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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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14/25

復讐14

 私は暗い場所をさまよっていた。

 歩いてるのか浮かんでいるのかもよく分からなかった。

 時々白いもやのような物が浮かんでいて、もあもあっと動きながら大きくなったり小さくなったりしていた。私の横を通過する時、脅かすようにばっと広がって私に覆い被さったりもする。

 暗くて自分の手も身体も全く見えなかったのだけど、私はポケットのある位置をさぐった。何か入ってないだろうか、と思ったからだ。

 何も持っていないのは不安だった。

 少なくともカッターかハサミは手放した事がないのに、今日の私は何も持っていないようだ。

「ちょっと! あんた!」

 とダミ声がしたのでそちらへ振り返ると、るりか嬢が立っていた。

 あら、今まで何も見えなかったのに。

 るりかはやはりだぶだぶですり切れたジャージの上下で、乳首が胸の下の方に透けて見えた。顔の真ん中から分けた髪の毛はやはり腰の辺りまで伸ばしてあり、ぼさぼさの枝毛だらけでその上薄い。地肌が見えてきて、なんだか見ているこちらが侘びしくなる。

 ただ私が刺した自転車のスポークが彼女のうなじから首の前に飛び出して、飾りのようになっていた。

「るりかさん」

「あんたもついに死んだのね! ざまあないわ!」

 とるりかが叫んだ。

「ここにはあんたに殺された人間がいっぱいいるわ! みんな、あんたと遊びたくてしょうがないのよ! みんなに嬲り殺されるがいいわ!! あたしだってあんたの事、ばらばらにしてやりたくてずっと待ってたんだから!」

 るりかはにやにやとしながら私にそう言った。

「へえ、遊んでくれるの」

 と私は聞いた。

「それは楽しいかもしれないわね。ここは退屈そうだし、あなたが遊び相手になってくれるなら、それもいいわね」

「な、何よ、その態度」

 私は辺りを見渡した。

「ここは何? 地獄? 随分と殺風景ね」

「そんなに気取ってるのも今のうちよ!」

 るりかは私に脅しがあまりきかなかったのが不満そうだった。

「で、何をして遊ぶの? 嬲り殺しって言っても、もう死なないんじゃない?」

「ばかねぇ、だから余計に辛くて苦しいんじゃない。永遠に殺され続けるんだから」

「なるほど」

 そうは言っても、るりかは警戒して私に近寄って来なかった。

 その間に私は考えた。

 ここには武器がないわ。じゃあ、どうやって殺し合いするのかしら。

 腕力? いいえ、違うわね。

 答えはるりかが持っている。

 私はあははははと大きな声で笑った。

「な、何よ! 恐ろしさでおかしくなったんじゃないの! もう遅いわよ! あんたみたいな殺人鬼、永遠に嬲り殺され続けばいいわ!」

「ねえ」

「何よ!」

「最初に聞くけど、ここにいるとお腹はすかないの? トイレは? 行かなくて大丈夫なの? 眠ったりするの? それぐらい教えてくれてもいいと思うけど」

「お、お腹はすかないわ。トイレも行かない。厚さや寒さも感じない。眠らないし、眠らなくても疲れない……ような気がするわ」

「そう! ならいいの。じゃあ、遊びましょうよ」

 るりかは不審げな顔で私を見た。

 私は左手で右脇腹を探った。

 思った通りだった。アキラのサバイバルナイフが刺さったままだった。

 私はさっとそれを引き抜いて、右手に持ち替えた。

「ほら、私に説明してる間に殺らないから、またあなたの負けね」

 私はそう言って、ナイフでるりかの顔を切り裂いた。

「ぎゃーー」

 とるりかの絶叫が上がった。顔を押さえて、膝をついた。

 押さえた指の間から鮮血がしたたり落ちる。

「痛いの? 痛くないんでしょ? 大げさねぇ」


「それが結構、痛いんだよね」

 とまた別の声がした。

 振り返ると市長の息子が立っていた。

 でも彼は首がない。私が切断したから。

 小脇に抱えた血だらけの首が私を責めるように、

「俺も首が痛くてさ」

 と言った。

「あらそう。で、あなたも私を嬲り殺しに来たの?」

 首なし息子は肩をすくめた。

「そう思ってたけど、あんた強いからな。もう少し作戦を練ってからにするよ。ここは退屈でさ、流れない時間の中で腐ってたんだけど、あんたが来たから少しは楽しめそうだ。俺よりあいつの方があんたを恨んでるしね」

 と自分の背後を振り返った。

 市長の息子の仲間の筋肉隆々のボディガードだ。

 うわぁ、面倒くさそう……と思ったけど、ボディガードが歩くたびに首がちぎれそうでぱくぱくとなっていた。それに、市長の息子もボディガードも手ぶらだった。

 どうやら武器を持ち込めなかったようね。

 ポケットに入ってるのはコンドームくらいかしら。


 私はこのサバイバルナイフでしばらくは楽しめそうだ。

 ありがとう、アキラ。

 お姉ちゃんを刺した事、許してあげるわ。

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