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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
召喚されまして、聖女です

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聖女たるもの、檻の中では祈れません

呼び出しは、唐突だった。


「聖女様、王がお会いになりたいと」


 その言葉を聞いた瞬間、私は紅茶のカップを置いた。

 静かに、音を立てないように。


「……分かりました」


 拒否権がないことは、分かっている。


 謁見の間は、相変わらず広く、豪奢で、息苦しかった。

 玉座に座る王、その脇に立つ宰相。

 さらに壁際には、見覚えのある貴族たち。


(勢揃い、ですね)


「聖女セレナ」


 王が口を開く。


「近頃の行動について、話がある」


「はい」


 私は一礼した。

 形式は、まだ守られている。


「民の支持が急速に集まっている」


「それは、喜ばしいことでは?」


「同時に、混乱も生じている」


 宰相が続けた。


「貴族社会は、均衡の上に成り立っているのです」


 私は視線を上げる。


「均衡、とは」


「急激な変化は、反発を生む」


「反発されているのは、不正を働いていた側では?」


 空気が、ぴんと張り詰めた。


「聖女様」


 宰相の声が低くなる。


「あなたは、少々やり過ぎです」


「基準を伺っても?」


「暴力です」


 はっきりと言われた。


「聖女が、拳を振るう」


 宰相は首を振る。


「それは象徴として、致命的だ」


 私は、少し考えた。


「象徴、ですか」


「ええ。あなたは希望であり、信仰であり――」


「人、ではない」


 私の言葉に、誰かが息を呑んだ。


「そう仰りたいのですね」


 王が、初めてわずかに眉を動かした。


「言い方を変えよう」


 王はゆっくりと告げる。


「聖女は、管理されるべき存在だ」


 その瞬間、胸の奥で何かが冷えた。


「管理、とは」


「行動制限だ」


 宰相が書類を差し出す。


「今後、聖女様は単独行動を禁ずる。

 案件はすべて、王宮の承認を経て――」


「却下します」


 自分でも驚くほど、即答だった。


 謁見の間が凍りつく。


「……何と?」


「却下します」


 私は丁寧に繰り返した。


「それでは、助けられる人も助けられません」


「聖女様!」


 貴族の一人が声を荒げる。


「あなたは何様のつもりだ!」


 私はそちらを見た。


「聖女です」


 静かに、しかしはっきりと。


「そして、一人の人間です」


 王が、深く息を吐いた。


「理解してほしい。

 これは、あなたを守るためでもある」


「檻に入れることが、守ることですか?」


 沈黙。


 私は一歩前に出た。


「私は、祈るためだけに召喚されたのではありません」


 拳を、ゆっくりと握る。


「現実を見て、動くために、ここにいます」


 宰相の目が、鋭くなる。


「……では、制御できない存在だと?」


 その言葉に、私は笑った。


 ほんの少しだけ。


「最初から、制御できるなど思わないでください」


 次の瞬間、背後で音がした。


 剣が、抜かれる音。


「失礼します、聖女様」


 騎士が一歩前に出る。


「念のため、拘束を――」


 私は振り返った。


「触れないでください」


 声は、穏やかだった。


 それが逆に、空気を凍らせる。


「……命令です」


「では、仕方ありませんね」


 私は一歩踏み出した。


 殴らない。

 だが、動く。


 騎士の手首を取り、体勢を崩し、床に伏せさせる。

 一瞬の出来事だった。


「乱暴は、したくありません」


 私は言う。


「ですが、拘束される理由もありません」


 騎士団長が、慌てて割って入った。


「待ってください!」


 彼は私と王を交互に見る。


「このままでは、取り返しがつきません」


 王は、しばらく黙っていた。


 やがて、重く口を開く。


「……今日は、ここまでだ」


 謁見は、強制的に終了した。


 部屋を出る廊下で、私は立ち止まった。

 手が、少し震えている。


(怖くない、わけがない)


 だが。


 檻に入って祈るだけの存在になるくらいなら。


「聖女たるもの」


 小さく、しかし確かに呟く。


「見過ごす訳には、参りません」


 背後で、騎士団長が静かに頭を下げた。


「……あなたは、本当に厄介な方だ」


「誉め言葉として、受け取ります」


 笑うと、彼は困ったように息を吐いた。


 嵐は、もう始まっている。

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