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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
準決勝 神威岬戦

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第53話   タイチ、覚悟のマウンド

ーー“エースの背中”を見たことがあるか?


 誰よりも熱く、誰よりも孤独に、チームの想いを背負って立つ人間の姿を。


 神威岬との激戦。

 燃えるような太陽の下で、リュウジ先輩が打たれ、

 そしてタイチがマウンドへと歩み出す。


 この回は、煌桜こうおう投手陣の“魂の継承”を描きます。

 風はまだ、止まらない。





ーー轟音のような歓声が球場を揺らした。


 レンが渾身のストレートを弾き返した瞬間、白球は弧を描いてスタンドに吸い込まれる。

 スコアボードには無情な数字ーー「2―4」。逆転。


 あのリュウジ先輩の真っ直ぐを、打ち返した。

 胸の奥が熱くなる。レン、なんてすごいやつだ。

 でも同時に、オレの視線はマウンドに釘づけだった。


 打たれた悔しさを必死に隠す、リュウジ先輩の背中。

 その汗が太陽の光を弾く。

 きっと誰よりも悔しいはずだ。

 もし自分なら、きっと膝が震えて立てない。


 監督の手がわずかに動いた。

 ――交代。

 アナウンスが響く。オレはグラブを握りしめ、足を前へ出した。


「お前なら大丈夫だ。自分を信じろ、タイチ」


 リュウジ先輩は、穏やかに言った。

 その笑顔は、悔しさの奥にある優しさで満ちていた。

 初めて見るはずなのに、なぜか懐かしい。

 胸の奥で、小さな炎が灯る。


 ――先輩は、オレを信じてくれている。

 なら、応えるしかない。


 灼熱のマウンド。

 足元の土が熱を放ち、視界が揺れる。

 こんな中で投げ続けていた先輩を思うと、胸が焼けるようだった。


 深呼吸ひとつ。

 ワインドアップ――。

 腕を振り切った瞬間、風が鳴った。


「バァァァァン!!」


 ミットに突き刺さる音。

 球場の空気が一瞬で変わる。

 球速なんてわからない。でも、今のオレは確かに過去を超えていた。


 続く直球で、打者は空振り三振。

 ヒカル先輩のミットが、確かにオレを導いていた。

 リュウジ先輩の魂を受け取り、オレの中の何かが覚醒していく。


 連続三者凡退。

 長かった窮地が終わり、炎天下に一陣の風が吹いた。


 ――ここから、逆転だ。

 拳を突き上げたオレは、胸の中で叫んだ。

 (必ず、取り返す!)


 ◆


 三回裏。

 捕手である僕は、指先の感覚を確かめながら息を整えていた。

 先ほどのディレードスチール。完璧にやられた。

 分かっていたはずなのに、身体が遅れた。

 仲間に謝る僕に、リュウは静かに言った。


「……ストレートで勝負したい」


 あの打者は、ホームランを放った強打者。

 常識でいえば、変化球でかわすべきだ。

 でも――リュウの目は揺らいでいなかった。

 捕手としてではなく、“仲間”として、その意志を信じたい。


 僕は頷き、サインを出す。

 結果は、痛烈な一撃。

 けれど、あの瞬間のリュウの真っ直ぐは、

 誰にも真似できない“覚悟の球”だった。


 交代のタイミング。

 彼はわずかに唇を噛み、僕に微笑んで言った。

 「次、頼むぞ」


 マウンドに向かうタイチ君。

 夏の光の中で、彼の背中が大きく見えた。

 入部した頃よりも、球の重みも、声の響きも、すべてが違う。


 相手ベンチには、幼なじみのライバル。

 球場の空気は神威岬一色。

 その重圧の中で、タイチ君は振りかぶった。


 ――稲妻のような軌道。


 ミットが痺れ、手の感覚がなくなる。

 それでも、心の奥で笑っていた。

 これが、タイチ君の野球だ。


 彼は一打者、また一打者と倒し、

 最後の打者を三振に仕留めた瞬間、

 眩しい笑顔を見せた。


 あの笑顔は、真夏の太陽よりもまぶしかった。

 それは、きっと未来への“風の光”。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


 今回は「エース交代と継承の回」でした。

 リュウジ先輩の“信頼”を受け継いだタイチが、いよいよ真のマウンドへ。

 そしてヒカル先輩の視点で描かれた「捕手としての覚悟」も、

 チーム全体の“風”を感じさせる重要な転換点になっています。

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