表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女のやり方が、他国や王権に目を付けられる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/40

殴っても、救えない場所

戦場は、音が多すぎた。


 剣がぶつかる音。

 怒号。

 悲鳴。


 そして、遅れて届く血の匂い。


「……ここが、前線です」


 団長が、低く言う。


「想像より、静かですね」


 私の声は、妙に落ち着いていた。


「慣れです」


 その言葉が、重い。


 陣地の外。


 負傷兵が、次々に運び込まれてくる。


「聖女様!」


「癒しを!」


 伸びる手。


 私は、止まった。


「……待ってください」


 その一言で、空気が固まる。


「全員は、救えません」


 正直に言った。


「優先順位を、決めます」


 どよめき。


「呼吸がある人」


「止血が可能な人」


「今、殴っても間に合わない人は、後回しです」


 冷たい言葉。


 でも、現実。


「……分かりました」


 医師が、歯を食いしばる。


 治療が始まる。


 その間も、外では戦闘。


「……来ます」


 斥候が、叫ぶ。


「敵部隊、突破!」


 私は、陣地の外に出た。


 剣を構えた敵兵。


 目が合う。


 若い。


 怖がっている。


「……」


 拳を、握る。


 踏み込む。


 殴る。


 骨が、軋む感触。


 倒れる。


 でも。


 次が来る。


 次も。


 終わらない。


「……団長!」


 叫ぶ。


「止まりません!」


「分かってる!」


 敵も、必死だ。


 命を賭けて、命を奪いに来ている。


「……殴っても」


 息が、荒い。


「救えない……!」


 足元に、倒れている兵。


 敵か、味方か。


 もう、分からない。


 その時。


 砲撃。


 地面が、跳ねた。


「伏せろ!」


 衝撃。


 視界が、白くなる。


 気づいた時、私は地面に転がっていた。


「……聖女殿!」


 団長の声。


 体は、動く。


 でも。


 視界の端。


 瓦礫の下に、人影。


「……っ」


 駆け寄る。


 少年兵。


 まだ、子どもだ。


「……助けて」


 掠れた声。


 私は、瓦礫を持ち上げようとした。


 重い。


 無理だ。


「……ごめんなさい」


 声が、震える。


「殴っても、

 これは、どかせない」


 少年は、笑った。


「……聖女でも、

 無理なもの、あるんだな」


 そのまま、動かなくなる。


 私は、立ち尽くした。


 夜。


 陣地の端で、拳を見つめる。


 血と、土と、震え。


「……全部、止められると思ってましたか」


 団長が、隣に座る。


「……少しは」


 正直に言う。


「無理です」


「ええ」


 彼は、空を見る。


「戦場は、

 殴る相手を、選ばせてくれません」


 私は、手袋を外した。


「……それでも」


 拳を、握る。


「殴るのを、やめません」


「なぜ?」


「やめたら」


 声が、低くなる。


「ただ、見てるだけになる」


 団長は、何も言わなかった。


 戦場で。


 初めて。


 私は、理解した。


 暴力は、万能じゃない。


 でも。


 ゼロにしたら、

 もっと多くが、死ぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