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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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20/25

殺人鬼VS芸術家2

「アキラ君、君はどうしたいわけ?」

 とオーナーがアキラに向かって言った。

「君の恋人は俊敏で手慣れてるようだ。気にいらない者を排除するっていう理屈は分かる。でも俺だって美里を殺されるわけにはいかない。美里は喜んで殺し合いに参加するだろうけどね。要は君がその彼女と一緒に帰ればいい話だろう? 誰も死なずにすむ」

 アキラはナイフとフォークをかちゃんと乱暴に皿の上に投げ出した。

「自分が一番、分が悪いって分かってんの? 藤堂さん」

 オーナーがアキラを見た。

「どういう意味だ?」

「美里がエイミを殺して、俺があんたを殺したらそれでお仕舞いって事さ。あんた、人を殺した事なんかないんだろ?」

「オーナーを巻き込んだら殺すって言ったでしょ!」

 と私が言うと、

「え~お姉さんの人気に嫉妬ぉ」

 とエイミが言った。

 三人にじろっと睨まれて、エイミが肩をすくめた。

「で? どういう風に殺し合いしたいわけ? あなた、芸術家って言ったけど何なの?」

 エイミはにこっと笑って、

「あたしの芸術はこれ。お姉さんに理解できる?」

 エイミは迷彩柄の大きな袋から冊子を取り出して私の方へ差し出した。

 冊子は写真屋でもらえるポケットアルバムだった。

 広げるて中を見る。

「理解出来そうもないわ」

 一枚目は大きな白い皿にのった生首、おでこから上が綺麗に切り取られ、しわの入った丸い脳みそがあった。脳みその上に火のついたろうそくが六本。

 目は閉じられているが、糸で縫い目が入っていた。

 唇も同じだ。大きな縫い目で塗ってある。

 非常に綺麗な仕上がりだった。

『ハッピーバースデー!』とピンク色の字で書いてある。 

「これ頭蓋骨から綺麗に切り取るの大変じゃない?」

「そうなの!」

「ふ~ん、笹本さんがもったいないって嘆きそうね」

「ね、綺麗でしょ?」

 二枚目は元が何だったのかも分からない。

 横たわった何かに隙間がないほど釘を打っている。

 形からしたら人間のように見える。

 びっしりと打ち付けられた釘で、全身銀色の釘のミイラだ。

 写真には『人間毛虫』と書いてある。

 三枚目は男性だった。

 青ざめた顔でこちらを見ている様子はまだ生きてるようだ。

 裸で肩から先の両腕がなく、腰から下が針金でぎちぎちに縛られている。

 腰の辺りは針金を編んでいるのか局部は見えない。太ももあたりから針金の網が大雑把になり、縛られて鬱血した両足が見える。両足首から先が開いているので、魚のひれのようにも見える。

『人魚王子』と書いてあった。


「あなた……暇なのねぇ」

「ひっどい~~お姉さん、芸術は時間じゃないのよ!」

「あーいらいらする!」 

 私はポケットアルバムをパタンと閉めた。

「こんな物見せられたら余計にいらっとするわ、あなた」

「何よ!」

 私の批評はエイミには不服だったようだ。

「芸術家って嫌いよ。自分一人で満足できなくて、人に見せたがるの。迷惑だわ。で、これを作って写真に撮った後、どうするの? あなた、こんな事してよく捕まらないわね」

「それはまあ、スポンサーがいるし」

「スポンサー? こんなのに金を出す人間がいるの? 食材にもならないのに?」

「そこが芸術なんでしょ!」

「ふーん、理解出来ないわ。まあ、これがあなたの趣味ならそれは別にいいわ。どこか遠くでするならね? 言っておくけど、私はあなたを綺麗には殺さないわよ? 私は破壊するのが好きだから」

「エイミがお姉さんを殺して、綺麗に飾ってあげるの!」

「あなた、面倒くさいってよく言われるでしょ?」  

 エイミは唇を尖らせた。

「ふーん、いいの? エイミにそんな事言ってぇ。お姉さんの知りたい事、教えてあげないわよ」

「私の知りたい事?」

「俳優の山吹健二」

 目の前にあったワインのビンをエイミの顔面に投げつけたのだが、俊敏なエイミはそれを上手によけた。エイミはくすくすくすと笑っている。

 私はアキラを見た。

「この芸術家に私の事情を話したの?」

「話してないさ。ただ、エイミが山吹と懇意にしてるのは間違いない」

「あんたがイカレテルのは知ってたけど、馬鹿だとは思わなかったわ。懇意にしてるなら、あっち側じゃないの」

「懇意にはしてるけど、山吹の味方ってわけじゃないわ、お姉さん。山吹はただのスポンサー」

「へえ、食人鬼の上に芸術家気取りなの?」

「そう、エイミの作品にいつも一番高い値をつけてくれるわ」

「……一番高い値って事は、他にもあなたの作品を欲しがる悪趣味な奴がいるわけ?」

「そうよ」

 エイミは自慢そうににっこりと笑った。

「山吹の事は知りたいけど、あなたの作品になるつもりはないわ」

「エイミが仲介しなくちゃ、山吹には近づけないわよ。大きな芸能事務所に守られてるんだから。何人、ボディガードがついてると? プロの殺し屋もいるのよ」

 私は立ち上がった。

 右手に持っていた釘打ち機をエイミの顔面に突き出す。

 エイミは俊敏かもしれないが、きっと私の人差し指の方が早いわね。

「今日はあなたを殺すわ。明日からひとりづつ山吹の事務所の人間を殺していくわ。ボディガードもプロの殺し屋も。そしたらいつか山吹だけになるわね」

 そう言ってからエイミの顔面に釘打ち機を発射した。

 その時のエイミの顔は引きつっていた。

 ばすばすっと音がしたが、それはすべてアキラの差し出した分厚いボトルに突き刺さった。ボトルにヒビが入り、刺さった釘の隙間から高級ワインが垂れてくる。

「この芸術家を死なせたくないなら、どうしてここに連れて来たの?」

 私はアキラを見た。

「とりあえず山吹を殺ってから、勝負したら?」

 とアキラが言った。

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