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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
甲子園編

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第27話 甲子園出場!夜のご馳走編

長かった地区大会が終わり、ついにーー甲子園出場。

 喜びと安堵に包まれた夜、

 煌桜の仲間たちは、ほんの少しだけ肩の力を抜いて笑い合う。


 今回は、そんな“勝利の夜”のひと幕。

 緊張も涙も全部忘れて、笑顔でいっぱいの時間をーー



 

試合が終わった帰り道。

オレたちを乗せたバスは、夜のハイウェイを走っていた。


窓の外、流れる街の灯。

ぐうぐう寝息を立てるチームメイトたち。

ーーでもオレだけは眠れなかった。

まだ胸の奥が、あの興奮の熱でざわついていた。


煌桜学園に戻ると、正面玄関にでっかい垂れ幕。



(あれ? 思ったより小さいな……)


以前、サッカー部が全国を決めた時の、校舎を覆うような巨大な横断幕と比べれば、そのサイズは控えめだった。

だけど、確かにそこにあった。



「甲子園出場決定おめでとう!!」


……うわ、マジか。

その文字を見た瞬間、笑いがこぼれる。

小さくても、確かに自分たちに向けられた祝福だ。

その事実だけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。


あぁ、オレたち、本当にやったんだな。


きっと誰も気づかないくらいの風かもしれない。

でも、たしかに今ーー風が、吹きはじめている。



---


報告は主将のヒカル先輩がビシッと決めた。

そのまま寮の食堂へ直行すると、テーブルいっぱいにご馳走が並んでいた。


「うおっ、これ全部オレらのために!?」


テンション爆上がりの部員たち。

その中でーー



「タイチ、俺もう食ってる」


声のほうを振り向くと、料理の山の陰からヒロが顔を出した。

口いっぱいに詰め込んで、もぐもぐ咀嚼している。



「えっ!? いつの間に!!?」



「うわぁぁ!! ヒロがリスみたいになってるよぅ!!」

ユーリが目を丸くして叫ぶ。


「美味い、最高」


ヒロは親指を立て、もぐもぐ続行。



「おい、早くしないとヒロのやつが全部食うぞ!」


リュウジ先輩が笑いながら箸を取る。



「あはは〜♡ いつにもましてすごいね、ヒロ君」

ショート先輩が肩をすくめる。


「まったく……」


ヒカル先輩は苦笑いしつつも、どこか優しい表情だった。


試合の緊張が嘘みたいに、空気がやわらかくなる。

勝利の余韻と、仲間の笑い声。



そしてーー


「よくやったな、タイチ」



声の方を振り向くと、監督ーー源さんが立っていた。



「あっ……監督。お疲れ様です」



「勝利の感想はどうだ?」


少し考えてから、オレは言葉を選んだ。



「……“チーム”って、こういうことなのかなって。

 みんなと一緒に野球できて、監督のおかげだと思ってます」



監督の口元が、わずかに緩む。



「……照れるだろ、タイチ。褒めても何も出ないぞ」


そう言いつつ、頬をかく仕草がどこか照れくさそうで。


「それでも。ありがとうございます」



オレは頭を下げた。

監督は静かに頷き、グラスを掲げる。



「じゃあ……乾杯といこうか」



「はい!」


グラスが軽く触れ合い、カランと澄んだ音が響く。

その音は、どんな歓声よりも心地よかった。



---


「タイチーっ! 助けてよぅ!! ヒロが食べまくってるよぅ!!」



食卓の向こうから、ユーリの悲鳴。

見れば、ヒロが皿を抱えて全力で食べていた。


「ったく、ヒロは……! 今行くから!」


思わず笑いながら立ち上がる。

その瞬間、食堂の窓から夜風が吹き抜けた。


頬を撫でたその風が、まるで「よくやった」と言ってくれている気がした。


ーーあの日の風は、まだ止んでいない。




 夜が更け、布団に倒れ込んだ瞬間、意識が途切れた。


 夢の中でも、オレたちは白球を追いかけていた。




戦いのあとの食堂は、まるで家族の食卓みたいだった。

 ヒロのもぐもぐ、ユーリのツッコミ、

 そして先輩たちの穏やかな笑顔。


 このチームの“風”は、やっぱりあたたかい。

 そんな夜があるから、また次の試合も頑張れる。


 ーー次回、「変わる夏、変わる野球」。

 笑顔のあとに待つ、新しいルールと新しい風。



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