夜の風
びゅう、と首筋を通り抜けたそれを
ミチカが風だと認識したのは目の前で潰れた頭蓋骨を人間だと気付いたのとほとんど同時だった。
ミチカは確か今日友人以上恋人未満のハナタカと新年を迎えたことを祝い、ちんけなローカル映画を見て酒場を転々とはしごしていた。
二人ふらふらになって千鳥足で田舎の一本道を歩いた
今
その瞬間まで。
いいねえ
うん、いいねえ
なんて、意味もなく笑いあっていた。
30分に一本しかない鉄道が走る合図。
踏切がカンカンとなりだし、安っぽい赤がチカチカと交互に発光し始めミチカは足を止めた。
黒と黄の虎模様の遮断機が完全に降りきるその前に
「ばいばーい」
といって。
おもむろに駆け出した彼は線路の上で両腕を広げた。
ハナタカの伸ばした腕が最初にひしゃげ
ハナタカの美しい顔の半分が潰れたかと思うと
直ぐに視界は真っ赤になり
ぱあーと音をたてて固い鉄の固まりが走り抜けた。
遠くで急停止した電車。
電車の通った後の路線にはハナタカの肉片と僅かに原型を留めた足が残っていた。
騒がしくなりだした深夜の田舎町。
しゃがみこんだミチカの手に触れたのは
風か。
ハナタカの手か。
びゅう、と
吹いた夜の風。