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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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復讐10

 でもまだ殺さないわ。

 そんな簡単な事。


 私は薫子の側に行って、彼女の下腹部を切り裂いた。

 薫子の死体は、動きの悪い人形みたいだった。

 時々止まりかけるチェーンソーの動きに合わせて、ごつっごつって動く。

「アキラ、子宮ってどれよ?」

「知らねえよ。素手で触らない方がいいぜ。性病が移る」

「どんだけ性病を気にしてんのよ。痛い目にあった事があるの?」

「ねえよ」 

 

 私はいつでも趣味を楽しむ時は医療用の薄いゴム手袋をしている。

 だからご心配なく。

 薫子の開いた下腹部に手をつっこんで中身を取り出してみると、血と脂肪とよく分からない内臓がどろっと出てきた。

「これ、子宮かしら?」

 私は岩本の口にそれをつっこんでやった。

「若い女の内臓が好きなんでしょ? 今夜は生で食べたい気分なんでしょ?」

 岩本は顔面神経痛のように顔を引きつらせて、首を小刻みに振った。

「食べなさいよ! 食べたら、命だけは助けてあげるわ」

 と言うと、岩本は震えながら口を動かして咀嚼を始めた。

 嘘なのに。

「おいしい?」

 岩本の怯えた目はずっと私を見ている。

「ソーセージもどうぞ」

 と言ってアキラが細長い箸のような物で、薫子の腸を掴んで持って来た。

 ずるずるっと腸が薫子の腹から出てくる。

 ぴかぴかに光って、ぷるんぷるんしてるわ。

 若いからかな。

 それを見た岩本はぐええええと嘔吐した。

 咀嚼中の物が吐き出され、一緒に胃液なんかも出てきた。


「それ何?」

「暖炉の火かき棒みたいなやつ」

「本当にちっとも武器を持ってないのね」

「持ってるさ。ケツの肉はマチェットで削ってやった。内臓は直に触りたくねえもん」

「潔癖ね」

「まあね」


 岩本の動きが鈍くなってきた。

 まずい、と思った。

 出血多量で死なせるなんて、冗談じゃないわ。

「食人なんでしょ? もう少し美味しそうに食べたらいいのに。娘の肉よ? 薫子もパパンの血肉になれて嬉しいって」

 薫子の腸を掴んで、また岩本の口につっこんだ。残りは岩本の顔にぐるぐると巻き付けたやった。

「腸ってうんこが詰まってない?」

 とアキラが言った。

「詰まってるかもね」

 岩本の裂けた腹の中に手をつっこんで掴んだ物を引きずり出すと、ずるずるっと赤黒い物が出てきた。岩本の目はすでに死んでいるが、身体はまだ脈打っていた。

 それからチェーンソーを構え直した。血糊と脂肪でそろそろ動きも限界のようだ。

 ウイーン、ウイーンと鈍い音がする。

 チェーンソーの先を岩本の口の中につっこんでから、私はスイッチを入れた。

 シュイーン、ドルドル、ギュイーン。

 詰まりながらもチェーンソーは最後の力を振り絞って、岩本の顔を切り裂いた。

 口の両端が裂け、歯が砕けて飛んだ。鼻が歪んで裂けた。眼球がひっぱられて飛び出し、目に空洞が出来た。そして顔の骨が砕けていって、空洞も潰れた。

 こんなに腹が立つのは、岩本のせいで母親を思い出したからだ。

 十五歳の私ではあれが母親に対する最高の復讐だった。

 だけど、あんなもので私の怒りはすんでいない事を思い知った。

 岩本にしたように母親にしてやりたかった。

 だが、もうどうしようもない。

 動かなくなったチェーンソーを床に放り出して、私は振り返った。

「アキラ?」

 アキラの姿がなかった。


「逃げたわね」

 仕方がないのでバスルームへ向かう。

 鏡に映った自分は血まみれだった。

 さすがにこの姿では外へ出られないので服のままシャワーを浴びた。

 頭と顔の血さえ流せればいい。

 さっと洗ってバスタオルを拝借していると、

「てめえ!」

 とアキラが飛び込んで来た。

「キーをどこへやった!」

「車のキー? つけっぱなしで不用心だから外してあげたわ」

「返せよ!」

「どこへ行くつもりなの?」

「美里には関係ねえよ」

「あの街には行かせないわ」

「へえ、どうして?」

「あんたみたいなイカレタ殺人鬼が住むような街じゃないわ」

「今までイカレタ殺人鬼の自分が住んでたんだろ」

「そうよ。でも殺人鬼が住むような街じゃないのよ」

 アキラはそこでけっけっけと笑った。

「執着を消してやるよ。それでいいだろ」

「執着?」

「藤堂さん、殺してやるよ」

「……」

 ズボンのポケットに入れておいたアイスピックを握って、アキラのこめかみ辺りを狙ったが、ぱんっと腕を跳ねられてしまった。

 バチンっと音がして、身体に電流が流れた。

 しまったと思った時は遅かった。

 身体に力が入らない。ずるずると床に倒れ込んでしまった。

 アキラが私の服のポケットから車のキーを取り出した。

「藤堂さん殺すまでに追いつくといいね。じゃ、お先」

 とアキラが言った。

 私は床に倒れたまま、去って行くアキラの背中を見ていた。


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