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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女のやり方が、他国や王権に目を付けられる

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37/39

聖女のやり方は、都合が悪い

朝の空気は、張りつめていた。


 街は静かだ。

 けれど、第7章の終わりとは違う。


 恐怖が引いた後に残る静けさではない。

 観察されている静けさ。


「……視線が増えましたね」


 団長が、城壁の上から街を見下ろして言う。


「ええ」


 私は、欠伸を噛み殺した。


「民じゃない」


 視線の質が違う。


 値踏みする目。

 計算する目。


 ――政治の目。


「王城からの使者が、到着しています」


 騎士が、駆け寄ってきた。


「予定より早いですね」


「向こうは、待てないんでしょう」


 私は、手袋を腰に下げ直した。


 殴るためではない。

 外さないためだ。


 謁見の間。


 並んでいるのは、見慣れない顔。


 王都の高官。

 軍部の代表。

 そして。


「……隣国の?」


 団長が、眉をひそめる。


「ええ」


 私は、視線を向ける。


 笑顔が、完璧すぎる男。


「初めまして、聖女殿」


 柔らかい声。


「我が国より、視察に参りました」


 視察。


 便利な言葉だ。


「ようこそ」


 私は、軽く会釈した。


「で、何を見たいんですか」


 男は、目を細める。


「噂通り、率直ですね」


「回りくどいの、嫌いなんです」


 空気が、少し凍る。


「聖女殿」


 別の高官が口を挟む。


「最近の貴女の行動について、

 王城としては懸念を――」


「暴力的だから、ですか」


 即答。


 ざわつく。


「……言葉を選びなさい」


「選んでますよ」


 私は、にこりともせず言った。


「殴る理由を、

 ちゃんと説明しているだけです」


「それが問題なのです」


 軍部の男が、低い声で言う。


「聖女は、象徴だ」


「殴る象徴は、統制が取れない」


 ああ。


 なるほど。


「つまり」


 私は、首を傾げる。


「私が勝手に判断するのが、

 困る、と」


「その通りです」


 隣国の男が、口を開く。


「力は、管理されるべきだ」


「聖女殿ほどの力なら、なおさら」


 私は、黙った。


 団長が、前に出ようとするのを、手で制する。


「管理、ですか」


 ゆっくり言う。


「では、質問します」


 全員を見る。


「昨夜、倉庫で縛られていた人たちは」


 一拍。


「誰が、管理していましたか」


 沈黙。


「反聖女派は?」


「刃物を持った男は?」


 誰も、答えない。


「管理されていたのは」


 私は、静かに続ける。


「力じゃない」


「無関心です」


 空気が、重くなる。


「……聖女殿」


 王都の高官が、声を低くする。


「貴女のやり方は、前例がない」


「だから、危険なのです」


「ええ」


 私は、頷いた。


「分かっています」


「それでも」


 一歩、前へ。


「私は、民の前で殴りました」


「隠れずに」


「命を守るために」


 視線が、交錯する。


 隣国の男が、微笑んだ。


「……素晴らしい」


 その笑顔に、嫌な予感。


「だからこそ」


 彼は、続ける。


「我々は、貴女を欲しい」


 団長が、息を呑む。


「……引き抜き、ですか」


「協力、と言ってください」


 私は、即答しなかった。


 その沈黙が、答えになると知りながら。


「聖女殿」


 男は、囁くように言う。


「貴女の拳は、

 この国だけに置くには、

 惜しすぎる」


 ああ。


 始まった。


 次の敵は。


 路地裏じゃない。

 刃物を持たない。


 王冠と、条約と、笑顔だ。

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