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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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殺人鬼VS芸術家4

「ようこそおいで下さいました」

 と私達を出迎えたのは、黒いスーツを着たひからびた老人だった。

 八百年くらい生きてるんじゃないかと思うほどにしわくちゃだったが、背筋はまっすぐだったので、雰囲気を出すためのメイクかもしれない。

 老人執事は一歩進んでうやうやしく頭を下げた。

「ご苦労さん、皆様、いらっしゃってるぅ?」

 とエイミが言うと、

「はい、皆様お揃いでございます」

 と答えた。

「この方達もお部屋にご案内して、アキラはエイミと一緒ねぇ」

「はい、かしこまりました」

 執事は私達を見て、

「どうぞこちらへ」

 と言った。

 ガラガラとカートを引っ張りながら執事の後について歩く。

 廃墟の玄関口はゴミに埋もれていたが、中に入ると素晴らしく整っていた。

 分厚い絨毯を敷き詰めて、並んだ調度品もアンティークだろう高級そうな品ばかり。

 ろうそくの明かりだけが部屋を照らし、壁から鹿の首がにゅっと突き出していた。

 鎧武者が立っていたので、中には誰かが入っているかもしれないわ、と思った。

「廃墟って外観だけなのね、中は綺麗じゃない」

 と私が言うと、先に立って案内していた執事が、

「こちらではお客様にくつろいでいただけるように十分配慮しております。もちろんご主人様の作品もご堪能いただけます」と言った。

「ふうん。ご主人様の作品ねぇ。あなたも早く逃げないと、ご主人様にあられもない格好にされて売られるわよ」

 私の言葉に執事は立ち止まって振り返り、にこっと笑った。


「しわくちゃなじいさんでも虜にするエイミの作品を理解できない私がおかしいの?」

 案内された部屋でカートの荷物を開けながら私がそう言うと、オーナーが笑った。

「演出だろ? 何が面白いのかは俺にも分からないよ。で、どうするつもりだい?」

「え?」

「食事の時間に下へ行くように指示された。そこでお客様とやらとご対面だが」

「実はあんまり考えてないの。計画的って苦手なんだもの。でも、あなたも身を守る物を持っていた方がいいわ」

 オーナーはカートの中に詰め込んできた、私のコレクションをのぞき込んで、

「凄いな、殺し屋みたいだ」

 と言った。

「殺し屋を揃えてるのは向こうでしょ。でも私の邪魔をするならみーんな殺してやるわ」

 

 パーティルームとやらは明るくて広かった。

 四方には大きなテーブルが設置され、食べる物と飲み物、食器やグラスが置いてあった。

 真ん中にはエイミの悪趣味な作品がいくつか展示され、それに群がるというほどでもないが二、三人のグループがいくつかあった。

 一番偉そうにしているのは山吹だ。四十を超えているらしいが、若々しい物言いで服装も洒落ている。だが、テレビでみるよりは老けていた。若作りの気持ちだけが空回りしている、という所だろう。

 周囲の者が皆でおだて上げるので勘違いしているのかもしれない。

「案外、背が低くて足も短いわね」

 と言うとオーナーが笑った。

 そこへアキラを伴ったエイミがやってきた。

 自分だけはスパンコールのパーティドレスに着替えていた。

 危機感のない女ね。

 そんな丈の長いドレスを着て、私から逃げられると思ってるのかしら。

 それとも、とっても足が速いのかしら。

「山吹さぁん」

 とエイミが甘ったるい声をかけると山吹とその周囲の男が振り返った。

「やあ、エイミ」

「ようこそいらっしゃいませぇ。今日もエイミの作品、堪能して行ってねぇ」

「もちろんだ。今も素晴らしいな、と話していた所さ」

 山吹が振り返った背後に置かれたエイミの作品はいつか映画で見たような品だった。

 椅子に座った人間。だが、その椅子は錆びた金属で突起がたくさんついている。突起に全身を串刺しにされた裸の男が座っていた。手首と足首を金属で拘束されて、血がしたたり落ち、苦悶の表情のまま固まっている。眼球が飛び出し、舌がべろんと出ている。

 死んでるのは間違いないようだ。

「腐らないように防腐剤でも入れてるの? 匂いもしないけど」

 山吹を初めとした客が私を見て、不愉快そうな顔をした。

「お姉様ったら、そんな質問は無粋だわ」

 とエイミも言った。 

「あら失礼、で、この後、これをどうするの? 馬鹿が買って帰って家に飾るの? これにいくら払うっていうの? 私なら一千万もらってもいらないわ。不燃ゴミにも出せないじゃない」

 むっとしたような空気が流れる。

 エイミは頬を膨らませ、アキラは横を向いてぷっと笑った。

「あなたは何故このパーティに来たのかな」

 と山吹が私に言った。

「あなたに会いに来たのよ。山吹さん」

 と私は答えた。

「それは光栄だな」

「お姉様はとっても腕のいいハンターなんですって」

 とエイミが言った。

「それは素晴らしいな。誰と契約を?」

 私は首を振った。

「誰とも契約なんてしてないわ。犬みたいにご主人様の命令を待ってるなんてあり得ない」

 と言って、山吹の背後の男達を見た。

 黒いスーツの男が三人。山吹のボディガードなのだろう。

 一人はにやっと笑い、一人は私を見下したような表情をした。

 三人目だけは表情を変えなかったが、ちらっと私を見た目が前の二人とは違った。

 人を殺す事を何とも思ってない人種だろう。

 他の二人と違い誰に対しても警戒している。

 雇われているプロの殺し屋はこの男かもしれない。    

「お姉様ったら、最初からはしゃぎすぎよ」

 と、エイミが言った。

「あら、だって山吹さんに会えるの、とっても楽しみだったんだもの。夜も眠れないくらいに」

 と答えると、山吹はまんざらでもないような顔をした。

 アキラとオーナーがそれぞれによそを向いた。


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