第4話 風、再び
長く厳しかった冬が終わり、季節は春へ。
努力のすべてを胸に、タイチは“新しい野球の世界”へ踏み出す。
それは、もう誰にも頼らず、自分の足で掴んだ一歩だった。
厳しかった冬が、ようやく終わりを告げた。
街を淡いピンクに染める桜の花びらが、春の訪れを知らせている。
掲示板の前、人だかりの中でオレは番号を探していた。
心臓が、ドクドクとうるさい。
ーーあった。
そこに、オレの番号があった。
反射的に、ガッツポーズが飛び出す。
「やったな、タイチ!」
横で見ていた源さん――じいちゃんの後輩が、にやりと笑って肩を叩いた。
「はいっ! ありがとうございます!」
声が少し震えていた。
寒さのせいじゃない。胸の奥が熱くて、止められなかった。
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この春から、オレは私立・煌桜学園に通う。
かつて“野球の名門”と呼ばれた学校。
今は、“ちょっと強い進学校”らしい。
でも、そんな看板はどうでもいい。
オレはーー野球がしたい。
グラウンドの土の匂いが恋しかった。
汗のしぶきも、声を張り上げる瞬間も、全部。
あの風の中で、もう一度ボールを投げたかった。
「これからが本番だぞ、タイチ」
源さんは、少しだけ空を見上げて言った。
まだ冬の名残を残す風が、校門の前を抜けていく。
「……風、気持ちいいですね」
「風はな……想いがある場所にしか吹かねぇ。
だからお前が行け。もう一度、あのグラウンドへ。」
その言葉が、胸の奥にまっすぐ刺さった。
心が静かに燃える音がした。
「……はい! 絶対、吹かせてみせます!!」
オレは笑っていた。
泣き顔じゃない。本気の笑顔で。
胸の中で、何かが小さく弾ける。
逃げたくない。
どんな相手でも、この手でーー風を掴んでみせる。
冬を越え、タイチは新しい風を掴んだ。
そして始まる、新しい仲間、そして再び動き出す“衰退した高校野球”の物語。




