復讐3
ある日、母親が海外旅行から帰ってきた。
若い男と一緒だった。日に焼けた軽薄そうな男だった。
せまいアパートに上がり込み、じろじろと私を見た。
「次、どこ行くぅ?」
と母親が男に言った。
「金、あるのかよ。ハワイでも買い物三昧だったじゃん」
母親はきゃはははと笑って、
「あるあるぅ。ほら、あの医者のおっさんからすっごい大金せしめちゃったもんねぇ」
「脅迫でもしたのかよ」
「違うって、ちゃあんと買い物代金としていただいたの」
「へ? 何を売ったって?」
母親は私を見て、
「あの子」と言った。
「えー。子供売ったの? ひでえ、母親だよな」
「その為に生んだんだもん。せいぜい、稼いでもらわなくちゃ!」
「でも、中学生のバージン売ったって、今時、せいぜい五万くらいだろ?」
「違う、違う。一千万」
「え! まじ? 一千万って?」
「目当てはバージンなんかじゃないしね。もっと貴重なブツさ」
「?」
「子宮」
「?」
「岩本ってゲテモノ喰らいでさぁ。処女の子宮が食いたいんだってさ。それもまだ子供の未発達のやつが理想ってさ、変態だよねぇ」
「…お、お前、子供の内臓売ったのか?」
「一千万だよ?」
何がいけないの? という顔で母親は男を見た。
「ていうか、人間を食うって…」
「そういうの結構いるわよ。金持ちに限っておかしな趣味を持ってるもんさ」
男は顔をひきつらせていたが、
「お、俺、用事があったんだ。一回もどるわ」と言って帰って行った。
「何よ」
厚化粧で臭い香水をふりかけた女は大きな伸びをしてから畳に寝転がった。
「美里、荷物、片付けといて」
と言ってから、そのまますうすうと眠りだした。
私は母親の顔に灯油をかけた。ぴちゃぴちゃと音がして、紙コップから灯油が母親の顔にかかっていった。
「な、何よ!」
と言って母親が飛び起きる、その瞬間にはすでライターには火がついていて、私は母親の顔にライターの火を押しつけた。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーー」
もの凄い悲鳴だった。一瞬にして母親の顔は焼け焦げてただれ、異臭がした。
私は座布団でその火を消してやった。
転げ回る母親の顔を何度も座布団でたたいてやった。
顔の皮膚はやけただれ、真っ赤な肉が見えていた。
痛い、痛い、と泣き叫び、転げ回る母親の両腕と両足を縛り付けて、転がす。
瞼が焼け溶けてくっついていたので、
「お母さん、目がみえにくそうだね」
と、ハサミで母親の瞼を切除してやった。眼球がぎょろりと私を見た。
こんなに絶叫があがっても誰も様子を見にこないのは日頃の行いが悪いからだ。
この母親はいつだって、飲んだくれて、暴れて、暴言を吐いている。
人を見ればいいがかりをつけ、店先を通れば何か盗む。
こんな母親と血がつながっていると思うだけで吐き気がする。
でもあんまりうるさかったから、口にタオルを詰め込んやった。鼻があれば息は出来るから大丈夫だと思っていた。
っていうか、どうしてさっさと実行しなかったんだろう?
どうして今まで母親のいいなりだったんだろう。
うーうーと唸りながら転げ回っている母親を眺めながらそんな事を考えていた。
「私、痛かったよ。とっても。一千万って何? あの男が私の子宮を食べるって言ってた。高い買い物だったって言われたよ。どうして? お母さんの子宮を売ればよかったんじゃないの? お古だから売れなかったの? 二人も子供を生んだら、もう買ってもらえないの? あの男、子供の身体には興味ないんだって、処女はよそで高く買ってもらえってさ。私、赤ちゃん産めなくなったの?」
母親はぎょろっとした眼球で私を見た。
ただれた顔と異臭で気持ちが悪くなってきたので、トイレで吐いた。
泣きながらトイレで吐いた。
家の中にはハサミか包丁しかなかったので、使い慣れているハサミで母親の身体を切り刻んだ。柔らかい箇所を少しずつ切りながら、こんなに大人しい母親を見たのは初めてだと思った。所詮は学校で使う工作用の切れの悪いハサミだったので、手が痛くなって途中でやめてしまった。致命傷を与えるでもなく、うーうーとうなって芋虫のように這い回る母親が気持ち悪かった。
翌朝まで私はそうやって母親と過ごした。
翌日に母親の若い恋人がまたやってきた。
「母は出かけてます」
と言うとにやっと笑って、部屋の中に押し入って来た。
いつかも母親の留守に来て、私に抱きつこうとした。その時は母親がすぐに戻ってきたので、男は何もなかったような顔をして二人で出て行った。
母親は嫉妬深い女だったので、自分の恋人が私に話しかけたりすると、酷く怒る。
男の前ではやらないが、男が帰ると私を酷くぶったり蹴ったりした。
男が部屋に押し入ってきて母親に目をやる前に、私は男の後頭部を弟のバットで思いきり殴った。男が頭を押さえて、蹲ったのでさらにその上から頭を滅多打ちにしてやった。
すぐに頭が割れて血が流れた。よろよろっとよろけて、仰向けに倒れた。
顔面にバットを打ち下ろしたら顔の真ん中が潰れて変な顔になった。
居間に倒れたままの母親は私のする事をじっと見ていた。
瞼がないんだから、見たくなくても目を閉じようがないみたい。
母親が涙を流しているのは後悔の涙なんかじゃない。
ただ瞼がないから目を閉じようがなく、乾燥した目を潤す為に涙が出ているようだ。
焼けただれていて、なんだか腐ったような匂いもするから顔色もよく分からないけど、青ざめているもかもしれない。でも、この母親が私にした事よりはましな方だと思う。
やがて私は最後の仕上げをした。
いつまでもここで二人を眺めていても仕方がない。
身の振り方を考えなければいけないし、テストも近いしね。
「お母さん、私がこういう娘でよかったね。このままじゃ、いつか警察に捕まって刑務所行きだったよ。でもこうやって若い恋人と一緒に死ねるんだから、私に感謝してね。世間も私に感謝するよ。お母さんみたいなクズな人間を早々に始末してさ」
まだ耳は聞こえるらしく、抵抗するようにうーうーと唸った。
口のタオルを外してやると、
「お前みたいな娘、生むんじゃなかった!」と言った。
いや、正確には「お、おまえ…みらいなふすへ…ふむんしゃなかた」と聞こえたけど。
こっちこそお断りよ。