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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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19/25

殺人鬼VS芸術家

「アキラ君、彼女が出来たの?」

 とオーナーが言ったので、私は鍋を落っことすところだった。

 冷静に息をついて、土鍋をテーブルに置いた。

 今夜は寒いからおでんだ。

 アキラも食べると思って大量に作ったのに、外食されてしまった。

 まあいいか。二、三日おでんを食べてもらおう。

「彼女?」

「繊細そうな美人とデートしてる所を見た……らしい」

「らしいって、誰が」

「白井さんが」

 私はビールの栓を抜いて、オーナーのグラスに注いだ。

「由香ちゃん? へえ」

「気になる?」

 とオーナーが笑った。

「ならないわ、別に」

「そう? 大事な弟君なのに」

「あなたは何か誤解してるわ。別に大事じゃないわ。あんなイカレタ弟」

「そう?」

「その繊細美人さんが明日の新聞に載らない事を祈るだけよ。誰かに見られるなんて駄目ね、心構えが全然なってないわ」

 オーナーははっはっはと笑って、

「厳しいね」

 と言った。


 繊細美人は新聞に載る事もなく、たびたびアキラと一緒の所を目撃されていた。

 そしてアキラは店でファンの女の子達につるし上げをくらっていた。

「アキラ君目当ての客が減るな」

 とオーナーが笑ってから、また厨房へ戻って行った。

「そんなんじゃないよ」

 とアキラは素っ気なく言ってから、ダスターを持ってテーブルの上を拭いて回った。

「たださ……あいつが美里を殺すって言うから」

「殺す? 私を?」



 午前十一時、さっきまでの喧噪が消えて店の中は静まり帰っている。

 一人の客もいない。

 普段なら昼食の用意に二階へ戻るのだが、私はアキラを見た。

「繊細美人はご同業ってわけ?」

 アキラはふっと笑った。

「まあね」

「ふうん。であんたはわざわざ、そいつをこの街に招待したの? 実の姉を殺そうという女を? でも、どうして私はその美人に殺されるの?」

「俺がいつまでも帰らないからさ」

「ああ」

 私はぽんと手を打った。

「恋人ってわけ。じゃあ、帰ればいいじゃない」

 アキラはちょっとだけ嫌そうな表情をしてから肩をすくめた。

「どうしたの? 嫌なの? 恋人なんでしょ?」

「あいつさぁ、やばいんだ」

「やばいって? あ、いらっしゃいませ」

 お客さんが入ってきたので、私は話を中断した。

 他のパートさんもいるしこの先は店内で話す事ではないしね。

「お昼ご飯の準備してくるわ」

 とアキラに背中を向けると、

「嬉しそうだけど、あいつはちょっと手強いよ」

 とアキラの声が追いかけてきた。

「あんたが恋人の味方なのは構わないけど、またオーナーを巻き込むような真似をしたら、今度は絶対に殺すわよ。美人の恋人にも自分が殺される覚悟もしておくように言っておきなさいよ」

 


 アキラの恋人は小さく華奢だった。

 身長は私とそう変わらない。

 けれど、全身が骨と皮で肉が全然ないモデルみたいな体型だった。

 服を着ると格好いいが裸になるとガイコツだろーなーと思った。

 ショートカットを刈り上げて、小さい顔、きょろっとした目玉。カラーコンタクトを入れてるのか、ブルーの目玉だった。

 可愛いなぁ、と思った。

「どうもエイミと言います」

 と自己紹介をした。うふふふと笑う顔に狂気が見えた。

 ああ、たしかにやばそうな娘、と思った。

「アキラのお姉さんが凄腕のハンターだって聞いて」

「聞いて?」

「勝負してもらおうかな~って」

「お断りよ」

 と私は言った。

 場所は笹本さんのレストラン、アキラの招待でオーナーと私、アキラ、エイミでの楽しい会食だった。

「どうしてです? あ~自信ないんだぁ」

「ええ、そうよ」

 私達四人は向かい合って食事をしていた。

 エイミはフォークをもてあそびながら肉をカットしているが、少しも口に入れない。

「あなた、アキラを迎えに来たんでしょ?」

「ええ、でも、アキラ、お姉さんの側がいいらしくって、戻らないって言うんです。だったら、アキラのお姉さん殺しちゃおうかなって」 

「そうね、あなた、何かいらっとするわ。アキラが嫌になるのも無理ないわね」

 と私は言った。

 身のこなしは素早かった。

 私のセリフの後にさっとその細い身体が動いて、私の目の前でフォークが止まった。

 フォークはあと一センチで私の眼球に突き刺さっただろう。

「はい、お姉さんの負け。でも私、お姉さんみたいに破壊派じゃなくて、芸術家だから。お姉さんみたいな美人さんは飾り甲斐がありそうだから、あんまり壊したくないな。お姉さん見てたら、創作意欲がわくわ! ぞくぞくしちゃう!」

「それはどうも。褒め言葉なのかしら。ところで、血が出てるわよ」

「え?」

 フォークを持ったエイミの右手首に刺さった先の尖ったドライバーを引き抜くと、少量だが出血している。

「やだ、痛いと思った」

 エイミは私の目の前からフォークをどけて、身体を戻した。

 椅子に座りなおしながら傷口と血をペロッと舐めた。

「お姉さん凶暴ね! 私なんか寸止めしてあげたのにぃ」

「殺し合いに来たんでしょ? それともただ遊びに来ただけなの?」

「お姉さんって素敵ねぇ」

 と言ったエイミの瞳が猫の目のようで不気味だった。

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