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第10話~祭りと龍と陰謀と~

「ん……」


 うっすらと視界に広がったのは、木製の天井だった。

 おかしいな。遺跡の天井は石だったはずなんだけどな。


「痛っ……」


 何気なく頭を触ると、こめかみの当たりに痛みが走る。


 そういえば、ガーゴイルの魔像の攻撃を頭に食らったんだったけな。

 どうも、その辺の記憶が曖昧だ。

 最後に覚えているのは、アドバンテージシールドを発動した少し後までで、そこから先は全く記憶が無い。


 さっきの勝負、俺はどうなったのだろうか。


「おぉ! ショウが目を覚ましたぞ!」


 少し遠くから誰かの声が聞こえたような気がする。

 しかし、それは気のせいではなく、声が聞こえたすぐ後にたくさんの人が俺の元へ押し掛けたのだ。


「すげぇなショウ! まさか王国の騎士団長を倒しちまうんだからな!」

「それに、伝説のデッキを使ったんだろ!」

「英雄だ! お前はこの村始まって以来の英雄だ!」


 たくさんの人はみんなローゼン村の村人だった。

 とうやらここはローゼン村の酒場にある、俺の借りている部屋らしい。


 もみくちゃになりながらも取り合えず、村のみんなを落ち着かせて話を統合すると


 中々、俺とハリスさんが帰ってこないので、処刑覚悟で村の遺跡に乗り込んだ所、そこには気絶したままのハリスさんと、赤い巨大な龍を操る俺と、腰を抜かしているグリフィーとその部下達だったんだとか。

 そしてそのまま、俺が赤い龍でグリフィーに勝ったと。


 はて、赤い龍? そんなモンスターを出した覚えが無いんだが。


「そういえば、グリフィーはどこいった?」


「あぁ、それなら村の広場に拘束したまま放置してあるよ」


 どうやって拘束したのかは知らないが、放置プレイはまずいだろ。


 取り合えず様子を見に行こう。


 けがをしていたのは頭だけで、体にはそれほどダメージは無かったので、すぐにベッドから起き上がって外へ出た。


 外へ出ると、太陽は地平線に沈みかけている。

 久々に日の光を浴びたような気がして、すごく眩しい。

 周りを見ると、祭りの準備は殆ど終わったらしく、工具で散らかっていた地面も片付いていた。


 目的の広場は、酒場から歩いてすぐの所にある。

 そこには――


「どうして……俺が……」


 ――虚ろな目で何かを呟きながら簀巻きにされているグリフィーとその部下達の姿だった。

 その姿は、軽蔑を通り越して哀れに感じる。


「おーい。生きてるか?」


「……あぁ」


 俺の問いかけにグリフィーはふてぶてしい声で返事をする。

 なんだコイツ。負けたくせに随分と偉そうじゃねぇか?


「お前。俺と戦う前に誓ったよな? 俺が勝ったら何でも言うこと聞くって?」


「……誰が貴様の言うことをなど」


 そう言って、反抗的な態度を取るグリフィーだが、次の瞬間。


「あがぁぁぁぉぁァァァァ!」


 空は晴れているのにも関わらず、突如空から雷が降り注ぎ、グリフィーの体を直撃する。

 グリフィーは、まるで打ち上げられた魚のように全身をひくひくと痙攣させながら悶絶していた。

 え、何これ? どういうこと?

