表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
甲子園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/80

第28話「ふつう」の野球部員から見たチームの景色

まだグラウンドに立てない選手にも、確かに“風”は吹いている。

これは、そんなひとりの視点から見た煌桜学園の物語。

仲間たちの背中を、遠くセンターの守備位置から見つめる男の小さな記録――。

風を読む目が、やがてチームの未来を映し出すことになる。



俺は煌桜学園こうおうがくえん野球部、一年・控えのセンター。

……名前? 悪いな、たいしたものじゃない。


試合に出られるかどうかは、まだ白紙だ。

けれどいつかグラウンドに立つーーその瞬間を夢見て、バットを握り続けている。


俺には一つ、癖がある。

風の向きを確かめるとき、つい指を立てて空気の流れを感じるんだ。

温度、湿り気、匂いーーわずかな変化で、打球の行方や次の展開を想像できる気がする。

……たぶん、センターというポジションのせいだな。

誰よりも広くフィールドを見渡す役割だから、自然と空を読むようになったのかもしれない。


「よし、チーム紹介でもしてみるか」





まずは我らが主将、天王寺さん。

捕手として投手を導き、頭脳で試合を組み立てるチームの要。

真面目で面倒見がよく、俺たち後輩にも分け隔てなく声をかけてくれる。


掃除用具を片手にグラウンドの隅を黙々と磨く姿を見かけることもある。

……主将がここまでやるなら、俺もサボっていられないよな。





次はエース、左腕の土門さん。

唸る速球、鋭い変化球。入部当初から注目の的。


最初は強面にビビったけど、勇気を出して話しかけてみたら――

「ココはこう握るといい」

なんて、的確なアドバイスをくれる兄貴肌だった。


天王寺さんとは幼なじみらしく、彼の話をするときは表情がやわらかくなる。

そして――地区大会を優勝してから、どこか雰囲気が柔らかくなったように感じる。

前は常に張り詰めていた空気が、今は少しだけ、風通しが良くなった。


しょっちゅう何かを食べてるのも体づくりの一環。努力家、まさに頼れるエースだ。





そして遊撃手、水城さん。

常に爽やかな笑顔、後輩の俺にもフランクに接してくれる。


女性人気も抜群で、よく呼び出されているが……

「悪い、野球があるから」

と断っているらしい。


野球一筋のその姿勢、同性の俺ですらカッコいいと思う。

最近は新セカンドの九品寺と組む二遊間が鉄壁。

正式な相棒ができてからの守備は、もう芸術の域だ。





次は同級生だな。

まず紹介するのは、一条タイチ。


投手であり、チームのエース候補――いや、初日の自己紹介でいきなり「優勝を目指す!!」とブチ上げた、ある意味で一番の話題提供者だ。


その言葉だけを聞けば、傲慢で鼻持ちならないタイプかと思うだろう。

けれど実際の一条は、礼儀正しくて人一倍チームを気づかう男だった。


練習試合の合間、俺が飲み物や冷却スプレーを渡すと、必ず「いつもありがとうな!!」と笑顔で返してくれる。

上下関係だの実力だの、そんなつまらない話はしない。

ただ、純粋に野球を愛している。


九品寺や三輪とつるむことが多い。

……まあ、俺はクラスも違うし、野球以外では一人が好きだ。気にしない。


ちなみに一条は、ここ最近ますますパワーアップしていて、食事の好みも大胆になってきた。

唐揚げにマヨネーズをたっぷりかけるという荒業を披露しては、土門さんと激論を交わしている。

好きに食べればいい。好みは人それぞれだ。





次は九品寺優里ーーチームのみんなからは「ユーリ」と呼ばれている。

家がお金持ちらしいとか、厳しい家庭だとか、噂はいくつも耳にしたが、真偽は分からない。


入部当初はよく泣いていた。

だがセンターからセカンドへポジションが変わり、二遊間として試合を重ねるうちに、泣き虫だった彼も少しずつ変わりはじめた。


それでも時々、ふっと涙をこぼすことがある。

今日もまた、水城先輩に何かイタズラされたとかで、一条たちに愚痴をこぼしていた。





そして三輪。

彼は最初、ほとんど喋らなかった。

気がつくと背後に立っていることがあって、あれは心臓に悪い。


何せ身長は190センチ近い。

175の俺が振り返れば、そりゃあ影にのまれた気分になる。


その巨体に見合うように、食欲もとにかくすごい。

食堂で見かけると、皿が一瞬で空になる。

食べるというより、消えていく感じだ。


だが最近は、何か心境の変化があったのか、ぽつりぽつりと俺たちに話しかけてくれる。

その声は意外なほど穏やかで優しい。

食の趣味が似ている気がして、ひそかに親近感を覚えているのはここだけの話だ。





こんな個性豊かな仲間と、俺は毎日白球を追っている。

日本で野球人気が下火だといわれても――関係ない。

俺たちはただ、野球が好きだからここにいる。


「おーい、今からミーティングするよー!」


天王寺さんの声がグラウンドに響く。

その呼びかけに、俺たちは自然と足を向けた。


俺は空に指を立てる。

風の向きが少し変わった気がした。


今日もまた、練習の一日が始まる。


彼の視点は、いわばチームの“空気の証人”でした。

まだ表舞台には立っていませんが、

彼が感じ取った“風の変化”は、確かに煌桜を動かしています。


いつか、彼にもスポットライトが当たる日が来るかもしれません。

その時は、また一緒に風を感じてください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