聖女たるもの、傷を理由にはしません
目を覚ましたとき、天井が白かった。
(……城か)
身体が、重い。
特に肩と脚。
「起きましたか」
騎士団長の声。
「ええ。
まだ、生きてるみたいです」
「冗談を言えるなら、大丈夫ですね」
そう言いながら、彼の顔は硬い。
「三針縫いました。
脚は、二日は無理をしない方がいい」
「二日ですか」
私は、天井を見たまま言った。
「それ以上は、無理です」
「……聖女様」
「分かっています」
分かっているから、言う。
「止まれば、向こうが勢いづく」
騎士団長は、反論しなかった。
それが、答えだった。
夜。
私は、外套を羽織った。
「歩けますか」
「走らなければ」
「……分かりました」
向かったのは、城下の外れ。
孤立した一角。
「次は、ここです」
地図を指す。
「“聖女を消せ”という話が、裏で回っています」
「直接的ですね」
「ええ。
笑えないくらいに」
現場は、静かだった。
静かすぎる。
(罠)
でも、行かない理由にはならない。
古い家屋。
中に、数人の気配。
「……来たぞ」
小さな声。
「聖女だ」
私は、扉を開けた。
中にいたのは、五人。
武器。
目つき。
(殺し屋じゃない)
(でも、躊躇もない)
「よく来たな」
一人が、笑う。
「傷、痛むだろ」
「ええ」
私は、正直に答えた。
「だから、早く終わらせます」
一斉に、動いた。
脚が、鈍い。
避けきれない。
刃が、腕をかすめる。
「っ……!」
でも、止まらない。
机を蹴る。
視界を塞ぐ。
一人の喉に、掌底。
倒れる音。
「まだだ!」
二人目。
三人目。
呼吸が、荒くなる。
(長引かせるな)
(短く、確実に)
最後の一人が、震えていた。
「……来るな」
「来ます」
私は、彼の前に立つ。
「あなたは、誰の命令ですか」
「言わねえ……」
「言わなくていいです」
拳を、振り下ろす。
倒れる。
静寂。
私は、壁にもたれた。
息が、苦しい。
(……限界)
でも。
外から、拍手が聞こえた。
「いやあ、見事だ」
知らない声。
影から、男が現れる。
「さすが、“殴る聖女”」
「……誰ですか」
「調整役です」
軽い口調。
「あなたを消すか、利用するか」
私は、笑った。
「どっちも、嫌ですね」
「でしょうね」
男は、肩をすくめる。
「でも、覚えておいてください」
その目が、冷える。
「あなたは、もう個人じゃない」
男は、消えた。
その場に、嫌な予感だけを残して。
帰り道。
「……狙われてますね」
「ええ」
私は、頷く。
「でも」
拳を、そっと握る。
「だから、やめる理由にはならない」
傷は、痛む。
恐怖も、ある。
それでも。
聖女たるもの。
傷を理由に、
見過ごすわけには、参りません。




