好きになった理由は曖昧
「あれ、春夏秋冬ちゃん、今日化粧バッチリじゃない!もしかして、デート?」
何故、年配の方は、自分よりも下の者の化粧をが変わっただけで、接客をする時よりも1オクターブ程声が高くなるのか疑問であった。
美影はまさか彼氏にしてもらったなどと言えず、笑ってごまかし乗り気ようとした。
「じゃあ、今日は早めに切り上げなくちゃね!」
デートなどないが、早上がれるのなら黙っておこうと思った。
帝は外見も中身もかっこいい。生徒にも先生にも好かれている。それに比べて自分は、日の当たらない中で、ただ黙々と人に着付けては、上の者から細かな部分の注意を受けては、また着付ける。大変で、辛く思えるけど、気付けは楽しい。一本の帯で色々な形を作り、それが綺麗に完成している、心が満たされ、次のを覚えようと思えてくる。奥に入れば入った分、やはり光は照らしてくれない。
学生の頃は、目立たないようにし誰からも目をつけられないようにしてきた。そう、卒業生Aとして学校を終えていた。
学生の頃、全く男性がいなかったわけではない。それなりの恋愛をし付き合ったりもした。だが、長くは続かなかった。恋愛で付き合ったのに、いざ実際に付き合うとなると、彼女の【悪癖】が出てしまう。
年齢で言えば1才から3才に見られる傾向である。どんなに楽しいく夢中になっていても、本当に直ぐに飽きてしまい、放り投げ、それにはもう一切手を触れない。そう、美影の悪癖は飽き性というものだ。凄い勢いでハマっても、僅か数日で飽きる。1人目の彼とは、たったの4日、2人目の彼とは続いても4ヶ月であった。繋がれば引き離したくなる。
飽き性というのを【悪癖】と使うのは間違っているように思えるが、美影の場合、癖づいているのだ。
どうせ、直ぐに飽きる。自分を【飽きる】という方向へ持っていく癖。近づき、そばにあるものを突き放したくなる癖。
ー彼とは一緒にいたいー
それは、外見がいいから。
ー彼が好きー
どうせ直ぐに突き放したくなる。
ー彼は……どうして、私を選んだの?ー
……どうしてだと思う?
理解に苦しまされた。
お互い海外映画好きで、しかも面倒くさがりやな自分が初めて連日、仕事帰りに彼と会っていた。
大抵、美影は次の日が仕事だと遊びになど行かない。そんな彼女が帝からの連日誘いにのっていた。
「…それだけで好きになるのかな?」
「春夏秋冬ちゃんー。独り言終わったら、帰ろ〜」
それだけの理由で彼を好きになったんなら、それはそれでいい。けれど、逆に彼が自分を好きになってくれた理由、それは分からないまま1日が終わってしまった。