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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
召喚されまして、聖女です

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聖女たるもの、後始末も仕事です

問題は解決した。

 少なくとも「現場」では。


 王都へ戻る馬車の中、私は対面に座る騎士団長をちらりと見た。

 彼は先ほどから、ずっと同じ姿勢で固まっている。


「……何か問題でも?」


 丁寧に声をかけると、彼はぴくりと肩を震わせた。


「いえ。問題というより……」


 言葉を探している様子だったので、私は助け舟を出す。


「想定外、ですか?」


「はい」


 即答だった。


「正直に申し上げますと、聖女様があのように……その……」


「殴るとは思っていなかった」


「はい」


 清々しいまでの肯定に、思わず笑ってしまう。


「安心してください。私も、殴る予定ではありませんでした」


「……え?」


「状況がそうさせただけです」


 騎士団長は、ますます困惑した顔をした。


 王城に戻ると、待っていたのは歓迎ではなく、緊急の協議だった。

 私が部屋に通されるなり、貴族らしき人々が一斉にこちらを見る。


「聖女様、あの件についてですが」


「はい。迅速に解決しましたね」


「方法が問題なのです!」


 声を荒げた男に、私は瞬きを一つ。


「暴力は、聖女のなさることではありません」


「ですが騎士団は武力を用いますよね?」


「それは、彼らの役目です!」


「役目の違い、ですか」


 私は首を傾げる。


「結果が同じなら、手段の違いにどれほどの意味があるのでしょう」


 ざわり、と空気が揺れた。


「聖女とは、希望の象徴なのです」


「ええ。ですから希望を守りました」


 私は淡々と続ける。


「怯えていた村人は救われ、盗賊は拘束されました。再犯の可能性も下がっています」


「しかし、拳で語る聖女など前代未聞です!」


「前例がないから間違いだ、と?」


 その問いに、誰も即答できなかった。


 私は小さく息を吐く。


「聖女は、綺麗でなければなりませんか?」


 その言葉は、思った以上に重く落ちた。


 沈黙の中、年配の宰相が口を開く。


「……あなたは、怖くはないのですか」


「何がでしょう」


「力を振るうことが」


 私は少し考えた。


「怖いですよ」


 素直にそう答える。


「だからこそ、無差別には使いません」


 拳を握る。


「必要な場面で、必要な分だけです」


 会議は、結論を出せないまま終わった。

 保留。様子見。そんな言葉が飛び交う。


 部屋を出たところで、騎士団長が追いかけてきた。


「聖女様」


「はい」


「……どうして、あそこまでなさったのですか」


 私は立ち止まった。


「見過ごせなかったからです」


「それだけ、ですか」


「それだけです」


 しばらく沈黙が続いた後、彼はぽつりと言った。


「正直に申し上げますと……」


「はい」


「少し、痛快でした」


 私は吹き出した。


「それは良かった」


 その日の夜、王城内で小さな騒ぎが起きた。

 使用人への暴行。貴族の横暴。

 ありがちな、しかし放置されてきた問題。


「聖女様にはお知らせしないように、と……」


 そう言いかけた騎士の言葉を、私は遮った。


「案内してください」


「ですが――」


「聖女たるもの」


 私は静かに言う。


「見過ごす訳には参りません」


 現場は、想像通りだった。

 泣く使用人。怒鳴る貴族。止めに入れない周囲。


「事情は把握しました」


 私は一歩前に出る。


「おや、誰だ君は」


「聖女です」


 貴族は鼻で笑った。


「だから何だ」


 次の瞬間、私は彼の手首を掴み、ひねり上げた。


「だから、ここで終わりです」


 短い悲鳴。

 床に転がる男。


「暴力はいけません」


 私は穏やかに言った。


「ですが、先に手を出したのはあなたです」


 その場にいた全員が、固まっていた。


 後処理は騎士団に任せ、私は部屋へ戻る。

 静かな夜だった。


(……明日も、揉めるだろうな)


 けれど後悔はない。


 正しいことを、正しく行う。

 たとえそれが、少し荒っぽくても。


 それが、私の聖女像だった。

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