戻されたモンスターは三体。つまり……」
「九枚だな」
デスヨネー。
ラヴィーナがまたもや俺のデッキを巻き上げ、九枚のカードが巻き上げられる。
これで、残りデッキ枚数は十一枚。本格的にヤバいぞこれ。
「これで終わりだ! 現代魔法《ハンドチェンジ》を発動! 互いのプレイヤーは、手札を全て墓地に送り、その枚数だけドローする!」
………詰んだ。
俺の手札は六枚。つまり、デッキの残り枚数が十一枚という中、カードを六枚ドローしなければならない。
そして、世界魔法《コキュートスの都》の効果でドローフェイズ以外でドローしたカードの数、つまり、もう六枚デッキからカードを墓地に送らなければならない。
デッキから消えるカードは合計十二枚。デッキの残り枚数は十一枚。
コントラクトモンスターズのルールで、デッキからカードをドロー出来なくなったら負け、というものがある。
これで、奴がターンエンドをした瞬間、俺の負けとなる。
「………」
無言でカードをドローする。
皮肉にも、ドローしたカードの中に《炎獄覇龍パージ》のカードがあった。
すまねぇな。お前を使えなかった。
そして、氷の都から兵士が現れ、薄くなったデッキの全てのカードが無くなった。
「ターンエンドだ」
俺の戦術も、カードも一切通用しなかった。
この世界にきて、俺が味わった、完璧な初めての敗北だった。