 俺の目には、グリフィーが俺の要求を拒否した途端に雷が落ちてきたように見えたんだが。


「おい、さっきの雷はなんだ?」


 グリフィーの顔を数発叩いてグリフィーの意識を強制的に戻し、さっきの雷を説明してもらう。

 さっきの雷で抵抗することに懲りたのか、グリフィーはぼそぼそと語りだした。


「戦う前、互いに約束をしただろ。俺が勝ったら貴様のデッキを奪い、貴様が勝ったら言うことを何でも聞くといった具合にな。

 そして、ゲーム開始の合図として、誓いを此処に(コンストラクション)! と言うとその約束は強制力のあるものへと変化する。

 だが、その約束が履行されない場合は、ああやって罰が下される」


 それじゃあ、カードゲームで物事が決まるっていうよりもカードゲームで無理矢理従わせているような気がしてなら無いんだが。

 とはいえ、勝ったのは俺なので、俺の言うことを何でも聞いてもらうがな。


「何でも言うことを聞かないといけないんだろ。それじゃあ、お前のデッキを没収だ」


 と言って、グリフィーの傍らに置いてあったデッキケースを取り上げる。

 コイツが真っ当な契約者(コントライナー)なら、命と同じぐらい大事なデッキを取り上げられるのは相当堪えるだろう。

 それに、拘束を解いた瞬間に襲われたりしたら敵わないからな。


「さて、次だが」


「ま、待ってくれ! 要求は一つだけじゃないのか!?」


「はぁ? いつ俺が要求は一つだけと言った?」


「き、貴様ァ!」


 聞いてないお前が悪い。


「第二の要求と言っても最後の要求だが、帰れ。もう二度とこの村と伝説のデッキに関わるな。破ったら分かってるよなぁ?」


 出来る限りの悪人顔で、拘束を解きながらグリフィーに微笑む。

 それにビビったのか、グリフィーは妙に上ずった声で


「はい! すぐに引き上げさせて貰います!」


 と言って、グリフィー達は馬に乗ってすぐに帰っていった。

 逃げ足早いな……。


 グリフィー達が帰ってから少しして、村のみんなが広場に集まる。

「いいのかショウ? 奴等を逃がして?」


「あぁ。敢えて逃がせば、この村に更なる追っ手が来なくて済むだろ」


 というのは建前で、正直に言うと殺すのは忍びなかったからだ。

 まぁ、建前もさっき思い付いたものなんだけどな。

 それに、まだやらなければならないことが残っている。


「さぁ。祭りの準備を再開しよう!」


 その日は祭りの準備に終わり、次の日を迎えた。


「白の女神様。今年もたくさん収穫出来ました。ありがとうございます」


 朝靄の中、村の広場にこしらえた祭壇にハリスさんが今年の実りに感謝し、収穫した物の一部を祭壇に供えた。

 というか、あの電波神に祈りを捧げても良いものなのか? 絶対テキトーに聞いてるぞアイツ。


「さぁ、祭りを始めよう!」


 ハリスさんの宣言と共に祭りは始まった。

 そこからは、大人は酒を飲み、子ども達も食事を取りながら笑いあっている。


 俺は、広場の隅っこに腰を降ろし、自分のデッキを確認した。

 グリフィーと戦った時は、デッキを確認する余裕が無かったからな。

「うげ……なんだこのカード」


 一枚のカードを見て呟いてしまった。

 カードの名前は『炎獄覇龍(えんごくはりゅう)パージ』。赤い龍が描かれているカードだ。

 多分このカードが昨日の戦いでグリフィーに止めを刺したカードだろう。

 しかし


「なんだよ。自分のライフが三つ以下の時のみ、ランク1『炎獄覇龍(えんごくはりゅう)の巫女を含む合計ランクが10以上になるように墓地に送った時のみ召喚(コール)可能って、とんだロマンカードじゃねぇか……」


 その分効果は強力すぎるのだが、普通のデッキに組み込むにはリスクが高すぎる。

 上手にライフ調整をしないと、効果を最大限に発揮できないし、下手をしたら負けてしまう。

 このカードを使いこなすには、このカードの専用デッキが必要になることだろう。


「……抜こう」


 そう思ってパージをデッキケースから出そうとしたら。


(ほぅ……いい度胸だな少年。我を抜こうなどと考えるとは)


 は!? 今、頭の中から声が聞こえてきたぞ!

