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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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復讐7

 岩本の別荘は山の中の豪華な別荘地だった。

 元はペンションをしていたらしく、豪華で部屋数も多く、テニスコートやプールさえある。だが管理がよくないせいか、さびれた感じがした。

「ずいぶん大きな荷物だな。それにバイクで来るなんて」

 と岩本が言った。

「来る道、バイクで走るのとっても気持ちよかったですよ」

 と私は言ってから、後ろにくくりつけてある大きな荷物を外した。

 これでもコンパクトにした方なんだけど。 

 バイクは250CCだ。私のような殺人鬼が乗っているとイメージダウンになると怒られるかもしれないので、車名は伏せる。オフロード車で、軽量で乗りやすいタイプだ。

 何故、バイクで来たかというと、逃げる時にこんな山の中じゃ自転車というわけにもいかないでしょう?

  

 別荘の中に荷物を運び込んだり、掃除したりしていると、岩本が、

「一人友達を呼んだからな。酒は十分にあるだろうな」と言った。

「はい」と私は答えた。

 別荘に早苗はきていない。入院している娘を置いてはこれないだろうし、来てもらっても困る。早苗を殺すつもりはないからだ。

 薫子はどうでもいいが、岩本を殺すのに邪魔ならばもしかしたら殺すかもしれない。

 困った。困った。


 この間、早苗と買い物をして戻ると薫子が珍しく家にいた。

 たかだかショッピングセンターの買い物袋を見て、

「パパが一生懸命働いてる時に自分は買い物かよ! この寄生虫!」と叫んだ。

 買い物袋の中身はそのパパの下着や酒や煙草や諸々の生活用品で、早苗の贅沢品は何一つなかったのだが。

 私はその時、黙っていた。

 早苗の為に薫子に投げかける言葉はいくらでも用意があったけれど、得意満面のこの顔をしばらく見ていたかったからだ。

 どこかで聞きかじったような陳腐なセリフを言い捨てて、言ってやった!みたいな顔が滑稽で仕方なかった。でも我慢できなくて、多分顔がにやついたんだと思う。

「何笑ってんだ! てめー、使用人のくせに」

 と私の方へ凄んで見せた。

「その使用人がいなくちゃ、パパと別荘行けませんけど、いいんですか」

 と言うと、なにやら叫びながら消えて行った。



 問題は岩本が呼んだという友達だ。

 岩本の友達なんかどうせろくでもないに違いないが、私もそうそう見境のない殺人鬼ではない。だけどその友達の為に岩本を殺すのを躊躇するかというと、しない。殺す。

 思案していると、一つの光明が見えた。

 やたらに薫子がそわそわし出したのだ。

 そして、貧相な胸に詰め物をして、チューブトップを着ている。へそをだして、お尻の肉が半分はみ出したショートパンツ。最近の若い子はいいわねぇ。足がすらっと長くて。

 薫子は綺麗な顔に綺麗に化粧をして、鏡を見ている。

 岩本が招いた友達は男で、比較的若く、薫子がお洒落して迎えようと思うくらいのいい男に違いない。

 その友達が来たら、薫子を誘って外に行けばいいのに。

 いや、絶対に散歩に行くだろう。

 岩本が私を舐めるような目で見ているのだから、私を味見する時間を作るように画策したに違いない。

 やがて夕暮れ近くなり、私は別荘の中をざっと掃除し終わった。

 管理人が用意してあった、バーベキューの用意を中庭に運び、火をつける。

 岩本は長いすに寝そべってすでにビールを飲んでいるし、薫子はつまらなそうに携帯をもてあそんでいた。

 炭が赤々と燃えだし、網の上に肉を置いたりしていると、一台の車が坂を上がって近づいてきた。

「来たわ!」

 と薫子が言った。

 四駆の外国車だった。派手なイエローで、やたらと横幅の広い車だ。

 それは中庭のすぐそばまで来て止まった。

 ドアが開き、思ったより若い男が降りてきた。Tシャツにジーパンで、ウルトラマンのようなサングラスをかけている。

 薫子が立ち上がり、

「アキラさん!」

 と言いながら、駆け寄って行った。 


「遅くなりまして」

 とアキラがサングラスを取りながら言った。

「待ってたのよ」

 と薫子が腕をからませる。

 私はトングを持ったまま、アキラを見つめていた。

「まあ、一杯やれよ」

 と岩本が言った。

「はい」

 アキラが私を見た。私達は一瞬、見つめ合った。

 十三年たっても、その男が私の弟のアキラだという事はすぐに分かった。

 アキラも私が姉だと分かったようだ。

「何、ぼーっとしてるのよ! アキラさんにビール、持ってきなさいよ!」

 と薫子が私に言った。

「自分で、取ってきますよ。荷物も置きたいし」

 とアキラが言い、

「荷物なんて女中に運ばせたらいいのよ!」

 と薫子が私を見た。

 もし、今、私の手にあるのが肉を掴む為のトングじゃなかったら、何か、先の尖った物だったら、それは薫子の顔に突きたっていただろう。

「はい」

 と私は返事をしてから、リビングの窓から中に入った。

「荷物置かせてもらうよ」

 と言いながらアキラがカバンを手に私の後ろからついてきた。

  

 私はキッチンへ行って、大きな冷蔵庫から缶ビールを出した。

 それを手に振り返ると、アキラが立っていた。 

「久しぶりじゃん、こんなとこで会うなんてさ」とアキラが言った。

「あんたを引き取った人間って岩本だったの?」

「ああ」

「へえ、岩本の愛人でもやってたわけ?」

「岩本さんは根っから女好きさ」

 身体中の血液が逆流する思いがした。

 私の子宮を一千万で買って食った男に、弟は引き取られ、そしてその男を、

「岩本さん」と呼んだのだ。


「どうしたの? 怖い顔して。本性が怖いんだから、せめて笑顔くらい見せたら?」

 アキラはけっけっけと笑った。その笑顔は、昔と変わらない。

「私を姉だと言わないでね。岩本に知られたくないの」

「ああ、岩本さんが昔、お姉ちゃんの子宮を食べた事とか?」

 どがっと音がした。私が缶ビールをアキラに投げつけたからだ。

 アキラは上手にそれをよけた。

「あーあ、床に傷が入ったじゃんか」

 床に落ちたビールを拾い上げて、アキラはまたけっけっけと笑った。


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