第12話~疑惑の戦い~
石造りの舗装された道を、俺と盗賊団のボスは馬に乗って駆けている。
しかも、コントラクトモンスターズをしながらだ。
そのためか、馬の操作に集中があまり出来ない。
その結果が俺と奴との五メートル程の距離の差に現れていた。
互いのデッキがシャッフルされる。
なんか、俺のデッキケースが行うシャッフルと、奴のデッキケースが行うシャッフル音が弱冠違う気がする。
まぁ、デッキケースによりけりか。
そもそも、奴のデッキケースは僅かなスリットから、カードが出てくる仕組みになっているから、その関係で出るのかもな。
シャッフルが終わり、上から五枚を手札に加える……って! なんじゃこの手札は!?
手札のカードを見て愕然とする。手札は全て現代魔法と古代魔法のカードだったからだ。
やばい。こんな時に手札事故かよ。
「この戦いにおいて、スピードを制す者は全てを制す。よって俺の先攻、ドロー!」
いや、その理屈はおかしいだろ!
「さらに、自分のドローフェイズ時、自分が相手より先に進んでいる場合、更にもう一枚ドロー出来る。ドロー!」
「はぁ!?」
普段のコントラクトモンスターズと細部のルールがあまりにも違いすぎる。
なんという恐ろしい俺ルールだろうか。
このままだと、奴に毎ターン、二枚ドローすることを許してしまうことになる。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ。俺はランク1『盗賊団の斥候』を召喚!」
奴の隣に、バンダナを着け、小さなナイフを持った小柄な男が浮かんでいる。
馬に乗りながらというこの状況下だと、モンスターは浮かぶんだな。
「俺は、盗賊団の斥候の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札に同じカードがあれば、全て活動状態として後衛に効果召喚することが出来る!」
「まさか、もう一枚盗賊団の斥候があるのか?」
「いいや、二枚だ。俺は手札から二体の盗賊団の斥候を効果召喚!」
奴の周りには更に二体の斥候が現れる。
くそっ。一ターン目からモンスターを三体も呼び出しやがった。
「まだだ! 俺は、盗賊団の斥候二体を休息状態にすることにより、ランク2『盗賊団の強襲部隊』を追加召喚!」
今度は、ショートソードを身につけた、やはりバンダナを被った中肉中背の男が現れる。
そりゃあ、最初から七枚も手札があればこうもなるか。
「更に、盗賊団の強襲部隊の効果発動! このカードが召喚、追加召喚、効果召喚に成功した時、デッキの上からカードを一枚公開する。
そのカードが盗賊団の強襲部隊だった場合、そのカードを活動状態として後衛に効果召喚することが出来る!」
ははっ、そんなことが出来るわけがない。
奴が、盗賊団の強襲部隊を三枚持っているとして、現在三十三枚ある奴のデッキから、二枚ある特定のカードを引く確率はおよそ16パーセント。
とてもじゃないが、決して勝てるとは言えないこの賭けを当てるのは厳しい。
「俺のドローしたカードは……。盗賊団の強襲部隊! よってこのカードを後衛に効果召喚!」
「何ぃ!」
冗談だろ!? 当てやがった。
これで、奴のフィールドのモンスターは四体。本当にマズい事態になってきた。
「そして、さっき効果召喚された盗賊団の強襲部隊の効果でデッキの上からカードを一枚公開!」
今度こそは当たるまい。さっきの確率は16パーセントだったが今回は違う。三十二枚のデッキからたった一枚のカードを引き当てる確率は約三十二分の一と一気に低くなる。
公開したカードを見て、盗賊団のボスの口が歪む。
「はっはっは! 俺が引いたカードは三枚目の盗賊団の強襲部隊だ! よって後衛に効果召喚!」
全く同じ種類のモンスターが三体。しかも、それが二種類も居るとやはり、違和感がありありだ。
しかし、同じカードを二回連続で当てるのは不可解だ。
偶然と言ってしまえばそれまでだが、どうにも腑に落ちない。
「まだまだ続くぞ! 俺は、盗賊団の強襲部隊を二体休息状態にして、ランク2『盗賊団の見張り番』を召喚!」
今度は、双眼鏡を持った子供達だ。
というより、向こう一人でプレイしているからかなり暇なんだが。
「盗賊団の見張り番の効果発動!このカードがこのカードが召喚、追加召喚、効果召喚に成功した時、自分のデッキから一枚カードを公開する。
そのカードが追加召喚可能なモンスターカードだった場合、そのモンスターのランクの数だけ自分の後衛に存在する、活動状態のモンスターを休息状態にして、追加召喚することが出来る!」
奴の後衛にいる、活動状態のモンスターの数は三体。
つまり、奴がランク3以下のモンスターを公開すれば、またモンスターが展開されてしまう。
そして、デッキの上から、カードが自動的に公開される。
そのカードは
「俺が公開したカードは、ランク2盗賊団の見張り番! よって盗賊団の斥候と強襲部隊を一体ずつ休息状態にして、盗賊団の見張り番を追加召喚!
