長年追っていたアイドルと寝ようとしたらおっぱいが偽物だった
彰人は人生に飽き飽きしていたつまらない男。
画面の向こうからニンを見たことがある。どこにでもいる女だと冷えていた。
しかしとある日、同僚にライブへ誘われると、ニンのアイドルらしい輝かしい肌と汗、柔らかい声と瞳に。そこで恋をした。
なんて可愛い、カッコいい子なんだと彼女を見上げて叫んだ。
けれども結局はおっぱいで頭いっぱい。握手するときには顔よりも衣装から見えそうで見えない胸に、厳密には桃色の乳首に夢馳せた。もちろん見えないが、見えそうだった。
それ以降、同僚が絶句するほどにニンへ没頭した。口座がゲロを吐くほどにグッズを買った。
彰人の熱気に惚れた同じファンの男たちは彰人を尊敬した。ファンクラブ代表の長は彰人にその座を譲ろうともした。彰人は謙遜して断ったが、彼が次の代表に推薦する声は大きい。
日常生活はやや破綻しつつも、人生が楽しくて仕方がなかった。絶頂だった!
――それが、なんというクズだろうか。
彰人は自らを真面目なニン(アイドルの子)のファンだと言っておきながら、ホテルに連れ込んでしまった。裏口でニンが泣いているところを慰めているうちにそういう雰囲気になってしまった。
いいや、ちゃんと付き合っているんだ! 今から付き合う! と言う。ならやっぱりダメではないか。
ニンはベッドの上でステージでは見せない色ついた目で彰人を煽った。
すれば彰人は唇を合わせ、舌を入れ、押し倒さざるを得ない。
そしてその薄いブラを脱がさざるを得ない。
もちろん彰人には罪悪感があった。志を曲げることになる。何よりもファンクラブを裏切ることになる。
ただそれよりも優越感があった。自分はどのオスよりも強いという自己。
あとやっぱりニンが可愛くてエロかった。こんなの逆らえるわけないし、逆らったらそれこそファンじゃない。そう、ファンならば恋をしている、彼女の魅力に抗えるのならファンではない。という謎理論。
「しないの?」
ともかく彰人はその胸を明かした。
そこには! 大福のように丸く張りのある大きなおっぱいがあった!!
……無かった。
窪み萎んだような、まるで滑り台のような乳房があった。
夢と現実。
途端に彰人の恋は冷めた。
「寂しいの」
とニンが彰人を抱きしめると、これがおかしなこと。
その窪みに彰人の頭がすっぽり嵌った。
「相性がいいかも」
とニンが喜び、鼓動を躍らせるものの、やはり彰人は冷め付いていた。
ふっくらぼよよん。弾かれ包まれ沈む。頭を擦れば胸の柔らかさに歓喜するつもりだったものが、今そうすれば絶壁におでこが掻くだけである。
彰人はついに抱くだけ抱いた。
そして泊らず帰った。
帰ってふとベッドに寝転んで、暗い天井を見上げて、悟った。
自分は何をしていたのだろうと。そしてこれは誰が悪いわけでもないと。
お前が悪いだろうが。
と思ったのは社会であった。
某アイドルグループのニンがファンの男とホテルに入るところを撮った記事が瞬く間に広まった。
彰人はファンを辞めるつもりだった。自分にはその資格は無いのだと反省したつもりで。
しかしニンはまさに乙女だった。
「これからはグループを卒業して活動します。”彼氏”と」
彰人は付き合っていないと言うが、それは嘘である。
世間は腫物のニンと彰人を逃さず、追求した。彰人は逃げようとしてもニンの抱擁からは逃れられなかった。
一夜の間違いが人生を混沌とさせたのだ。
それだけでない。
ニンと同じグループの子にミクが居た。ミクはニンの親友で、ニンの可愛らしい正統派アイドルとは違う、クールな子だった。ミクは、世間が二人に批判を浴びせる一方、二人を応援していた。
ニンにもやっと彼氏ができたと喜んでいたのだ。
どうやらアイドルが裏で男と付き合っているのは珍しくないようだ。
彰人はこの女たちに殺意を覚えた。
が、とある日、ニンが仕事でいないときに、ミクが部屋に来ると、どうやら少し趣が異なってきた。
「私もアイドルやめて彼氏作ろうかな。もうなんか疲れちゃったし」
といつもは大人らしい彼女が弱気に長い髪を指で巻くと、彰人の何かが刺激されたようである。
彰人はミクを励まそうと相談に乗った。すると次々と事務所やアイドルへの文句が出てきた。
冗舌になり過ぎたのか、ミクは
「ニンがいっつもどん臭いから――あっ」
と口を零した。
単なる不満だったのかもしれない。
ただ彰人はそうは思わなかった。彰人が続けて、自分に相談せず何もかも決めるからうざい、とニンへの不満を露わにした。
するとミクは刺激されたようだ。驚く肌に悪意が沈んだ。
「ほんとにそうだよね。アイツのせいでうちのグループは今、最悪だし。事務所に言われてしょうがなくアイツと付き合ってたけど。そのせいで他の子から嫌われるし、ほんとありえない」
ニンへの不満で意気投合した二人はだんだんと親密になっていった。
それどころか彰人はミクこそが自分のことを理解してくれる唯一の人だと思い始めていた。ミクは賢く、話も合う。そして何よりもほっそりとした身体の、スタイルが良い。
となれば彰人がミクをベッドに押し倒すのは時間の問題だった。
「きてよ……」
と自信のないミクの下着を剥がしていく。
彰人はこれこそが真の恋だと信じていた。
アイドルではなくミクを好きになった。アイドルという括りではない。ミクという一人の女を正真正銘見てきたのだ。
もしもこの先に残念なおっぱいがあったとしても、何も怖くないと。
それがまぁ、美しいおっぱいだった。ほどよく膨れた胸に鮮やかな桃色が丘を立てていた。
どこぞの女とは大違いだと、彰人は感動した。
その夜は激しかった。
激しすぎてマンションが東に三度ほど傾いた。
しかしこうなると二人の寝床には一ついらない皴が尖って煩かった。
ミクはミクで頑固なところがある。二人のために全てを捨ててどこかへ逃れるなど許せなかった。
だったらどうすればいい?
いつからかニンは行方不明になった。
世間はニンを酷く嫌っていたから警察はまともな捜査をしなかった。
それから二人は幸せに暮らした。
アイドルのミクと、秘密の恋人彰人。
めでたしめでたし。
適当になったわ




