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復讐2

 忘れていたのは何故だろう。

 チョコレート・ハウスのある街に来てからすっかり忘れていたのは何故だろう。

 美奈子さんと友達になって、オーナーと出会った。

 るりか嬢を殺して笹本さんを知った。

 市長の息子達を殺して、オーナーにプロポーズされた。

 新婚旅行で生まれて始めて外国に行って、アメリカ人を三人殺した。

 小生意気なハワイっ娘がいて、アメリカ人の殺し屋とトミーを殺した。


 オーナーと出会ってから、幸せだったのかしら。


 だけど、笹本さんの店であの男を見た。

 十三年たっていたけど、すぐに分かった。

 威圧的な態度は全然変わらない。

 周囲を見下し、己の存在を押しつけ、醜悪な男だ。

 金だけが価値があり、美も愛も平和も優しさもすべて否定するような人間。

 金があれば何をしてもいいと思っている人間はわりといる。

 それが彼らの価値観なのだからしょうがない。

 それを変えさせるなんて誰にも出来やしないのだ。

 だから十三年たって復讐されても彼にとってもそれは仕方がない事だ。

 自業自得なんだから。

 どうしてこんな楽しみを忘れていたのかしら?

 私はもう幼く力のない少女ではないのに。



 笹本さんの店でその男は大枚をはたいて人肉料理を食べていた。

 私はその時、笹本さんの店へ頼まれたデザートを持ってきたオーナーについてきただけだった。オーナーは大きなクーラーボックスを持って店の裏口から入って行き、私は裏口のすぐ側に停めた車の中にいた。

 笹本さんの店には秘密の倉庫がある。

 もちろん人肉を貯蔵しておく倉庫だ。秘密の地下室かと思いきや、それは店のすぐ裏にある二階建ての小ビルだ。ここには大きな貯蔵庫とか冷凍庫などが設置してある。

 一度見せてもらった事があるのだが、一階は壁も床もコンクリートで、解体場になっていて少しばかり生臭い。二階には立派なキッチンがあり、日々、そこで人肉のフルコースを試作しているそうだ。

 その男は笹本さんと一緒にその建物から出てきた。

 一目でその男が誰かが分かったので、私は車の中に身を沈めた。

 笹本さんが私を見れば、きっと男に私をハンターだと紹介したがるだろうと思ったからだ。

 男は笹本さんのお得意様なんだろうか? 殺したら、笹本さんが困るのかしら?  

 なんて考えたけど、この時点で殺す事は決定していた。


 その男は岩本と言った。下の名前は知らない。

 岩本を知ったのは中学三年生だった。

 大きなごつごつした男だった。しわ一つないスーツで香水がぷんぷん匂って臭かったのは覚えている。乗っていた車はベンツとかそういうのだろう。大きな黒塗りの車だった。

 職業は医者だ。大きな病院を経営していると聞いた。

 

 詳しい事は覚えていない。

 医者のような階級の人間とろくでなしの母親にどんな共通点があるのかは知らないが、母親は岩本とあやしげな友達だったようだ。

 母親が連れてきたという時点でろくでなしなのは間違いない。

 岩本は私をみてにやりと笑ってから舌なめずりをした。

 全身に悪寒が走り、鳥肌がたった。身の危険を感じて、私は今から隣の部屋の走り込んでふすまを閉めた。

 その夜、母親が言った。

「しばらく入院するからね」

「え? お母さん、病気なの?」

「違うよ。入院するのはあんただよ。美里」

「どうして? 私、どこも悪くない」

 母親は嫌な顔で笑った。

 私にはその顔は悪魔に見えた。

「嫌だよ」

 と言うと、ほっぺたを叩かれた。私の身体は後ろに吹っ飛んで、窓枠で頭を打った。

「痛っ」

 私が頭を押さえると、

「痛い? じゃあ、病院に入院でちょうどいいじゃない、美里」

 と言って母親はまた悪魔のような顔で笑った。


 岩本を見てから、心の中がざわついて困った。

 いてもたってもいられないという感じだった。

 早く何とかしなくちゃ、早くあの男を殺さなくちゃと思うのだ。

 笹本さんに探りをいれると、あっさり、住んでいる場所が分かった。

 隣の県で大きな病院の院長だった。

 私が幼い頃に住んでいた場所はとても遠いのに、母親と交流があったのは何故だろう、と考えて、悪事をするなら遠い方がいいのに決まっている、と簡単な答えだった。そう言えば、私を手術した後に岩本の姿は見なくなった。

 退院した私をほったらかして海外旅行へ行った母親を殺そうと決めたのはこの時だ。

 私は泣いて、泣いて、泣いて、頭がおかしくなるほど泣いていた。

 母親がその醜悪な姿をもう一度見せるまで、泣き続けていた。

 熱も出た。身体も痛くて、だるくて。

 どうしてもっと早く殺さなかったのか、と自分を責めた。

 みどりちゃんを殺した私はすでに殺人鬼だったのに、何故、母親を殺さなかったのか。

 こんな目に合わされるまで、我慢するなんて。

 私はなんてお人好しなんだ!



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