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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
準決勝 神威岬戦

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第52話 エースの誇り

リュウジ視点の回です。

誰よりも仲間思いで、誰よりも不器用な彼が選んだ“ケジメ”のストレート。

仲間を信じる痛みと、託す覚悟。

その想いが、次の世代へと受け継がれていきます。




スコアボードはーー2対2。


試合は、緊迫したまま中盤を迎えていた。


神威岬の流れを断つため、ヒカルが静かにタイムをかける。


俺たちはマウンドに集まり、息を潜めて作戦を練った。


 

「打たせてアウト二つ取りたいけど……次は、ホームラン打った“化け物”だ。敬遠か?」


「いや、歩かせて塁に出したら、何を仕掛けてくるか分からない」


 


言葉が飛び交い、時計の針が焦りを刻む。


その中で、ショートが髪をくるくるさせながら、軽い調子で言った。


 

「ツーシームで芯を外すのはどうかな〜〜」


 

一見ふざけているように見えるが、目の奥は真剣そのものだった。


たしかに、あの球なら芯を外して打ち取れるかもしれない。


……けど。


 

胸の奥で、別の熱が膨らんでいくのを感じていた。


 

「いや、ダメだ。アイツとはストレートで勝負したい!!」


 

自分の声が、真夏の空気を切り裂く。


一瞬、全員が黙った。


俺はタイチをまっすぐに見据える。


 

「もし俺がアイツとの勝負に負けたら、マウンドはお前に任せる。これが俺の“ケジメ”だ!!」


 

タイチの瞳が、まるで炎のように揺れていた。


迷いのない頷きが返ってくる。


ーーありがとう、タイチ。

お前なら、きっと分かってくれると思ってた。


 


最初にあいつを見たとき、正直“生意気な後輩”だと思った。


初日から「優勝します!」なんて大声で言うし、俺の特訓を見せてくれだの。


どうせ口だけの奴だろう。チームのエースは、この俺なんだからって。


 

でも、一緒に練習を重ねるうちに、考えが変わった。


あいつは、本当に野球を愛している。

高校に入るまで、一人で練習してきたと聞いたときは驚いた。

俺にはいつもヒカルがいた。

けど、タイチはずっと一人で、壁に向かって投げ続けてきたんだ。


 

地区大会決勝。俺が打たれた球を、レフトであいつが必死に追って捕った。


優勝を決めたあの日ーーあいつがいてくれたから、俺はここまで来られた。


 

食の好みは合わないし、時には口論にもなる。


けど今は、心から信頼している。


 

この試合、初回から俺の球は研究されていた。


内野手への負担は大きい。


だからもしこの打者に打たれたら、マウンドはタイチに託す。


それが俺のケジメだ。


 

ヒカルも、その俺のわがままを受け入れてくれた。


ーーありがとう、ヒカル。


 

さあ、全力で行く。



 


振りかぶり、指先から白球を放った瞬間ーー。


 


「キイィィィィィン!!!!」


 

鋭い音が、球場の空気を裂いた。


打球は高く、遥か上空へーーそして、スタンドに吸い込まれていった。


 

また……ホームラン、か。


 


全力は尽くした。

それでも、悔しい。


 

帽子のつばを深く下げ、誰にも顔を見られないようにする。


喉の奥が焼けるように熱い。

心臓の鼓動が、まだ止まらない。


 

監督がサインを送った。


「よくやった、交代だ」


 

俺は、マウンドを降りながら、胸の奥でつぶやく。


 


タイチ、あとは任せた。


神威岬の打線は強い。

けど、お前ならきっと大丈夫だ。


 

太陽が滲んで見えた。

それが汗のせいなのか、涙なのか、もう分からなかった。


 

ゆっくりと、ベンチへ向かう。


スパイクが土を踏むたびに、胸の奥で何かが締め付けられる。


けれどその痛みは、不思議と心地よかった。


 

きっとーー

この痛みが、仲間を信じる“証”なんだな。




ストレート

 → 直球。まっすぐ伸びる最速の球。

 スピードと気迫で勝負する“正面突破型”のボール。

 真っ直ぐすぎるぶん、相手に読まれやすいリスクもある。


ツーシーム(Two-Seam Fastball)

 → ストレートより少し遅く、わずかに沈むように曲がる球。

 ボールの縫い目(二本のシーム)に指をかけて投げるため、打者の芯を外しやすい。

 「コントロールと技術」で勝負する知的なボール。




---


リュウジが選んだのは、技術ではなく――信念でした。

だからこそ、打たれてもその背中が光って見える。

それが、彼という男の“ストレート”なんです。


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