第8話~戦い③~
暴力的な量の光が収まったのを確認し、ゆっくり目を開けると、そこには、光の輪が、俺の前衛のモンスター達を拘束している光景があった。
「なんだ……これ……」
突然の事態に、開いた口が塞がらない。
「俺は古代魔法『スパークバインド』を発動していた! このカードは、相手の攻撃を無効にし、相手の前衛に存在する活動状態のモンスターを全て、休息状態にする効果だ!」
グリフィーの有り難くもない解説が入る。
だから発動を宣言しろよ!
それは置いておいて、俺のモンスターが動けないということは即ち、次の奴の攻撃を止める全てが無くなってしまったということだ。
地雷を踏んでしまった。
思わず、背中から冷や汗が伝う。
「ターン……エンドだ」
このターンではやってしまったが、まだ希望はある。俺のライフは八つ。
そう簡単に奴が八つのライフを削れるとはとても思えない。
それに、このターンさえ凌げば、次のターン。俺は後衛のモンスターを可能な限り前衛に出して総攻撃すれば、奴のライフを削り切れる。
だから、諦める訳には行かない。俺が負けたら、グリフィーは宣言通り、村の皆を皆殺しにするだろうから。
「そうか! なら、俺のターン。ドロー! スタンドフェイズで全てのモンスターを活動状態に、ムーブフェイズで、死屍者カプリシオ、冥府の番犬、ガーゴイルの魔像を前衛へ!」
ついに、満を持して奴が動き出した。
さぁ、来るなら来い!
「コールフェイズ。俺は、現代魔法『ツインドロー』を発動し、二枚ドロー!」
やっぱり持っていたかツインドロー。
いくら制限カードとは言え、このカード次第で逆転したり出来てしまうからな。
これで奴の手札は四枚となった。
「更に、俺は発動条件として、後衛に居るガーゴイルの魔像を墓地に送り、現代魔法『ソウル・サクリファイス』を発動する。
このカードは、自分のフィールドに存在するモンスター一体を選択する。選択されたモンスターはツインブレイクとなり、発動条件として墓地に送ったモンスターの元々のBPを追加することが出来るカードだ!」
マズいな……。このカードは普段ならモンスター一体を生け贄にするくらいなら、二体で殴ったほうがマシだったりするような、所謂アド損カードだ。
そんなこのカードを採用しているのは、恐らくこのカードを採用する意図がどこかにあるからだ。
「俺は前衛のガーゴイルの魔像を選択。これで、ガーゴイルの魔像はツインブレイクとなり、BPは9000となる!」
この言葉に俺は違和感を感じた。
「ちょっと待て。ガーゴイルの魔像のBPは8000じゃないのか!」
元々のBP3000と生け贄にしたガーゴイルの魔像のBP3000とデーモンズサンクチュアリの効果でBPプラス2000で合計BPは8000になるはずだ。
「知らんのか?死屍者カプリシオの永続効果により、全ての悪魔はBPプラス1000されていることを!」
「ンなもん知らねぇよ!」
チクショウ。なまじ距離が離れているからテキストの確認も出来やしない。
「さて、伴奏は終わり、ここからが本番だ! アタックフェイズ! 死屍者カプリシオで攻撃! 『デストロイ・ラプソディー』!」
カプリシオが指揮棒を振りかざすと、地面が不自然に膨らみ、それが限界に達すると、地面を突き破り、そこから腐肉を撒き散らすゾンビが三体這い上がって来た。
ゾンビ達は俺を見つけると、映画やゲームなどとは比べ物にならない程の猛スピードで襲いかかって来る。
「がッ!」
両足と、カードを握っていない左手に激痛が走る。見れば、ゾンビ達が痛む所に噛みついていたのだ。
痛みで意識が持っていかれそうになる。
「カプリシオはトリプレットブレイクを持っている! よって貴様のライフを三つ削るぞ!」
さすがライフ8と言うところか……。
これで、俺のライフは八から五へと一気に減ってしまった。
「まだまだ行くぞ小僧! ガーゴイルの魔像と冥府の番犬で攻撃! 更に、ガーゴイルの魔像はツインブレイクとなっている! この攻撃を受けきれるか小僧!」
