炎剣士ヘイムダルの人生哲学【2】
目の前に突如男が現れたのだ。数秒前まで男の影も形もなかったはずだ。
「おい、お前、そこのお前、俺なのみたいな顔してるんじゃねーよっ!そうだよっ、吐きそうな顔して突っ立ってるそこのお前だよっ!」
「なんだよ。俺は今、召喚酔いで苦しいんだよっ。悪いが、今はお前の相手をしている気分じゃないんだ。他をあたってくれ」
「ちっ、いい度胸だな。なら、お前の後ろにいるエルフを俺に差し出せ。そうすれば、みなかったことにしてやる。吐こうが倒れようが好きにするがいい。」
「お前、馬鹿だな。そんなこといっている暇があったら、俺ごと殺せばいいだろ。」
そうだ、普段の俺なら、こいつの後ろにいるエルフを殺すのにこいつごと殺していただろう。ならなぜそうしない。
「いや? それとも賢いのか? ああ、お前は正しい、そうだ、お前の懸念は当たっている、俺はお前よりも強い。だから、無意識のうちに俺と戦うのをいやがっていたのさ」
無意識に否定していた答えをこいつはたやすく答える。
この俺が、帝国軍無敵の【黒の騎士団】【第三位階】のこの俺がこいつにびびっているというのか。
「・・・。お前なにものだ?」
「俺か? 俺のことは人呼んで、【最強の勇者】、そう大事なことだから、敢えて二度いうぞ、【最強の勇者】ハヤトと人は呼ぶ。ふふふ。」
「ああん、勇者だとっ? なんだそれは、新手の解放軍の一員なのか?」
「あれ、勇者しらないのおたく? うわー、まじカルチャーショックだわっ。へこむわ、まじで。」
「まあ、いいや、弱いものいじめはやめろよっ。正直好きじゃないんだ。」
こいつが強い、弱いなんか、戦ってみないとわからないか。
「わかった。もういいや、死ねよっ!」先ほど俺の振るった剣で死ななかった理由は分からないが、構わず、俺は先ほどよりも更に力を込めて死神が鎌を振るうがごとく、魔剣を振りおろす。
「あ、悪い、遅いはっ」
突然ハヤトの姿が消えたかと思うと、次の瞬間俺の首と胴体は真っ二つに切り裂かれiていた。
「な!?」
首だけの状態で俺は疑問を呈する。
「な、だからいったろ? 弱いもの苛めは好きじゃないって。」
そう、剣を片手で振るう男を見上げ、俺は短い生を閉じた。