 しかも、地の底から響くような低い声で。


「お前は誰だ?」


(我か? 我が名は炎獄覇龍パージ。貴様ら人間の言葉で表すならば、カードの精霊といったところか)


 なんと、カードの精霊ですか。

 カードの精霊と言うと、もっと愛らしいモンスターだったり、痛みが愛だとか言っているモンスターかと思っていたんだが、喋るドラゴンかよ。


(全く、貴様というやつは。先程の戦い、意識を失った貴様に代わり、勝利を納めた我に対しての仕打ちがそれとは、あまりにも割りに合わないではないか)


「何だと?」


 まさか、記憶がないのに勝っていたのは、コイツが俺の代わりにグリフィーと戦ったからだと言うのか。

 にわかに信じがたいが、そうじゃないとつじつまが合わない。

  だとしたら俺は、コイツが助けてくれたにも関わらず、その恩を仇で返しているようなものじゃないか!

  仕方ない


「分かった。お前をデッキに入れるよ。これで貸し借りは無しだからかな」


「それで良い」


 なんだコイツ偉そうだな。


「おーい。ショウ! 何やってんだ。飯食わないのか?」


「ん? あぁ、行く行く」


 その後俺は、飯を食べたり、グリフィーとの戦いのことをみんなに語ったり、村の皆相手にコントラクトモンスターズ二十連戦などをして過ごした。


 こうして祭りの夜は更けていく。


 ☆★☆


 ショウが祭りに興じている同時刻。トリスタン王国の首都トリスターニャにそびえ立つ王の城に、一人の男が王の元へ連れてこられていた。

 王、トリスタン七世は、玉座に頬杖を付きながら鎮座しており、その顔からは不機嫌の色が色濃く出ている。

 連れてこられてのは、金髪を刈り上げた大男、グリフィーだった。


「成る程。貴様は、伝説のデッキを手に入れようとしたら、それを少年に掠め取られ、挙げ句にデッキを賭けた戦いに敗北したということだな」


「はい、その通りでございます」


 グリフィーの額には大粒の汗が出来ており、足は自然と震え、呼吸も乱れている。

 ただ、最悪の事態にならないために心の中で祈るのが精一杯だった。


「貴様! 余が取ってこいと命じたデッキを取ってこれないとはどういうことだ!」


「申し訳ありません!」


 トリスタン七世の怒りに、グリフィーはただ耐えるしかない。


「もういい。貴様の顔など見たくもない! 死刑だ!」


 グリフィーの顔が絶望に染まり、呼吸することもままならない。

 そう、これがグリフィーの最も恐れていた事態だ。

 前王が死去してから三年。トリスタン七世は正に暴君と呼ばれる政治を取っていた。

 何でも自分の思い通りにならないと、すぐに逆上し、気に入らない者を容赦なく断頭台に送る子供のような王だ。

 しかも、絢爛豪華な調度品やレアカードを賄うために、民からは理不尽な程に高い税金を取り立てる。

 国民は重税の苦しみと、逆らったら即死刑という恐怖に怯えきり、大臣は死なぬ様に、ひたすら王に媚びを売るようになっていた。


「待って下さい王y」


 最後まで台詞を言うことが出来ずに、グリフィーは手錠をつけられ連れていかれた。


 グリフィーが連れていかれた後、王は腹立たしげに玉座を叩き


「何故だ! 何故覇龍のカードは余の物にならぬ!」


「お困りですかな王よ」


 王の隣に突然現れたのは、黒いローブを身に纏った男だった。


「おぉ、神官殿! 実は先日そなたが申しておった覇龍のカードを手に入れようとしたのだが、それを何者かに奪われてしまったのだよ」


 トリスタン七世は神官と呼ばれた男に話し始める。

 王は、心の底から神官を信頼している。

 なぜなら、今まで彼の言うことを参考にしていれば、何事もうまくいったからだ。


「あぁ、ローゼン村の件ですね。私の占いにも、そう預言がありましてな、さっき対策を打っていたのですよ」


 それを聞いた王は安心して


「そうか! そうか!それなら安心だな」


 神官は、笑う王に見えない角度で邪悪な笑みを浮かべたのであった。














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