ガーゴイルの魔像から放たれる一撃がさっきよりも遥かに重い。
更に、今回は冥府の番犬という、まったくいらないオマケも付いている。
しかし
「残念だったな! まだ俺のライフは二つ残っているぜ!」
やはり、このターンで削りきるのは不可能だったわけだ。
しかし、グリフィーは、俺を嘲笑うかのように口端を吊り上げ
「何を勘違いしているんだ?まだ俺のアタックフェイズは終了してない!」
「は!? 何言ってんだ? もうお前のモンスターは全て攻撃を終了したじゃないか!」
やってしまった。死亡フラグを建ててしまった。
「俺は死屍者カプリシオの効果発動!一ターンに一度、手札を二枚まで墓地に送り、墓地からランク3以下のモンスターを墓地に送った手札の枚数だけ前衛にこのターンだけ復活させる!但し、復活させたモンスターの効果は無効となり、種族も悪魔となる。奏でよ『サイレント・メロディー』」
グリフィーの墓地に居るランク3以下のモンスターは、丁度二体居る。
デーモンズサンクチュアリの発動条件で墓地に送られたスケルトンナイト。
ソウル・サクリファイスの発動条件で墓地に送られたガーゴイルの魔像。
まさかソウル・サクリファイスを採用した理由が、モンスターを墓地に送ることだったとは。
グリフィーの奴そこまで考えて……!
「さぁ蘇れ、スケルトンナイト! ガーゴイルの魔像!」
カプリシオが指揮棒を振ると、ゾンビ達と同じように地面からスケルトンナイトとガーゴイルの魔像が現れる。
「行け!ガーゴイルの魔像!」
ガーゴイルの魔像は、台座で、俺の頭を殴りつけた。
猛烈な痛みと共に頭痛と吐き気が起きる。
それと同時に、俺の頬を生暖かい液体が伝う。
きっと、俺の側頭部から出たのだろう。
意識は朦朧とし、体の軸がぶれまくってどこに足が付いているのかさえもわからない。
「終わりだな小僧! 行け! スケルトンナイト!」
しかし、スケルトンナイトは主人であるグリフィーの命令を聞かず、その場に立ち尽くしていた。
「なにぃ!」
それもそのはず
「俺は……古代魔法『アドバンテージシールド』を発動……。このカードは自分と相手のライフ差×1000ポイント以下のBPを持つモンスターはこのターン。攻撃出来なくする……」
前にセットしておいたのがこのカードだ。
俺と奴のライフ差は6。つまり、BP5000となっているスケルトンナイトは攻撃出来ない。
グリフィーは強く、俺を睨み付け
「俺の必殺技コンボを防いだからと言うだけで調子に乗るな小僧! たかが貴様の命が一ターン延びただけだ!
俺はデーモンズサンクチュアリの効果で、スケルトンナイトを休息状態に、して一枚ドロー。更に、カードを一枚セットしてターンエンドだ!この時、二体のモンスターは墓地に戻る!」
二体のモンスターが砂と化して崩れ落ちる。
奴の手札は二枚。つまり、俺の攻撃時、二体のモンスターで防ぐことが出来るということだ。
対して、俺のモンスターは前衛に出せるだけ出しても、七体が限界だ。
確実に奴はツインブレイクを持っているハルペーをブロックしに来るだろう。
たとえ次のドローで、速攻を持っているモンスターを引いても奴のライフをゼロにすることは出来ない。
万事……休す……か。
さっき頭を殴られて、今まで耐えていたが、限界のようだ。
ピンと張った細い糸がハサミで切られるように
俺の意識は闇へと落ちて行った。
第8話終了時点での両者のフィールド
翔
ライフ:1
手札:3枚
フィールド
(後衛)
ランク3リザードランサー
ワイルドベア
マッハイーグル
マグマザウルス
(前衛)
ランク5 龍騎士ハルペー
ランク1 フレイムサーペント
ランク2 月下狼×2
デッキ:22枚
グリフィー
ライフ:7
手札2枚
フィールド
デーモンズサンクチュアリ(世界魔法)
(前衛)
ランク8 死屍者カプリシオ
ランク4 冥府の番犬
ランク3 ガーゴイルの魔像
(後衛)
ランク3 ガーゴイルの魔像
ランク2 闇夜の亡霊
デッキ:28枚