聖女たるもの、笑顔の代償を受け取ります
拍手は、しばらく鳴り止まなかった。
王都祭は、成功。
少なくとも、表向きは。
(……胃が死んだ)
控室に戻った瞬間、私は椅子に崩れ落ちた。
「顔色が、さすがに悪いですね」
騎士団長が、水を差し出す。
「笑顔、長時間は毒です」
「でしょうね」
そのとき。
空気が、変わった。
ほんの一瞬。
でも、確実に。
「……来ます」
私が言うより早く、外が騒がしくなる。
遠くで、爆ぜる音。
「花火じゃない」
騎士団長が、即断する。
「裏です」
私たちは、裏動線へ走った。
祭の喧騒を背に、
誰も見ていない場所へ。
「どこだ」
「中央倉庫です」
彼は、短く答えた。
「物資と人が、集まる場所」
「狙いは?」
「混乱。
そして」
言葉が、途切れる。
「あなたです」
中央倉庫は、半壊していた。
煙。
悲鳴。
でも、死者はいない。
(……抑えてる)
雑な破壊じゃない。
計算された混乱。
「出てきなさい」
私は、煙の中で声を張った。
「ここまでやって、姿を見せないなんて」
拍手が、響いた。
「さすがだ」
影から、数人。
その中央に、見覚えのある男。
「……調整役」
「覚えてくれて光栄だ」
彼は、楽しそうに笑う。
「祭で暴れる聖女。
なかなか、絵になる」
「民は、無事です」
「ええ。
今回はね」
私は、拳を握った。
「目的は、何ですか」
「確認だよ」
男は、肩をすくめる。
「君が、どこまで耐えられるか」
「……試した」
「そう」
その瞬間。
別方向から、風切り音。
「っ!」
避ける。
でも、遅れた。
背中に、衝撃。
床に、叩きつけられる。
「聖女様!」
「……大丈夫」
息が、苦しい。
男が、近づいてくる。
「表で笑い、裏で殴る」
屈み込む。
「そろそろ、壊れる頃だと思ったけど」
私は、笑った。
「残念ですね」
「何が?」
「まだ、折れてません」
拳を、床につく。
立ち上がる。
足が、震える。
(……きつい)
でも。
「あなたたちは」
一歩、前へ。
「勘違いしてる」
男が、眉を上げる。
「私を、消せば終わりだと」
拳を、振る。
真正面。
男は、避けた。
でも。
狙いは、彼じゃない。
背後の部下。
一人、二人。
連続で、沈める。
「……ほう」
男が、感心したように言う。
「象徴になった自覚、あるんだね」
「ええ」
私は、息を整える。
「だから、立ちます」
「一人で?」
「いいえ」
背後で、剣が抜かれる音。
騎士団長と、数人の騎士。
「表も、裏も」
私は、男を見据える。
「私一人の話じゃない」
男は、しばらく黙っていた。
そして、笑う。
「今日は、引こう」
「逃げるんですか」
「違う」
男は、指を鳴らす。
「次は、もっと派手にやる」
煙の中に、消える。
静寂。
私は、その場に座り込んだ。
「……正直に言います」
「はい」
「怖いです」
騎士団長は、何も言わない。
「でも」
拳を、膝の上で握る。
「やめたいとは、思いません」
彼は、静かに頷いた。
「それが、一番怖いですね」
「でしょう?」
祭の音が、遠くで続いている。
誰も知らない。
笑顔の裏で、何が起きたか。
でも。
聖女は、知っている。
笑顔の代償を。
それでも立つ、覚悟を。




