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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女のやり方が、他国や王権に目を付けられる

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英雄という名の檻

翌朝。


 戦場は、妙に静かだった。


 昨日までの怒号が嘘のように、霧が地面を這っている。


「……生き残った、という顔ですね」


 団長が言う。


「生き延びただけです」


 私は、乾いた声で答えた。


 でも。


 私を見る視線は、昨日と違った。


「……聖女様だ」


「敵兵を、素手で」


「前線を、押し返したって」


 噂が、形を持つ。


 尾ひれをつけて。


 事実より、都合よく。


「……違います」


 私は、聞こえるように言った。


「押し返したのは、皆です」


 誰も、聞かない。


「聖女様が来てから、流れが変わった!」


 それも、事実ではある。


 だから、厄介だ。


 陣営の中央。


 臨時の壇。


「……表彰?」


 団長が、顔をしかめる。


「英雄を、作りたいんでしょう」


 司令官が、声高に言う。


「聖女殿の奮闘により!」


 拍手。


 歓声。


 私は、壇に上がらされた。


「……やめてください」


 小さく言った。


 誰にも、届かない。


「我々は、希望を得た!」


 司令官が、続ける。


「聖女がいる限り、

 我らは負けない!」


 嘘だ。


 でも。


 皆、信じたい。


「……聖女様」


 若い兵が、近づいてくる。


「あなたみたいに、なりたい」


 笑えなかった。


「……ならないでください」


「え?」


「これは」


 拳を、見る。


「真似するものじゃない」


 兵は、戸惑った顔で去った。


 夜。


 帳の中。


 団長が、低く言う。


「……利用されてます」


「分かっています」


「英雄にされると」


 一拍。


「退けなくなります」


 私は、苦笑した。


「殴る聖女は、

 便利ですから」


「壊れたら?」


「代わりを探すでしょう」


 外では、歓声。


 勝利の宴。


「……行きませんか」


「行きません」


 私は、寝台に座る。


「英雄は」


 拳を、握る。


「檻です」


 その時。


 使者が、駆け込んできた。


「聖女殿!」


「何ですか」


「王城より、正式命令です」


 嫌な予感。


「次の作戦」


 一拍。


「貴女を、先頭に」


 ……来た。


「盾にする気ですか」


「士気が上がります」


 私は、立ち上がった。


「人は、盾じゃない」


「聖女なら、耐えられる」


 その言葉で。


 何かが、完全に冷えた。


「……分かりました」


 静かに言う。


「ただし」


 視線を合わせる。


「私のやり方で、やります」


 使者が、頷く。


「英雄として、

 戦ってください」


 違う。


 私は。


 英雄になりたくて、

 殴っているんじゃない。


 でも。


 この檻を、

 壊すためなら。


 殴るしか、ない。

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