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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女は民の中に立たされる

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守れなかった命

鐘が鳴った。


 一度。

 二度。

 三度。


 その音は、警告だった。


「……遅かった」


 誰かが、呟いた。


 路地の奥。

 血の匂い。


 倒れているのは、男だった。

 まだ若い。

 顔見知りの、市井の男。


「……反聖女派、でしたね」


 団長が、低く言う。


「ええ」


 私は、膝をついた。


 刃物による傷。

 致命傷。


 もう、手遅れ。


「……聖女様」


 後ろで、声がする。


「あなたが殴らなくなったからだ」


 振り返る。


 怒りと、悲しみと、恐怖が混ざった目。


「前なら、助けられた」


「前なら、あいつらを殴って、

 止められた」


 私は、何も言わなかった。


 否定は、できない。


「……事実です」


 ゆっくり言う。


「私が、ここに来るのが遅れた」


 ざわめき。


「奇跡を使っていれば!」


「殴っていれば!」


 私は、立ち上がった。


「殴れば、救えた命もある」


 静まり返る。


「でも」


 拳を、見せる。


「殴ることで、

 失われた信頼もある」


「そんなの、今は関係ない!」


 誰かが、叫ぶ。


「人が死んだ!」


「ええ」


 私は、頷いた。


「だから」


 一歩、前へ。


「私は、ここに立っています」


 逃げない。


「この死を、

 私の判断の結果として、受け止めます」


 誰も、言葉を出せない。


「……聖女様」


 別の声。


「じゃあ、どうすればいいんだ」


 それは、責めじゃない。


 縋る声。


「……答えは、簡単じゃありません」


 私は、目を閉じる。


「でも」


 開く。


「次は、もっと早く動く」


「次は、迷わない」


「次は」


 声が、震える。


「守ります」


 その時。


 死体の影から、少年が出てきた。


 昨日の、あの少年。


「……父ちゃん?」


 静寂。


 誰かが、息を呑む。


「……うそだ」


 少年が、男に縋りつく。


「起きてよ」


 私は、動けなかった。


 声も、出ない。


 少年が、泣き叫ぶ。


 その光景が。


 私の中で、何かを壊した。


 夜。


 私は、一人で祈堂にいた。


「……聖女失格ですね」


 呟く。


 返事は、ない。


 拳を、床に打ち付ける。


 初めて。


 誰も、止めない。


「……殴るべき時に、

 殴らなかった」


 震える。


「守ると、言ったのに」


 扉が、静かに開いた。


「……自分を殴るな」


 団長だった。


「殴ってるつもりは」


「ある」


 彼は、真っ直ぐ見た。


「だからこそ、

 次を間違えるな」


 私は、顔を覆った。


「……次なんて、

 あるんですか」


「ある」


 即答。


「敵は、まだいる」


「そして」


 一歩、近づく。


「民も、まだ生きている」


 長い沈黙。


 私は、拳を開いた。


「……分かりました」


 声は、低い。


「次は」


 目を上げる。


「止めます」


 何を?


 誰を?


 もう、迷わない。


 鐘の音が、止んだ。

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