逆さ
諸君は、逆さになったことはあるだろうか?筋力に任せた、窮屈な逆さではなく、例えるならばベッドの側面から頭のみを重力に従うようにだらんとさせる。そういったような事だ。その感覚に、私は取り憑かれた事があった。ベッドにて寝ている時、寝ていると言っても睡眠をするでもなく怠惰を極めている時のことであった。幼い頃はしていたが、今となってはもうしなくなったあの頃から、久方ぶりにベッドの側面から頭を放り出した。頚椎が伸びていくような。分断されていくような。分断と言っても苦痛のものではなく、縄ばしごがだらんだらんと落ちていくようなそういった、心地よい浮遊感に自らの首から頭は襲われていく。普段、天を自らの頭頂は向き、足は地を這うのみである。それが、今では反対の関係で存在している。そうであれば、地は天にあり、天は地にあるような気にもなってくる。そうしているうちに自らの体は天へと落ちていった。自分が上を見上げれば、自身はベッドから頭を投げ出し、足は天を向いている様子が見えた。不安になり、戻ろうと思うが、それは叶わない。何故なら地は天にあるため、地に向かうのが必然だからだ。そうして自分の姿が見えなくなり、天へと墜落していってもはや浮遊感とも言えず、恐怖に包まれていた頃、自らの頭は地を向き、足は天を向いていることに気づいた。あの経験の恐ろしさは一体なんだったのか、賢明なる諸君には気づきを得ることが出来るかもしれないが、愚昧なる自らにその理解をすることはできなかった。




