第11話~旅立ちの朝~
まだ日の出には少し早い早朝に俺はローゼン村の入口に立っていた。
村には深い霧が立ち込めていて俺の姿を隠してくれている。
服装も、おばちゃんから借りていた服から、この世界に来たときに着ていた、学校のブレザーを着ている。
今日でこの村に来て八日。つまり、今日でこの村を去らなければならない。
ローゼン村の皆は優しいから、ずっとこの村にいてほしいと言ってくれるだろう。
でも、それじゃあダメなんだ。俺は、不本意ながらも電波神に邪神を倒すように依頼を受けている。
それに、皆の顔を見て、別れを言うのも辛い。
「……ランク3『疾風の赤兎馬』を召喚」
デッキから一枚のカードを取りだし、それを天に掲げる。
僅かな赤い光と共に、俺の目の前に、血のように赤い毛並みのサラブレッドが現れた。
赤兎馬にはあらかじめ馬具が取り付けてあり、乗るだけで後は赤兎馬が勝手にスピードを調整してくれるだろう。
目的地はトリスタン王国の首都トリスターニャだ。そこまでの道のりも、昨日の祭りの時に聞いている。
「……さよなら」
最後にそう呟いて赤兎馬に乗ろうとした時
「行くのか? ショウ」
背後から誰かの声がする。
まさかと思って振り返ると、やはりハリスさんだ。
「えぇ。昨日で一週間経ちましたから」
「そうか。それなら何も言うまい。お前さんの旅じゃからな。だが忘れるでないぞ、ローゼン村の皆はお前さんの事を家族同然と思っておる事を」
何故だろうか。俺の頬を透明な液体が伝う。
この時俺は、人の暖かさというものを、今までに無いくらい感じていた。
「それとこれは忘れ物じゃ。受け取りなさい」
と言われて手渡されたものは、小さな袋だった。
開けてみると、中には何枚もの金貨が詰まっている。
「一週間分の給料じゃよ」
金銭感覚に疎い俺でも、この数の金貨は絶対に一週間分の給料なんかじゃないことぐらい分かる。
多分、ローゼン村にある全てのお金をかき集めて来てくれたのだろう。
「あとこれは酒場のおばちゃんからじゃ」
さらに渡されたものは、手製の大きな鞄と、その中に脛までのズボンと、麻の服がそれぞれ三着ずつ、それに、パンが五つある。
「ありがとう……! ありがとう……!」
たった一週間の滞在なのに、なんで皆こんなに優しいんだよ……!
俺は、村の皆に涙で顔をグシャグシャに濡らしながら、ただただ感謝した。
「それじゃ、行ってきます」
涙を裾で拭い、赤兎馬に跨がって、トリスターニャへと進みだす。
見れば山から太陽が、頭を出していた。
☆★☆
「ふぅ~。ここらで休憩するか」
ローゼン村を出て、どのくらい経ったのだろうか、俺は道の横を流れている川のほとりで腰を下ろした。
ローゼン村からトリスターニャまで、早朝に出発すれば昼前には到着するらしいので少し余裕がある。
さっき気づいたのだが、どうやらモンスターを実体化というものは、契約者の体力を使って継続されるようだ。
現に、さっきからただ馬に乗っているだけなのに、まるでマラソンをしたかのようにヘトヘトだ。
「ぷはぁ! 美味い!」
それに、なんといっても川の水の美味いこと美味いこと。
地球だったら、山奥の秘境にしかないような味だ。
赤兎馬も飲むのかなと思ったんだが、全く飲む気配がない。
こんなに美味いのにな。
そのまま木陰でしばらく涼んで、またトリスターニャに向けての旅を再開した。
もうちょっと涼んでいたかったが、いつまでも休んでいるとトリスターニャにはたどり着けそうもないので我慢だ。
だが、さっきから気になっていることがある。
妙に後ろから気配を感じるのだ。
その疑問に答えるように、茂みから出てきたのは――
「ヒャッハァー! 俺達は無敵の盗賊団! おとなしく持っているものを全部渡せ!」
――普通の馬に乗ったモヒカン頭をした、バカ丸出しの盗賊団だった。
しかし、その数十人程、いかに奴等がバカでも数が揃えばかなりの脅威になる。
俺が相手じゃなければな!
「俺は、現代魔法フレイムトルネードを発動!」
突如、目の前に真っ赤に燃える火災旋風が盗賊団を襲う。
正当防衛だから問題点ないね! まぁ、過剰防衛な気もするけど。
「ぎゃああああああ!! 熱いいいいいい!!」
熱さに耐えきれずに何人かが落馬する。
一応炎の威力は低くしてあるから死にはしないだろう。
しかも、発動が終われば炎は跡形もなく消える。
後に残るのは軽い火傷を負ったものや、落馬による骨折をした盗賊達だ。
しかし、幸運なことに火災旋風に巻き込まれなかった盗賊達は涙眼になりながら、茂みの方を振り向き
「ボスゥゥゥゥ! 助けてくだせぇ!」
と叫んだ。しかし、反応は無い。
というか、これ以上面倒なことに関わる暇も無いのでさっさと逃げようと思ったのだが
「お前か? 俺の部下を苛めたのは?」
なんと、俺の正面から、全長三メートルはありそうな巨大な黒馬を乗りこなすスキンヘッドの男が現れたのだ。
もうやだ。何この世紀末状態。
「ほぅ。さっきの炎を見て察するに、貴様真の契約者だな。俺は、部下を苛める奴は徹底的にぶちのめすが、契約者とあれば話は別だ。
俺は金と女とレアカードが好きでな。契約者が、居ると奪っちまいたくなるんだよ。
だから、俺とコントラクトモンスターズで勝負しろ。そうすれば、さっきのことは見逃してやろう。但しお前が負けたら金とデッキはもらうぜ」
と盗賊団のボスは理不尽極まりない勝負を挑んできたのだった。
ほんと決闘脳だよなこの世界の人って。
だが、おもしろい。やってやろうじゃないか!
「いいぜ、勝負してやるよ。
だが、どうする。ここでやるのか?」
「何を言っている。貴様も馬を持っているのなら、馬に乗りながらに決まっているだろう!」
「馬に乗ったままコントラクトモンスターズだと!? ふざけやがって!」
何が悲しくてラ〇ディングデュ〇ルする必要があるんだ。
それに、赤兎馬は今、実体化していて手元にいない。つまり、デッキの枚数が三十九枚しかないのだ。
まぁ、グリフィーのデッキからカードを拝借するので問題ないけどな。
「どうする。怖じ気づいたか?」
このままだといっこうに話が進まなさそうだ。
「仕方無い。その条件を呑もう」
そう言って俺は、赤兎馬に跨がった。
「馬に乗ったか。ならば、始めようか!」
ボスは黒馬を鞭で叩き、黒馬を急発進させる。
「頼むぜ、赤兎馬」
赤兎馬は任せろ!と言いたいのか、尻尾をぶんぶん振って加速を始める。
目も薄くしか開けられない高速の世界の中で宣言をする。
「「誓いを此処に(コンストラクション)!」」
またデュエルパートに突入しましたが、手短に済ませたいと思います。