聖女たるもの、潰される前に潰します
王城の裏口は、夜になると静まり返る。
灯りは最小限。
見張りはいるが、声はない。
「……本当に、ここから行くんですか」
騎士団長が小声で言った。
「正門から堂々と行けば、相手は引っ込む」
「裏から行けば?」
「逃げる前に、捕まえられる」
私は、マントの留め具を直す。
「それに」
団長を見る。
「今日は、“聖女の仕事”じゃありません」
「では何だと」
「掃除です」
団長は、ため息をついた。
「あなたが言う掃除は、だいたい血が出る」
「多少は」
「多少で済んだ例が?」
「……思い出さないでください」
倉庫街は、湿った匂いがした。
中央倉庫から少し外れた、
使われなくなった石造りの建物。
「ここですね」
「ああ」
中から、声がする。
ひそひそと、楽しげに。
「聖女も、そろそろ終わりだな」
「象徴は持ち上げるものじゃない。壊すものだ」
「王も弱腰だ。女一人、守りきれまい」
私は、扉の前で立ち止まった。
「……聞きました?」
「聞きました」
「全部?」
「全部です」
私は、深呼吸を一つ。
「じゃあ」
扉を、蹴破った。
派手な音。
「こんばんは」
中にいた男たちが、凍りつく。
「聖女です」
一歩、踏み込む。
「潰す相談は、本人がいる時にしてください」
「な、なぜここが……!」
「内通者の口は、軽いんですよ」
男が剣に手をかけた瞬間。
「動かないで」
言葉より早く、私は杖を振る。
床が、割れた。
石が跳ね、男の足を払う。
「ひっ……!」
「殺しません」
淡々と告げる。
「今日は、話を聞きに来ただけなので」
「聖女のくせに……!」
「ええ」
私は、男の前に立つ。
「だから、容赦しません」
拳で、殴った。
魔法じゃない。
ただの、力。
男が崩れ落ちる。
「聖女が、暴力を……!」
「奇跡より、効率がいいでしょう」
残りの男たちが、逃げようとする。
「逃げ道は、全部塞いであります」
団長が、後ろから言った。
「あなたが王都を舐めすぎた」
数分後。
床には、呻く男たち。
私は、息を整えた。
「名前」
「……」
もう一度、殴る。
「次は、歯が折れます」
「い、言う!言います!」
男は、震えながら吐いた。
「王都評議会の中に……三人……!」
「それだけ?」
「聖女を“暴走させた象徴”に仕立てて……
民衆の不信を煽る……!」
私は、静かに立ち上がった。
「なるほど」
団長を見る。
「準備は?」
「すでに」
「じゃあ」
私は、マントを翻す。
「次は、こちらの番ですね」
倉庫を出ると、夜風が冷たい。
「聖女」
団長が、少しだけ困った顔をした。
「あなたは、本当に――」
「分かってます」
先に言う。
「綺麗じゃない」
「それでも?」
「それでも、見過ごしません」
空を見上げる。
雲の切れ間に、月。
「聖女たるもの」
私は、歩き出す。
「潰される前に、
潰すんです」




