思い出話の後悔
「あれ…そう、なんて言ったんだっけ?」
「たしか、その頃やっていた映画の話をしたんだよ。それで今度見に行こうって」
マンション12階、2005号室、3LDK。広いリビングには42型のテレビに、食事用のダイニングテーブルと、普通の雑魚座りができる高さのテーブル。そのテーブルに2人の男女の会話が響いていた。
テーブルの角、いわゆるパーティー席に座る男性、東西南北 帝。その斜め向かいに座る女性、春夏秋冬 美影
2人はほんの2ヶ月前の話をしていた。
「美影が友達2人に両脇を掴まれながら来た時は、何事かと思ったよ」
「ああ。全力で逃げようと思ったよ…だって、仕事終わって帰ろうとしたら出入り口の所で、急に両脇をホールドされたんだよ!本当に怖かったよ」
今ではそれが笑い話しになっていた。
友人に拉致された後、何処かのレストランに連れて行かれた。急に連れて来られた彼女にとって内装など覚えていない。ただ、唯一覚えていることといえば、アンティークの柱時計が自分の趣味にマッチしたことくらいだった。
席は向かい合った感じに椅子があり片方の列には男5名。席に着いてからも、自分の置かれている状況を理解できていない美影は、ポーカーフェースの言葉なんて皆無かのように、不安の表情を浮かべていれば、帝にとってはそれが怯えた子犬に見えていたよだ。
あれは偶々だったのか、彼の目の前の席についたのが美影であった。
「自己紹介のとき、お互い珍しい名前と苗字だったからか、自然と話し合えたよな」
帝は黒縁眼鏡を磨きながら、遠い目をしながら語る。
東西南北と書き、よもひろ。春夏秋冬と書き、ひととせ。あまり聞かない、それも2人も居て、合コンで会うなんて事は、人生において‘奇跡’と言える言葉が似合うくらいだ。
「…ねえ、その眼鏡って度入ってる?」
「話し急に変えたな。まあ、入ってるよ。授業中や朝会がある時だな」
彼の職業は小学校の教師。若く、ルックスもよく、人当たりも良いからか、生徒からだけではなく他の教師からも評判がいい。
ーまるで、絵に描いたような完璧さだー
磨き終えた眼鏡を帝は彼女にかけてみる。
元から目の悪い彼女は普段からコンタクトレンズをしている為、度の入った眼鏡をかけられても逆に見えなくなるだけだった。
「かっこいい人って、眼鏡きけると倍増するよね」
「ハハハ!なんだよそれ」
自分はルックスも、人当たりも良い訳ではない、寧ろ彼の逆に近い。そんな彼が何故自分と?
それが毎日の疑問であった。
レベルの低い自分の前に現れた彼は、叶うはずもない理想の男性そのものであった。
1、180cmのイケメン
2、公務員(教師)
たった2つ。だが、居るわけがない。居ても自分には不釣り合いだ。…だが、それが笑える程容易に叶ったのだった。
「ああ、あと女装する時にも使うな」
ー…ああ。聞くんじゃなかったー
聞いて後悔した姿を出さまいと、俯きながら眼鏡を外した。