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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
召喚されまして、聖女です

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聖女たるもの、状況確認は必須です

目を開けた瞬間、まず思った。

 ここ、絶対に病院じゃない。


 白すぎる。清潔すぎる。静かすぎる。

 そして何より、天井がやたらと高い。


「……あの」


 声を出した途端、ざわりと空気が震えた。


 視線。視線。視線。

 数え切れないほどの人間が、私を取り囲んでいる。

 豪華な服。剣を帯びた男たち。祈るように手を組む人々。


(あ、これ……詰んだやつだ)


「聖女様……!」


 誰かが涙声でそう呼んだ瞬間、嫌な予感が確信に変わる。


(聖女。うん。ろくなことにならない)


 私はゆっくりと上半身を起こし、周囲を見渡した。

 全員が、期待と希望と切羽詰まった何かを混ぜた目でこちらを見ている。


「ええと……」


 言葉を選ぶ。

 まずは状況確認だ。


「ここは、どこでしょうか」


 その一言で、感極まったような空気が一気に溢れた。


「やはり!」「お告げ通りだ」「聖女様が目覚められた!」


 勝手に盛り上がる人々を前に、私は内心でため息をついた。


 前に進み出た壮年の男性が、深く頭を下げる。


「ようこそお越しくださいました、聖女様。我が国は、あなた様をお迎えするため――」


「すみません」


 丁寧に、しかしきっぱりと遮る。


「その前に一つ、確認させてください」


 場が静まる。


「私は、ここに来ることを望んでいましたか?」


 沈黙。

 完璧なまでの沈黙。


 それだけで答えは十分だった。


(ああ、やっぱり)


 異世界召喚。聖女。世界の危機。

 テンプレートのフルコースだ。


「状況は理解しました」


 私は息を整え、穏やかに微笑んだ。


「ですが、誤解しないでくださいね」


 全員が息を呑む。


「私は、万能の存在ではありません」


 ざわり、と空気が揺れる。


「祈れば何でも解決すると思われると困りますし、都合よく振る舞うつもりもありません」


 さっきまでの熱狂が、少しずつ不安に変わっていくのが分かる。


「それでも」


 私は続けた。


「困っている人がいるなら、見過ごす訳には参りません」


 その言葉に、人々は再び安堵した。

 だが、私は心の中で付け足す。


(方法は選ばないけど)


 その後、別室に通され、長い説明を受けた。

 魔王。魔物。治安悪化。内部腐敗。

 聞けば聞くほど、放置してきた結果の山積みだった。


「聖女様には、癒やしと慈悲をもって――」


「質問しても?」


 私は手を挙げた。


「話し合いで解決しない場合はどうなりますか」


 説明役の男が一瞬言葉に詰まる。


「……最終的には、騎士団が武力行使を」


 私は頷いた。


「つまり、暴力自体は否定されていない、と」


「聖女様が直接なさる必要は……」


「では、効率の問題ですね」


 空気が重くなる。


「私が手を出すと、困りますか?」


 誰も即答できない。


 私は微笑んだ。


「ご安心ください。無闇に暴れたりはしません」


 少し間を置いて、続ける。


「必要な分だけです」


 その日のうちに、王都近郊で問題を起こしている盗賊の件を知らされた。

 説得が目的、と念を押される。


 現場に着いた瞬間、私は理解した。


(これは、説得以前の問題ですね)


 怯える村人。笑う盗賊。

 完全に力関係が固定されている。


「聖女様、まずはお言葉を――」


「はい」


 私は一歩前に出た。


「お話は伺いました」


 盗賊たちは鼻で笑う。


「ですが」


 次の瞬間、私は一番近くにいた男の顎を、下から正確に打ち抜いた。


 鈍い音。

 崩れ落ちる身体。


 周囲が凍りつく。


「言葉が通じない相手に、言葉を重ねるのは非効率です」


 私は静かに言った。


「安心してください。命までは取りません」


 腰を引いた盗賊たちに、にこやかに告げる。


「抵抗しなければ、骨も折りませんから」


 結果、問題は速やかに解決した。


 騎士団は呆然とし、村人は半泣きで感謝していた。


「聖女様……その、少々荒っぽいような……」


 私は首を傾げる。


「救われましたよね?」


 誰も否定できなかった。


 こうして私は理解する。


 この世界では、

 正しさだけでは足りない。

 覚悟と実行力が必要なのだと。


「聖女たるもの」


 小さく呟く。


「見過ごす訳には、参りません」


 それが、私のやり方だった。

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