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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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16/25

復讐16

「竜也さん」

 と私が言うと、オーナーはちょっと照れたような顔で私を見た。

「何?」

「あの子、何してるの?」

 私の目線の方向にいる男を見え、オーナーが笑った。

「彼、働き者だよ。彼が来てから、喫茶部の売り上げが30%増。若い女の子が増えたね。奥様方にも人気急上昇だし」

 とオーナーが言った。


 アキラに刺された後、病院で目覚めるまでほんの三日だった。

 一年くらいは地獄らしき場所にいたと思ったのだけど。

 そして二週間ほど入院してから私はチョコレート・ハウスに戻った。

 これは少しばかり、面目がないというか、格好が悪いというか。

 二度と戻らない覚悟で飛び出したのに、入院費も払ってもらったばかりか、おめおめと戻って来て、店の手伝いもしないで療養中だなんて。

 店のパートさん達は喜んでくれたし、お客様もよかったわねえ、と声をかけてくれる。

 そのたびに、自分で自分の喉をかっ切ってやりたい衝動にかられるのだ。

 そして、何より。

「いらっしゃいませ。京子さん、今日も美人だね」

 といつの間にチョコレート・ハウスはホストクラブになったのだろう、という風な感じの男をオーナーが雇ってしまっている。

 華奢な身体、赤茶けた髪の毛、ほっそりとした白い顔に、整った目鼻立ち。

 白いシャツにチョコレート色のネクタイとパンツ。同じ色の長いエプロンをして、銀のトレーを手に、喫茶室で女性客にケーキと媚びを売りまくっている男。

「な~にやってんのかな~、アキラ君はぁ」

「こめかみにしわが入ってるよ、美里」

 思わず手がポケットに入る。それを見たアキラが、

「どっちが物騒なんだよ」

 と言った。

 


「どうしてこんな男を雇ったのよ?」

 と私はオーナーに山盛りご飯を盛った茶碗を渡しながら聞いた。

「よく働くし、女性客も増えたし、いいじゃないか」

「そうそう」

「そうそう、じゃないでしょ! 何、厚かましく、家にまで転がり込んでるの!」

 アキラは私の横でもしゃもしゃとご飯を食べている。

「金が貯まったら出てくよ。ここじゃ、女の子連れ込むのも出来ない」

「お金は腐るほど持ってるくせに。あんた、見境なしなんでしょ?」

「まあね」

「もう」

「ほんと、器が小さいよね、姉ちゃん」

「何ですって!」

「久しぶりに会った弟との再会を素直に喜ぼうよ、そこは」

「殺されかけたんですけど」

「あれは姉ちゃんが勝手に飛び込んで来たし」

「そうよ、こいつはあなたを殺そうとしたのよ? よくそんな奴を雇えるわね。あなた、お釈迦様の生まれ変わりなの?」

 と私が言うと、オーナーがビールを吹き出した。

「アキラ君はあれだろ? 大好きなお姉ちゃんと結婚した俺に焼きもち焼いたんだろ?」

「そうそう、姉ちゃんと再会するのだけが生き甲斐で今まで頑張ってきたのに」

 とアキラが言ったので、オーナーが大笑いした。

「信じられない、頭の中、麩でも入ってんじゃないの」

 味噌汁の中の麩をつまんで見せた。

「何だと、てめー、いい情報を教えてやろうと思ってたのに」

「何?」

「あ~もう言う気が失せた。ごちそうさま」

 と言ってアキラが食卓を立った。

「何なのよ」


 オーナーは朝が早いので、割と早く寝る。

 アキラが居候している為に、おやすみのキスもお預けだ。

「おやすみ」

 と言って、オーナーはさっさと寝室へ引っ込んでしまった。

 かちゃかちゃと食後の片付けをしていると、 

「もう一人いるぜ」

 と言いながら、洗い物をしている私の横に来た。

「何が?」

「美里の子宮を食ったやつ」

「え?」

「岩本だけじゃない、仲間がいてさ」

「本当? 誰よ!」

「殺る気?」

「もちろんだわ」

 私はアキラを見た。アキラも私を見返して、

「ちょっと難しいぜ」と言った。

「誰なの?」  

 アキラが顎で指し示した方向にはテレビが置いてある。

 夜の十時過ぎ、ニュース番組をしていた。

 コメンテーターに売れっ子の俳優が出ていた。

 四十は過ぎているだろうが、若さを売りにしている元アイドルだ。

「あの俳優?」

「そう、あの俳優を抱える事務所自体が食人鬼の集まりさ。贔屓の店があるから、笹本の店までは来たことないと思うぜ。売れっ子俳優だから、ガードが固い。近づくのが難しいな」

「ふーん」

 包丁を洗ったら、洗い物はおしまいだ。

 私は包丁を掴んだ。

「綺麗な顔は切り刻んだら楽しいわね。よく切れる包丁を買いに行かなくちゃ」

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