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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
準決勝 神威岬戦

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第56話 「炎を継ぐ者」



――春の練習試合が終わったあと。

俺様は、いても立ってもいられず監督室のドアを叩いた。


「監督、話があります!」


本当は最初から投手志望だった。

けど任されたのはレフト。

一方、タイチはもうマウンドに立っている。


くそっ、悔しい。

打席勝負では勝った。けど、試合には負けた。

勝負の神様は残酷だ。


(……もっと強くなりてぇ)

アイツにも宣言したんだ。“次は絶対に勝つ”ってな。



---


神威岬高校は、野球資料の宝庫だ。

図書室にも部室にも、フォーム解析のDVDや論文が山ほどある。

片っ端から読み漁って、いろんな投げ方を試した。

でも、どれも“俺の球”にはならなかった。


悩んだ末に、俺様は決めた。

もう一度、初心に戻って頭を下げるしかない。


「監督。俺、負けたくない相手がいます。

 投手として、全部鍛え直してください!」


ほとんど土下座みたいな勢いだった。


監督――家入 平。

名将にして、礼儀にうるさい男だ。

いつも言う。「スポーツマンシップを忘れるな」と。

だから俺様も礼儀だけは欠かさない。

……まあ、トウリとエイトは真逆だけどな。


監督は眉をひそめて俺を見つめた。

「……そこまで言うってことは、この前の試合で何か感じたんだな?」


「はい!」

迷いはなかった。


顎に手を当てた監督は、少し考えてから言った。

「本気で覚悟があるなら、見せたい映像がある。」


その一言に、全身が震えた。



---


ミーティングルーム。

スクリーンに映った映像を見た瞬間――息が止まった。


そこにいたのは、タイチに瓜二つの男。

いや、“似てる”なんてレベルじゃない。

まるで生き写しだ。目も、構えも、気迫も。


だが決定的に違った。

――圧が、違う。


足を高く上げ、弓のようにしなやかに振り抜く。

ボールがミットに収まるたび、観客が嵐のように叫ぶ。

一流のオーラ。誰が見てもそう分かる。


(まさか……この人が……)


アナウンサーの声が答えを告げた。

『一条選手、また奪三振――記録更新なるか!』


――やっぱり。タイチのじいちゃんだ。


「監督! この人、俺知ってます! 昔、会ったことがあるんです!」


「なんだと!? 本当に!?」

監督の声が裏返った。肩をがしっと掴まれる。

普段冷静な男が、まるで少年みたいに詰め寄ってくる。


「あの人はどんな様子だった!? 何を教わった!?」

矢継ぎ早の質問。

俺は短期間だけ指導を受けたこと、厳しくも温かかったことを話した。


監督は目を細め、静かに呟いた。

「……やっぱり。あの人は変わらないな。孫と野球をしていたか……良かった……」


涙がにじむ笑み。

その顔を見て、胸が熱くなった。



---


「監督、タイチのじいさんと知り合いだったんですか?」


「彼とは現役時代、バッテリーを組んでいたんだ。

 俺が捕手で、彼がエース。

 あの頃の一条は、新聞が放っておかないほどのスターだった。

 ……亡くなったと知ったときは、小さな記事でね。思わず泣いたよ。」


そんなすげぇ人だったなんて。

タイチですら知らない顔だろう。


ふと、ずっと聞きたかったことを口にした。

「監督……なんで日本の野球は衰退したんです? 海外じゃまだ人気なのに。」


監督の表情が一気に曇る。

「……俺の現役時代はまだ盛んだった。

 でも、とある学校の暴行事件が引き金だった。

 甲子園は中止。メディアの狂気が全てを壊した。

 一条も、その渦中にいた。

 たった一言が歪められて……家族も離れ離れになった。」


胸が締め付けられる。

タイチの家の“沈黙”の理由が、やっと分かった。



---


監督は俺に目を向けた。

「レン君、君はフォームで悩んでるな?」


ハッとしてうなずく。

「スリークォーターで投げてるが、今の君には合ってない。

 腰と軸が噛み合ってない。……だが、救いはある。」


監督の声が、静かに熱を帯びる。

「一条の投法だ。スリークォーター寄りのオーバースロー。

 君の体格に合っている。

 ただし――訓練は苛烈だ。怪我のリスクもある。覚悟はあるか?」


そんなもん、聞くまでもない。


「やります!!」


声がグラウンドに響くほど強く出た。

覚悟は、とっくにできてる。

甲子園で、アイツにもう一度挑むために。



---


翌日から、地獄のトレーニングが始まった。

足腰をいじめ抜き、フォームを磨き、映像を擦り切れるほど見返した。

それでも、全然辛くねぇ。

だって、あの時の約束が――今も胸にあるから。


そして今日。

背番号を背負った俺様は、このマウンドに立っている。


目の前には、幼なじみであり宿命のライバル。

タイチがバットを構え、俺様を真っすぐに見つめる。


心臓が鳴る。

世界が狭くなる。

俺様とタイチ、ただ二人だけの舞台。


「……行くぞ、タイチ」


腕を振る。

風が唸る。


――夢の対決、開幕だ。



---


この構成で、

✅ レンの覚悟と「炎の継承」がドラマティックに

✅ 野球衰退の背景が自然に織り込まれ

✅ 最後の「開幕」で読者のテンションを最高潮に引き上げ


“風”を継いだタイチに対して、“炎”を継いだレンが映える一話になってる。


ーーー場所をミーティングルームへ。

 監督は無言でリモコンを握り、巨大なスクリーンを起動させた。


 そこ映し出されたのは、タイチにそっくりな男。

 いやーー似ている、なんて生やさしいものじゃない。

 

