表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

――禁字《きんじ》――


『――はい。 それでは次に、“使用禁止漢字”について説明します』

教室が静まり返った。

黒板の前に立つ国語教師、 灰崎ミドリは、 いつもより少しだけ真面目な顔をしていた。

六月。

蒸し暑い午後。

窓の外では、 蝉が狂ったように鳴いている。

誰も話を聞いていなかった。

……一人を除いて。

『なぁ、“使用禁止漢字”ってなんだと思う?』

後ろの席の男子、 田上ユウトが小声で笑う。

『都市伝説じゃね?』

『SNSで書くと死ぬとかいうやつ?』

『んなわけ』

クラス中から、 クスクス笑いが漏れる。

だが。

教師は笑わなかった。

『冗談ではありません』

その声で、 空気が変わった。

灰崎先生は黒板に、 大きくチョークで文字を書く。

【■■】

しかし。

書いた瞬間だった。

バキン!!

チョークが折れた。

教室の電気が、 一瞬だけ消える。

『っ……』

先生の顔色が青い。

黒板を見る。

そこにはもう、 文字が消えていた。

誰かが呟く。

『……今、何書いた?』

誰も答えられない。

思い出せない。

たった今見たはずなのに。

先生は震える手で、 黒板を消した。

『いいですか。 これから先、 “あの漢字”を見ても、 書いても、 読んでもいけません』

教室の空気が冷える。

『特に――』

先生がゆっくり言った。

『スマートフォンで変換してはいけない』

その瞬間。

教室後方で、 女子の悲鳴が上がった。

『え……?』

全員が振り向く。

窓際の席。

女子生徒の一人が、 スマホを落としていた。

画面には、 文字入力画面。

そこに、 見たことのない漢字が表示されている。

グチャ……

嫌な音がした。

女子生徒の右目から、 黒い液体が溢れ始める。

『え……なに……?』

ボタボタ。

黒い液が床へ落ちる。

クラス全員が凍りついた。

彼女はゆっくり顔を上げる。

そして、 笑った。

『みつけた』

瞬間。

彼女の首が、 ありえない方向へ捻じ曲がった。

ゴキン!!

悲鳴。

机が倒れる。

誰かが吐く。

女子生徒は、 折れた首のまま立ち上がる。

口が裂ける。

そこから、 黒い“文字”が溢れ出していた。

漢字だった。

無数の、 読めない漢字。

それらが虫のように床を這う。

『逃げろォォォ!!』

誰かが叫ぶ。

教室がパニックになる。

だが、 灰崎先生だけは絶望した顔で呟いた。

『もう遅い……』

彼女は震えながら、 黒板を見つめる。

そこにはいつの間にか、 大量の文字が浮かんでいた。

【見タ者ハ書キタクナル】

【書イタ者ハ読ミタクナル】

【読ンダ者ハ】

その先は、 黒い染みで潰れていた。

ユウトは震える。

意味がわからない。

だが一つだけ、 本能で理解できた。

“あの漢字”は、 人間に読まれることで、 この世界へ出てくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