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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
準決勝 神威岬戦

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第49話 ユーリの決意、絶たれた希望

試合の流れを変えるのは、一瞬の判断と、迷いのないプレーだ。

 グラウンドに響く金属音、舞い上がる砂、そして――風を掴む二遊間。

 夏の光の下、仲間の「信頼」が交錯する。

 これは、“守備の芸術”と呼ばれる一瞬の物語


スコアは2対0。

煌桜こうおうが先制し、なおも追加点のチャンスを狙う。

ベンチの空気は熱を帯び、応援席からはリズムを刻むような手拍子。

まさに“波”が来ていた。


先頭打者は惜しくも倒れたが、

続く2番目が鋭い当たりを一塁線へ運び出塁!

一死一塁――。

そしてレオが粘ってフォアボール。

気づけば一死一・二塁のチャンスだ!


「フッ、まだまだこれからだ」

レオの声がベンチまで響く。その言葉に、仲間たちの闘志が再び燃え上がった。

そして打席に立つのはーーユーリ。

大阪戦で決めた“神のセーフティバント”。

あの瞬間の光景が、誰の脳裏にもよぎる。

小柄な体で放った、あの一打。再現なるか。


「……決めるんだ」


ベースコーチのサインを見て、バットを短く構えるユーリ。

だがーー投手のボールは想像以上に伸びた!

キィンッ! ーーファウル。

観客席がざわつく。すかさず監督がサインを切り替える。

(打て、ユーリ)



息を整え、バットを握り直す。金属バットに太陽の光が反射して、きらりと光る。

場内の空気が一瞬、止まった。

投手がセットポジションで構える。右腕がしなり、白い軌跡が走る。

ーーパシンッ!!

完璧なスイング。芯を捉えた打球がセンター方向へ一直線!

土を跳ね上げるような低い弾道ーー抜ける!


「抜けっ……!」


その瞬間ーートウリが飛んだ。

地面すれすれで、鋭いダイブ!

白球を掴んだグラブが、太陽を切り裂く。

土煙が舞い上がり、まるでスローモーションのように時間が止まる。


「嘘だろ……!」


誰かの声がベンチで漏れた。



トウリは起き上がりざまに二塁へ送球!

エイトが踏み込みながら受け取り、

一塁へーー火を噴くような返球!!


ズバァンッ!

「アウトォ!!」


審判の右手が空を切る。


ダブルプレーだ、6-4-3!

煌桜のチャンスは、一瞬で掻き消えた。

 「くっ……!」

ユーリが唇を噛みしめていた。

全力で走った。けれど、届かない。

その悔しさが、砂の味になって口に残る。


ベンチから、ぽかんとした声が上がった。


「い、今の……何が起きたの?」


ヒロが首を傾げたまま、グラウンドを見つめている。

隣でオレが息を整えながら答えた。


「ダブルプレーだ、ヒロ。いわゆる“6‐4‐3”ってやつ」


 「ろく……よん……さん……?」 

ヒロが指を折って数えていると、

その横から軽い声が割り込んだ。


 「へぇ、トウリ君もだけど、エイト君もなかなかやるね」


ショート先輩が、ベンチの手すりにもたれながら笑った。

指先で長い髪をくるくると弄び、

まるで余裕の実況アナウンサーみたいな口調で続ける。


 「守備の完成度が高い。あれは練習量の差だよ」


 タイチは無言でグラウンドを見つめる。

 握った拳の中で、悔しさが静かに燃えていた。






相手ベンチが歓声に包まれる。

トウリとエイトがグラブをぶつけ合っていた。


「やったなァ、トウリ」

エイトが笑みを浮かべ、汗を拭いながら声をかける。


「当然だ」

短く返すトウリの声に、迷いはなかった。

その横顔は、どこまでも冷静で、まるで機械のように正確だった。


春の練習試合で見た彼らとは、もはや別のチームだった。

技術も、心も、すべてが“進化”している。


ユーリはその姿を見つめながら、拳を握りしめた。

(兄さん……やっぱり強くなった。でも、ボクも――負けない)




スコアボードは動かず、2対0のまま。

けれど、誰も下を向いていなかった。


「……さあ、ここからだ」

オレはグラブを握り直した。

攻撃を断たれても、守備で取り返す。

相手の反撃が始まる三回裏ーー

勝負は、ここからが本当の始まりだ。

夏の風が、グラウンドを走り抜けた。




 今回のクライマックスは、まさに「守備の神業」でした。

 作中で描かれた6-4-3のダブルプレーというのは、

 遊撃手(=6番)→二塁手(=4番)→一塁手(=3番)へとボールを渡す連携プレーのこと。

 ショートが打球をさばき、セカンドで一度アウトを取り、

 素早く一塁へ送球してもう一つアウトを奪うーー

 まるで時計の歯車が噛み合うような、精密なチームワークです。


 特に今回のトウリのダイビングキャッチは、ただの反射神経ではなく、

 “あらかじめそこに落ちる”と読んで飛び込んだ職人技。

 地面すれすれの打球に飛びついて、体勢を崩しながらも素早く二塁へ送球。

 そこにエイトが完璧なタイミングで踏み込み、一塁へ火を噴く返球。

 わずか2秒にも満たない連携が、煌桜の攻撃を止めた。


 6-4-3ーー数字で書くとシンプルだけど、

 その裏には何百回もの練習と、信頼の積み重ねがある。

 それを真正面から受け止めるユーリの悔しさもまた、“野球”という物語の一部だ。


 次回、風はどちらのチームに吹くのか。

 まだ、夏は終わらない。


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