 まるで生き写しだ。あの目がそっくりだ。


 だけどこの間会ったタイチと映像の中の彼とは明確な違いが1つだけあった。


 ーー圧だ。

 分厚い体躯、空気を震わせる存在感が違う。

 

 足を頭の近くまで高く振り上げる投球フォームは、まるで弓を引き絞る名人のようにしなやかだった。


 ボールがミットに収まるたび、観客の歓声が嵐のように響いた。

 打っても、走っても、一流。ーーそう、ひと目で分かる。




 ……そういえば、確かタイチのじいさんって、昔俺様が野球を教えてもらっていた時に

「実は俺も野球をやってた」って、さらりと話していたな。



 まさか、この選手ってーー。その時、アナウンサーが



「一条選手、また奪三振!!記録を塗り替えるか!!」



 そう話したから確信に至った。



一条選手……やっぱりタイチのじいさんか!?


 「監督、俺この人を知っているかもしれません。


……というよりほぼ間違いないです。今のアナウンスで分かりました!会ったことあります!!」



 俺がそう言うと、監督の目が大きく見開かれた。


 


「何だって!?レン君、あの人に会ったことがあるのか!」

 


肩をがしっと掴まれる。普段は冷静そのものの監督が、まるで少年のように畳みかけてくる。

 



「あの人はどんな様子だった!?どんなことを教わった?あの人は……」



 矢継ぎ早の質問。

 俺は、タイチのじいさんに短期間だけ指導を受けたこと、その厳しさと温かさを話した。


 監督は目を細め、光るものをにじませながら呟いた。



 「……そうか。やっぱりあの人は変わらないな。孫と野球をしていたか。良かった……」



 ほっとした笑み。

 その顔が、どこか懐かしさを帯びていた。


 「監督、タイチのじいさんと知り合いなんですか?」

 俺が聞くと、監督は遠くを見つめるように語り出した。


 「彼、一条選手とは、現役時代に一時期バッテリーを組んでいたんだ。

 当時、彼は生きる伝説。新聞が黙っていられないほどのスターだった。

 ……亡くなったと知ったときは、新聞の片隅の小さな記事でね。思わず涙が出たよ」


 胸の奥が熱くなる。

 そんなすごい人だったなんて、タイチですら多分知らない。


 俺はずっと抱えていた疑問を口にした。



 「監督……どうして日本で野球は衰退したんです? 海外ではあんなに人気なのに」




 しばしの沈黙が訪れ、 監督は重い口を開いた。


 「……俺の現役時代は、まだ野球は盛んだった。

 だが、とある学校で起きた暴行事件がすべてを変えた。

 甲子園も一時期、中断した。

 その時、メディアの渦中にいた一条選手は、ほんの一言が歪められ、誹謗中傷に晒された。

 家族は……散り散りになった」


 ――母さんが昔、タイチの家のことを聞いたとき悲しげだった理由。

 やっと合点がいった。



 そして、監督はゆっくりと俺を見つめた。


 「レン君。君は、フォームで悩んでいるんだったな」


 ーーあ、そうだ。本来の目的を思い出した。


 「君の体格なら、一条選手のピッチングが合っているかもしれない。

 今はスリークォーターで投げているよね?」


 俺様はうなずく。


 「でも見ていると、今の君には合っていない。腰の回転と軸が噛み合っていない」



 胸が冷たくなる。

 「じゃ、じゃあどうしたら……」


 監督は穏やかに微笑んだ。


 「そこで一条選手のフォームだ。

 スリークォーターといっても幅は広い。

 彼のようにオーバースロー寄りにすれば、君の可能性が開けるかもしれない」



 その言葉は、絶望していた俺に射し込む光だった。


 「ただしーートレーニングは苛烈だ。怪我のリスクもある。

 俺も最善を尽くすが、覚悟は必要だ」


 覚悟? そんなもの、とっくに決まっている。



 「やります!!」



 迷わず即答した。

 甲子園で、タイチとーーライバルと真正面からぶつかるために。


 翌日から、地獄のトレーニングが始まった。

 でも、不思議と辛くはない。

 オフの日も映像を繰り返し見て、下半身の使い方を体に叩き込む。


 そして――。


 背番号を背負った俺様は、ついにこの場所に立っている。


 目の前には、幼なじみであり、宿命のライバル。

 タイチがバットを構え、俺様をまっすぐに見返してくる。


 心臓が鳴る。

 視界が研ぎ澄まされていく。


 夢の対決のーーー開幕だ。








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