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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女は民の中に立たされる

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34/39

聖女は裁かれる側に立つ

朝だった。


 嫌になるほど、普通の朝。


 鐘の音が鳴り、パンの焼ける匂いが流れ、街は昨日と同じ顔をしている。


 ――表面上は。


「……来ました」


 団長の声は低い。


 役所の前。

 掲示板。


 そこに貼られた紙切れ一枚で、空気は一変する。


「告発文?」


 私は、紙を見上げた。


 そこには、整った文字で、こう書かれている。


『聖女による不当な暴力行為について

 昨日、路地において複数の市民が負傷

 正当な理由なき制圧行為

 これは権力による弾圧である』


「……上手い書き方ですね」


 ため息が出る。


「殴ってない。奇跡も使ってない。

 でも、“暴力”ではある」


「証人は?」


「いるでしょう」


 私は、周囲を見る。


 遠巻きに、視線。

 昨日までと違う、探るような目。


 殴らなかった聖女。

 でも、手加減はしなかった聖女。


 民は、その違いを正確に理解しない。


「……呼び出し、ですか」


 紙の下に、小さく記されている。


 本日正午。

 公会堂。


「逃げますか?」


 団長が、冗談めかして言う。


「逃げたら、事実になります」


 私は、首を振った。


「行きます」


 公会堂は、満員だった。


 前列には、役人。

 後列には、民衆。

 そして。


 壇上の中央。


「聖女殿」


 議長が、形式ばった声で言う。


「貴女は、市民に対し過剰な武力を行使したと告発されています」


「事実です」


 即答した。


 ざわめき。


「否定しないのか!」


「やっぱり暴力聖女だ!」


 私は、手を上げる。


「ただし」


 静かになる。


「理由があります」


「聞きましょう」


「刃物を持った男が、市民に危害を加えようとしていました」


「証拠は?」


「……彼女です」


 助けた女が、前に出てくる。


 顔色は悪い。


「本当に?」


 議長が、問い詰める。


「聖女に頼まれたのでは?」


 女は、俯いた。


 沈黙。


 私は、口を開いた。


「無理に答えなくていい」


 女が、はっと顔を上げる。


「あなたが傷つくなら、

 私は、裁かれて構いません」


 ざわつきが、広がる。


「……でも」


 女が、震える声で言う。


「あの人がいなかったら、私は……」


 言葉が詰まる。


 議長が、咳払いをする。


「証言は参考とします」


 視線が、私に戻る。


「しかし、聖女殿」


「はい」


「貴女の行為は、恐怖を生んだ」


 正論。


「力を持つ者が、力を使えば、

 それだけで威圧になる」


 私は、頷いた。


「その通りです」


「ならば、なぜ」


 議長が、声を強める。


「剣を持つ騎士に任せなかった!」


 私は、団長を見る。


 彼は、視線を逸らした。


「……私が、先に捕まっていました」


 静まり返る。


「そして」


 私は、議長を見る。


「騎士が動くまで、女は刺されていた」


「……!」


「だから」


 一歩、前へ。


「私が動きました」


 沈黙。


 民衆の中から、声。


「じゃあ、聖女様は悪くない!」


 別の声。


「でも、怖かった!」


「聖女が、力で黙らせるのは……」


 私は、深く息を吸った。


「怖かったなら」


 はっきり言う。


「それは、正しい感情です」


 どよめき。


「力は、怖い」


「だからこそ」


 私は、胸に手を当てる。


「私は、裁かれる場に立ちます」


 議長が、目を細めた。


「……罰を受ける覚悟が?」


「はい」


「それでも?」


「それでも」


 目を逸らさない。


「見過ごしません」


 長い沈黙の後。


「……審議は、保留とします」


 議長が、木槌を打った。


「本件、引き続き調査」


 完全な勝利じゃない。


 でも。


 私を、悪役に仕立て上げる舞台は、崩れた。


 外に出ると、団長が言った。


「……綱渡りでしたね」


「ええ」


 私は、空を見る。


「でも」


 拳を、握る。


「裁かれる覚悟がない正義は、

 ただの暴力です」


 敵は、次を打つ。


 もっと、深く。


 もっと、汚く。

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