第31話 ルール変更!? そして現れた謎の男
甲子園出場が決まった煌桜学園。
けれど、その喜びの余韻も束の間――
ーー甲子園が近づいてくる。そんなある日
談話室で英単語帳をめくっていると、入口からドタドタと足音が響いた。
「タイチーっ! たーいーちーっ!!」
新聞を握りしめたユーリが猛ダッシュで突っ込んでくる。
勢い余って――
「わぁっ!!」
ガシャーンと盛大に転倒。
「お、おいおい、どうした!?」
「だ、大変だよーっ! これ見てっ!!」
息を切らせて突き出されたスポーツ新聞には、
でかでかとした見出しが躍っていた。
『甲子園、今年から7イニング制に決定!!』
「な、なんだって!?」
ユーリは半泣きで叫ぶ。
「野球界の歴史に残る大事件だよぉーっ!!」
泣くなよ……。
いや、オレも心臓バクバクなんだけどさ。
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その日の午後。
チーム全員が集まり、緊急ミーティングが開かれた。
監督の表情は真剣そのもの――いや、それ以上に憔悴しているように見えた。
目の下にはうっすらとクマ。
きっと、ルール変更への対応や報道対応で、ほとんど眠れていないのだろう。
「すでに知っていると思うが――」
低く、重い声が部室を満たす。
「甲子園は今年から7回制に変更だ。
そして“雨天順延”も廃止される。
つまりーー試合中に大雨が降ったら、その時点で終了。
点差そのまま、勝敗が決まる」
監督は強く拳を握った。
「連盟(高野連)の発表では、テレビ中継料の激減による“財源の不足”が最大の理由だ。
予備日確保のための球場使用料、人件費……どれも賄いきれない。
さらに“試合時間が長すぎる”という世論の声もある。
――『時代に合わせたスポーツ改革』だそうだ」
(七回制か……。
サッカーやバスケみたいに短時間で決着する競技が求められてる。
“九回もやってる暇はない”ってわけか)
監督は深く息を吐く。
「かつての高野連なら、伝統の九回制を死守しただろう。
だが、OBや企業からの支援が減り、
いまや“続ける”ためには妥協するしかなくなっている。
……伝統を盾にできないほど、野球の基盤は脆くなっているんだ」
その声には、痛みと、どこかの決意が混じっていた。
「だがーーこれが現実だ。
我々は、このルールで勝つしかない」
その言葉のあと、監督は全員の顔をゆっくりと見回した。
その目には、怒りでも諦めでもないーー“託す”という光があった。
(ルールを変えてでも、野球を社会にねじ込もうとしている。
オレたちが戦うのは、相手チームだけじゃない。この時代そのものなんだ)
部室の空気が、一瞬で張り詰めた。
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「うーん、難しい話はよく分からない。つまり……どういうことだ?ユーリ」
ヒロがガムを噛みながら腕を組んでつぶやく
「ヒロ……つまり先に点取られたら心理的に不利なんだよぅ、うわあああ」
ユーリが声を裏返す。
ミーティングルーム内ざわめき始める。
「みんな、落ち着いて」
そんな中ヒカル先輩の声が静かに響いた。
「これは、相手チームも同じ条件だよ」
リュウジ先輩が黙ってうなずいた。
その仕草ひとつで、不思議と胸のざわめきが静まっていく。
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監督は深呼吸をして、続けた。
「甲子園出場校は背番号を再選定できる。
つまりーー新しい布陣を考える必要がある」
部員たちがざわつく。
誰もが、自分にもチャンスがあると悟った。
「少し考える時間が欲しい。
それまでは練習を続けてくれ」
その声には、疲労と、それでも立ち上がろうとする意思が宿っていた。
ミーティングは静かに解散となった。
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談話室へ向かう途中、オレたちはこれからの戦い方を話し合っていた。
そこへーー
「フッ……どうやら出番が来たようだな……一条たちよ……」
低い声。
壁にもたれ、右目に眼帯。両手首には謎の模様入りリストバンド。
現れたのはーー四宮 玲央。
「し、四宮君……だよね? どうしたの?」
指をいじりながらユーリが問いかける。
「刻は近い。勝利の儀が始まるのだ……!」
(え、なにそれ怖い)
ユーリがオレの背中に隠れる。
「四宮、ユーリの次に足が速いから、それが役に立つってことか?」
オレが淡々と問いかける。
「そうだ、我が同志・九品寺よ……俊足の我が身が必要なのだ……!」
(……やっぱりただ出たいだけだな)
四宮は勢いそのままに叫んだ。
「そこで我と勝負だ、三輪! 我が勝てば試合に出
る資格を得る!!」
「うわああ、って、えええ!!? そこはボクじゃなくて!?」
ユーリの悲鳴が響く。
「……なんで、俺?」
おにぎりをもぐもぐさせながら、ヒロがぼそっと言う。
「フッ、ほぼ初心者ながらチームで活躍するその姿……俺が挑むにふさわしい!」
何やら謎のポーズを取る四宮。
「まぁ、いいよ。俺が勝ったらーーご飯もらうから」
「まったくヒロは……」
オレは呆れたように頭をかく。
「き、気になるよぅ……」
ユーリは情けない声で震えていた。
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笑いと緊張が入り混じる談話室。
外では、夏の風がゆっくりと吹き始めていた。
それはーー新しい時代の野球の幕開けを告げる風だった。
甲子園を目前にして訪れた“ルール変更”という試練。
それは、野球というスポーツが時代とともに変わっていく象徴でもあります。
そして、四宮 玲央という異色のキャラがここから本格参戦!
彼が「眼帯」を外して本気になる時、チームにもまた新しい風が吹くーー。




