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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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復讐11

 身体の痺れが抜けるまで数分を要した。

 手足をもみながら少しずつ身体を動かしていると、感覚が戻ってきたので私は立ち上がった。歩き出そうとして、こつんと何かを蹴った。アキラが捨てていったスタンガンだったので、それを拾う。

 早く行かなければ、アキラがオーナーを殺してしまうわ。

 浴室から出て、階下への階段の方へ行こうとして物音が聞こえてきた。

 とっさに階段近くのドアに身を潜めて、少しだけドアを開けて覗いていると男が階段を上がってきた。

 坊主頭の大きな男だ。

 迷彩柄のズボンとカーキ色のシャツ、ブーツもアキラが履いていたような分厚い軍用ブーツだった。腕まくりをしたシャツから出た腕は筋肉隆々で、黒く固そうだった。

 その手にはごついサバイバルナイフを持っている。

 ナイフの先はよく研がれていて、光っていた。

 男は私の潜んでいる部屋を通り過ぎ、岩本の部屋のドアを開けた。

「岩本さん!」

 と男が言った。そして、

「うわっ、こりゃ、ひでえな」と言った。

 中に入ったがすぐに出てきて、階段の上から、

「岩本さんも薫子ちゃんも死んでるぜ。ひでえ、有様だ。内臓ぐっちゃぐちゃ」

 と大きな声で言った。

 もう一人いるのか? それとも、大人数か?

 しばらくここで隠れているしかないわね。

「二人だけ? お手伝いの子がいるはずなんだけど」

 あの声は早苗だ。

 取り乱していないところを見ると、岩本が殺されるのは想定内だったようだわ。

 アキラが皆を殺す予定だったのかしら?

 それともアキラを含めてここにいた四人をこの坊主頭が殺す予定で来たのかしら。

「アキラ君もいないの? お手伝いの美里に逃げられたのかしら。案外手際が悪いわね」

 そう言いながらとんとんと階段を上がってくる早苗は煙草をくわえていた。

 しゃべる度に唇の端が歪む。

 先日まで感じた、娘を心配する聖母のような母親という役はもう終わったようだ。

「で? どうするよ。奥さん。アキラを探して殺っちまうのか?」

「警察に通報して、アキラが皆を殺した、でいいんじゃない? これだけ派手にやられたら、後始末に困るわ。全く、ナニを考えてこんなに派手にやったのかしら? 警察に届けなくちゃならないわ。だったら、アキラが犯人でいいんじゃない」

「そうだな。アキラを殺す手間が省けた」

 と坊主頭が言った。

 この二人はアキラに岩本と薫子と私の殺害を依頼し、その後にアキラも殺すつもりでここに来たらしい。アキラが私にとどめをささなかったのは、この二人を私に殺らせるつもりだったのか。私に手間取れば、自分はその隙に遠くへ逃げる時間が稼げる。

 私が死ねば笹本さんの店でハンターとして働くのに邪魔がいなくなるし。

 何て奴。

 では、私はどういう筋書きを書けばいいだろう?

 とりあえず殺すのは決定。

 まず、坊主頭から。どうせこの男もハンターの部類だろう。

 だが、武器がない。

 自前のチェーンソーはもう動かないだろうし、と今いる部屋を見渡す。

「これは! なんて姉さん思いな弟なの」

 飛び込んだ部屋はアキラが泊まるはずだった部屋らしい。

 アキラの荷物が残っている。

 音をたてないようにそっとカバンを探ると、血で汚れたマチェットと、手榴弾が何個か入っていた。手榴弾はもちろんおもちゃだ。ピンを抜いて投げると大きな音が出て驚くくらいの物だろう。まあ、何かの役には立つか。他には何に使うのかは分からないけど、テグスとかラジオペンチとか、ガムテープとか、軍手とか。

 副業に泥棒でもやってんのかしら?

 アキラを追いかけないと、と思うのだけど、坊主頭を生かしておくわけにもいかない。

 このままでは警察に通報されて、アキラが殺人犯になってしまう。

 いや……まあ、殺人鬼には違いないけどね。

 手榴弾を二個と綺麗に拭いたマチェットを持って、私はまたドアの隙間から廊下を見た。

 私が岩本を殺した部屋のドアが開いている。

 私はそっとドアを開けて廊下に出た。

 用心しながら階段に手榴弾を仕掛ける。

 トラップなんて映画みたいにうまくいくかどうかは分からないけど、かねてからちょっとやってみたかったので。駄目もとでね。

 そして再び元の部屋に潜む。しばらく様子をうかがっていると、早苗が出てきた。

 打ち合わせが終わったようだ。これから警察に電話するつもりだろう。

 私は早苗がトラップの音に驚いて、階段を転がり落ちるのを見物している暇はなかった。

 部屋を出て岩本の部屋の横に潜むのに忙しかったからだ。

 ぱーんという音と早苗の悲鳴、そして階段を落下していく音に部屋のドアから坊主頭が出てきた。ひょいという感じで頭だけ出てきたので、その首筋にアキラの残していったスタンガンを押しつける。男の身体ががくっと下がって膝をついた。すくい上げるようにマチェットで顔面をがっとたたき込む。目標は目だ。目さえ潰せばいい。マチェットの刃が平行に坊主男の両目に食い込んだ。目と目の間の鼻の骨も綺麗に切れている。

 アキラも武器の整備はきちんとするようだ。いい切れ味。

「痛ぇ…」

 と男が床に膝をついたまま言った。

 バチバチッと何度かスタンガンを当ててやると、坊主男は床に倒れ込んで痙攣し始めた。 男の手からよく切れそうなサバイバルナイフを奪う。

 坊主男の首筋をざくっと切ると、赤黒い血液が大量に流れ出た。

 坊主男は苦しそうに咳き込んだり、喉からごぽごぽっという音を出していた。

 横向きに倒れているので、首を半周切ってみた。

 分厚い肉が切れるのがいい感触だった。よく切れるナイフは好きだ。

 坊主頭はこれでいい。


 早苗をどうしようかと思いつつ、私はなんて間抜けなんだろうって事に気がついた。

 電話すればいいんだわ。

 オーナーに、逃げてと電話すればいい。アキラの襲撃から逃れる為に、笹本さんの所にでも行けばいいんだわ。

 私はポケットから携帯電話を取りだし、オーナーの番号を押した。

 

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