始まりの終わり
目の前の光景が、あまりにも現実から程遠いものだと、脳がついていかないことがある。
まさに今、私はその状態だった。
「・・・此処は、何処ですか・・・・・・」
弱々しく呟いた。
目の前は知らない景色。世界。
つまり、よくある(よくあっては困るが)異世界トリップをしてしまったのだ。
ていうか、普通有り得ないから。こんなこと。
何より、私は既に死んだはずだ。
話は少し前(私の感覚的)に遡る。
その日は私の心とは裏腹に、綺麗な青空だったことを覚えている。
暖かく柔らかな春風が私の長い黒髪を揺らしていた。
「面倒だなぁ・・・どうしよう」
桜の木を目の前にして呟いた。
家出をして、学校で虐められて。
居場所などない私にとって唯一寄り添える場所は、この桜の木。
全く生の気配ない、不思議な桜だ。
学校の裏にある寂れた公園に、ぽつんと咲く。何となく私と同じだなぁと思った。
誰にも必要とされず、愛されず。
ただただ居るだけ。
「・・・・・・生きる意味って、なんだろうね」
幹に手を当てて、よっ掛かる。
「・・・・・・うぉ?ありゃなんだ」
満開に咲き誇る花に埋もれて、何か黒いものがちらちらと見えている。
興味本位に手を伸ばしてみるが、届かない。
「む。意地でもとってやる」
制服姿にも拘わらず幹を登りはじめた。
「おりゃ!・・・・・・っし、取れたぁ」
授業サボって木登りて。どうなんだよ、それ。
自分で内心ツッコミながら、気にしない。
降りるのが面倒なので、枝に腰掛ける。
そして、そっと手を開く。
埋もれていたのは真っ黒な…多分懐中時計。手の平サイズ。
とりあえず開いてみると、確かに懐中時計だった。だが―――
「ナニコレ」
文字盤が縦に仕切られ、右と左で針が違う形になっていた。
向かって右は一般的な矢印で十二刻み。
向かって左はハートらしき形の針で知らない文字で刻まれている。数えると三十刻み。
上の蓋の部分は読めない。恐らく文字盤の左に刻まれている数(?)と同じ言葉。
「使えるのかぁ?まあ、別にいっか・・・」
これから死んでしまうのだから。
生きる目的がないのだから。
死んでしまおう。
「だって、私要らないもんね、」
―――自分を嘲り嗤いながら、
「必要ないもんね、」
憎み、苦しみ、そして、―――
「死んでも、誰も・・・・・・」
世界を恨み、泣きながら。
「お母さんも、お父さんも、クラスの人も先生も誰も!・・・・・・っ、悲しまないもんね!」
前方を見れば学校が見える。
そこに私は笑顔を向けた。
「・・・・・・さよなら」
私は飛び降りた。
重力に逆らわず。真っ直ぐに。
右手に懐中時計を握り締めて。
その日は私、見村星華の十七歳の誕生日にして、命日になった。
―――――はずだった。