更に、盗賊団の見張り番の効果発動! デッキの上から一枚を公開!」
今度の後衛にいる、活動状態のモンスターの数は二体だ!
ランク2…… まさか、また来るのか!?
「今日はやけにツイてるなぁ。俺が公開するのはランク2盗賊団の見張り番だ!
よって二体の盗賊団の見張り番を休息状態にし、三体目の盗賊団の見張りを追加召喚!
更に、盗賊団の見張り番の効果発動。デッキの上から一枚を公開する」
そして、公開されたカードはモンスターカードだ。
「おっと、モンスターカードだな。俺は、盗賊団の見張り番を休息状態にして、ランク1『盗賊団の下っ端』を追加召喚!」
これで奴の場に存在するモンスターの数は計十体。しかも、手札は二枚だ。
ここまで来てようやく俺はあることを確信した。
それと同時に強い怒りを覚える。
「テメェ……予めデッキと手札にカードを仕込んでいやがったな……!」
勿論それは違法行為だし、見つかったら即負けとなる。
そもそも、さっきの一連のコンボは、一度や二度なら偶然で片付けルことが出来るが、ここまで連鎖が続くと、それは違法行為しか有り得ない。
「仕込む?何時俺がそんな事をした。証拠はあるのか?」
「明確な証拠は無ぇよ。だが、運だけであそこまでのコンボを決めるのはまず不可能だからな」
「ふん。明確が証拠が無いのに、俺が不正をしたと言い張るか。なるほど、実に面白い。
だが、お前に一つ教えてやろう。バレなければ不正じゃないんだよ」
「テメェ!」
やっぱりイカサマしてやがったか!
そして、それを遠回しに認めるコイツに腹が立つ。
イカサマなんて、カードゲーマーとして絶対に許せない。
「あぁ、そうだ。良いことを言ってやろう。俺はこれ以上何もしない。もう下準備は終わったからな。まぁ、これ以上何もしないところで、貴様にこの布陣を破ることは出来ないだろうけどな!
クックックッ。俺はこれでターンエンドだ」
もう、怒りのゲージが限界を振り切って逆に冷静になってしまった。
今の俺にあるのは、この手札で、如何に奴を叩き潰せるかということだけだ。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ! 俺は手札から現代魔法『ソウルカタパルト』を発動!
このカードは手札にあるモンスターカード一枚を墓地に送り、相手のライフに一つダメージを与えることができる!
俺は、さっきドローした『アヴェンジャーモンキー』を墓地に送りお前にダメージを与える!」
赤い火の玉がカタパルトに装填され、凄まじい勢いで奴に向かって射出された。
その衝撃で、黒馬は暴れ狂い、奴はそれを御しようと必死になっている。
これで、奴のライフは残り九だ。
「更に、墓地に送ったアヴェンジャーモンキーの効果発動!
このカードが手札から墓地に送られた時、このカードを休息状態で後衛に効果召喚することが出来る!」
ムキー! という泣き声と共に、地面から怒りの表情を浮かべた黒い猿が現れる。その身体中には至るところに傷があった。
「更に、現代魔法『強靭な向かい風』を発動!
このカードは、相手フィールド上に存在するモンスター一体を手札に戻すことが出来る。お前の盗賊団の下っ端には手札に戻って貰うぜ!」
盗賊団の下っ端が吹き荒れる向かい風によって舞い上げられ、粒子となって奴の手札に戻って行く。
「だが、そんなものは無意味だ!」
「それはどうかな?」
「何ぃ! なぜ貴様が俺の真横に付いている!?」
奴が慌てたように横を凝視した先に、俺が居た。
「スリップストリーム現象って言ってもわかんねぇよな。お前が向かい風を受けている間、俺はお前の真後ろに付いてその風をやり過ごしたって訳だ。そして!」
俺の声と同時に、奴を抜き去る。
二枚の現代魔法を使った理由はこれだ。
まず、カタパルトで奴の馬のスピードを落とし、向かい風で更にスピードと体力を落とさせたということだ。
これは馬に乗って行うコントラクトモンスターズだ。ならば、こんな妨害方法もあるんじゃないかって思ったのさ。
「これで、次のターンに二枚ドローはさせない!」
「ふん! 二枚ドローが無くとも問題無いわ!」
これは、奴の正体不明な不正を防止するためでもある。
「まだだ、更に、現代魔法『ツインドロー』を発動! デッキからカードを二枚ドロー!
