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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
召喚されまして、聖女です

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聖女たるもの、引き返しません

王との謁見から三日後。

 王都は、目に見えて不穏だった。


 噂は、もう制御不能になっている。


「拳で悪を裁く聖女」

「貴族を恐れさせた危険な存在」

「民の味方か、秩序破壊者か」


 どれも事実で、どれも歪んでいる。


 城の廊下を歩けば、視線が突き刺さる。

 期待と恐怖が、同じ目に宿っていた。


「聖女様」


 騎士団長が、いつもより低い声で話しかけてくる。


「今夜、王都南区で暴動が起きる可能性があります」


「原因は?」


「聖女様の名を出して、不正貴族を糾弾しようとする動きが」


 私は足を止めた。


「……死人が出ますね」


「はい」


 即答だった。


「止めます」


「ですが、王の許可が――」


「間に合いません」


 私は静かに言う。


「放置すれば、聖女の名で血が流れる」


 それだけは、許せなかった。


 夜。

 南区はすでに人で溢れていた。


「聖女様が認めた正義だ!」

「悪い貴族を引きずり出せ!」


 興奮した声。

 剣や棒を手にした民衆。


(これは……)


 私の存在が、火に油を注いでしまった。


 前に出る。


「下がってください」


 声は、決して大きくない。

 だが、不思議とざわめきが止まった。


「私は、裁きを命じていません」


 民衆の視線が集まる。


「怒りは、分かります」


 拳を握り、開く。


「理不尽に傷つけられ、奪われたなら、怒って当然です」


 数人が頷いた。


「ですが」


 声を強くする。


「その怒りで、別の誰かを傷つけた瞬間」


 私は一歩、踏み出した。


「あなた方は、守る側ではなくなります」


 沈黙。


「聖女様……」


 誰かが縋るように言った。


「では、どうすれば……」


 私は答えた。


「私がやります」


 その瞬間、後方から怒号が飛ぶ。


「ふざけるな!

 聖女を利用してるだけじゃないか!」


 貴族側の私兵だった。


 次の瞬間、剣が抜かれる。


(来た)


 私は迷わなかった。


 剣を振り下ろそうとした男の懐に入り、肘を叩き込む。

 鈍い音。

 剣が落ちる。


 続けて、別の男の足を払い、地面に叩き伏せる。


「下がってください!」


 怒号と悲鳴。

 混乱。


 だが、私は止まらない。


 殴る。

 投げる。

 締める。


 殺さない。

 壊しすぎない。


 必要な分だけ。


 気づけば、私兵たちは地面に転がり、動けなくなっていた。


 静寂が訪れる。


 私は、荒い息を整えながら、民衆を振り返った。


「これ以上は、不要です」


 誰も、動かなかった。


「帰ってください」


 その声に、ゆっくりと人々が散っていく。


 血は、流れなかった。


 遅れて到着した騎士団が、呆然と現場を見る。


「……聖女様」


 騎士団長が、かすれた声で言う。


「これは……」


「私の責任です」


 私は答えた。


「聖女の名を背負った以上、逃げません」


 その夜、私は再び王の前に立った。


「無断行動。

 武力行使。

 暴動介入」


 宰相が淡々と読み上げる。


「処罰を覚悟していますか」


 私は頷いた。


「はい」


 王は、長く沈黙した。


 やがて、低く言う。


「……民は救われた」


「はい」


「死人も出ていない」


「はい」


「だが、前例は作った」


 私は、まっすぐに王を見た。


「それでも、引き返しません」


 王は、苦笑した。


「厄介な聖女だ」


 その言葉に、私は少しだけ笑った。


「承知しております」


 こうして、第1章は終わる。


 私はまだ、聖女として正解かどうか分からない。

 けれど。


「聖女たるもの」


 心の中で、はっきりと誓う。


「見過ごす訳には、参りません」


 それだけは、もう揺るがなかった。

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