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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
 聖女は拳を下ろさない

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聖女たるもの、条件をつきつけられます

正式な処分は、翌朝に持ち越された。


 それだけで、この国がどれほど迷っているか分かる。

 私は用意された部屋で、静かにお茶を飲んでいた。


(軟禁、に近いですね)


 扉の外には騎士。

 出入りは自由だが、行き先は必ず記録される。


 管理。

 第1章で出てきた言葉が、現実になっていた。


 昼前、再び呼び出しがかかる。

 謁見の間ではない。

 もっと小さく、閉じた会議室だった。


 王、宰相、騎士団長。

 それから、見知らぬ男が一人。


「聖女セレナ」


 王は疲れた顔をしていた。


「まず言っておく。

 昨夜の行動で、あなたを処罰すべきだという声は強い」


「当然でしょうね」


 即答すると、宰相が眉をひそめた。


「だが」


 王は続ける。


「同時に、あなたを支持する声も、無視できない」


 私は黙って聞いていた。


「よって、処罰は見送る」


 空気が、わずかに動く。


「代わりに、条件を提示する」


 来ましたね、と思った。


「条件とは」


「あなたは、今後も“行動する聖女”でいて構わない」


 騎士団長が、驚いたように顔を上げる。


「ただし」


 宰相が言葉を継いだ。


「制限付きだ」


 書類が机に置かれる。


「案件は、王宮が把握する」

「武力行使は、事後報告を義務とする」

「過剰な被害が出た場合、責任は聖女が負う」


 私は、紙に目を落としたまま言った。


「ずいぶん、曖昧ですね」


「裁量を与えている、とも言える」


 宰相の言葉に、私は顔を上げる。


「責任だけは、はっきり私に押し付けて」


 沈黙。


「構いません」


 私は、きっぱりと言った。


「その代わり」


 全員の視線が、私に集まる。


「一つ、こちらの条件も飲んでください」


「……聞こう」


「私の判断で動いた結果を、後から“聖女の暴走”として切り捨てないこと」


 宰相の表情が、険しくなる。


「それは――」


「都合が悪くなったら、象徴を壊す。

 そういう保険でしょう?」


 はっきり言うと、騎士団長が息を呑んだ。


「それは、困ります」


 私は静かに続ける。


「拳を振るう覚悟はあります。

 嫌われる覚悟も」


 拳を、軽く机に置く。


「ですが、責任だけを負わされるつもりはありません」


 王は、しばらく黙っていた。


 やがて、苦笑する。


「……交渉上手だな、聖女」


「必要な経験は、現代日本で積んできました」


 その一言で、場の緊張が少し緩む。


「分かった」


 王は頷いた。


「聖女の行動は、王権が保証する」


 宰相が渋い顔をするが、王は止めなかった。


「ただし」


 王の目が、鋭くなる。


「一度でも、取り返しのつかない事態を招けば」


「その時は」


 私は、即答した。


「私を、聖女から降ろしてください」


 会議室が静まり返る。


「……後悔はしないか」


「しません」


 私は、まっすぐに答えた。


「聖女たるもの」


 一拍置いて、言う。


「自分の拳の重さくらい、理解していなければなりません」


 会議は、そこで終わった。


 部屋を出ると、騎士団長が隣に並ぶ。


「……あなた、本当に怖い人ですね」


「今さらです」


 彼は、苦笑した。


「ですが」


 少し、声を落とす。


「あなたが前に立つなら、私は背後を守ります」


 私は足を止め、彼を見た。


「それは、心強いですね」


 その日の夕方、新たな報告が届いた。


 王都北区。

 孤児院への嫌がらせ。

 裏で糸を引く貴族の名。


(始まりましたね)


 私は、外套を手に取った。


「行かれますか」


 騎士団長の問いに、私は微笑む。


「ええ」


 拳を、静かに握る。


「条件付きでも、聖女ですから」

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