そして、ランク3『ワイルドベアー』を召喚!」
恐らく、俺に一番なついているであろう、見かけ倒しな熊が俺の真後ろを走ってる。
しかし、コイツは効果を持っていないバニラモンスターだ。この場面ではあまり役に立たない。
「俺はセットゾーンにカードを一枚セットしてターンエンドだ!」
現状、互いの手札は二枚だが、モンスターの数は、向こうのほうが圧倒的に多い。
さぁ、どう出てくる……。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズで全てのモンスターを活動状態に! ムーブフェイズをスキップ!」
ん? あれだけのモンスターが居ながらモンスターを前線に出さないのか?
「そして、コールフェイズ。俺は盗賊団の斥候三体と、強襲部隊三体を休息状態にし、ランク6『盗賊団の首領ガンダー』を追加召喚!」
盗賊団の雄叫びと共に、茂みの中から黒いマントをひるがえす二メートル程の大男が現れる。
恐らく、これが奴の切り札だろう。一体どんな効果を持っているんだ?
「行くぞ、小僧! ガンダーの永続効果により、俺のフィールドに存在する全ての盗賊団となのついたモンスターは、俺のターンのみムーブフェイズを経由せずに、数の制限無く移動させることができる!
よって、俺は全ての盗賊団を前衛に移動!」
ガンダーが斧を掲げると、盗賊団は嬉々として前線へと向かう。
この効果、普段ならあまり大したことの無い効果だが、奴のフィールドにいるモンスターの数が多い今、その効果は恐ろしいものになる。
「俺はこれでターンエンドだ。どうだ! これが俺の必勝コンボだ! もう貴様に勝ち目は無い!」
奴の言う通り、大量のモンスターで攻め立てれば、相手はひとたまりも無いだろう。
だが、不正の上に成り立っているコンボなんて必殺コンボじゃない!
「俺のターン。ドロー! 更に、俺が前にいるため、一枚ドロー!」
このカードは……!
「スタンドフェイズ及びムーブフェイズをスキップ! そして、コールフェイズ!俺はランク3『マッハイーグル』を召喚!
だが、マッハイーグルの効果は使わない」
ぴゅーい! と可愛く鳴くマッハイーグルも、今回は俺の横で飛んでいる。
何故マッハイーグルの効果を使わなかったのかにも、理由はある。
「俺はセットゾーンにカードを一枚セット。これでターンエンドだ!」
確かに、お前のコンボは脅威だ。だが、お前には足りない物がある。それをこのターンで教えてやるよ!
「いかなる手を打とうと、俺の必殺コンボの前では無力! 俺のターン! ドロー! スタンドフェイズで全てのモンスターを活動状態に!
ムーブフェイズ、コールフェイズをスキップ。そして、アタックフェイズ! 行け! 盗賊団の斥候、強襲部隊、見張り番!」
奴の号令で、合計九体の盗賊団が俺に襲いかかる。
あまりの衝撃に、思わず赤兎馬の手綱を手放してしまった。
一瞬の浮遊感の後、激痛と共に地面に叩きつけられる。
「ぐっ……! おおおおォォォ!」
打撲でもしたのだろうか肩がめちゃくちゃ痛い。
赤兎馬が急いで俺の元へ駆け寄り、背を低くして乗りやすいようにしてくれる。
その間にも、奴は俺を抜き去り、下卑た笑みを浮かべながら
「ははははは! 行け! ガンダー! 小僧に止めを刺せ!」
轟! という音と共にガンダーの斧が、俺に降り下ろされる!
馬上戦特別ルール
ゲームが開始されて、一定の時間経過時に、より前に進んでいるプレイヤーから先攻となる。
より前に進んでいるプレイヤーは、ドローフェイズ時に、通常のドローに加えてもう一枚カードをドローすることが出来る。
第12話終了時点での両者のフィールド
翔
ライフ:1
手札:0枚
フィールド:セットカード1枚
(前衛)
なし
(後衛)
ランク3 アヴェンジャーモンキー
マッハイーグル
ワイルドベア
デッキ:31枚
盗賊団の団長
ライフ:9
手札:2枚
フィールド:
(前衛)
ランク6 盗賊団の首領ガンダー
ランク2 盗賊団の斥候×3
盗賊団の強襲部隊×3
盗賊団の見張り番×3
(後衛)
なし
デッキ:27枚