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第15話 練習試合 ② 練習試合前のミーティングで

新聞で見た“神威岬高校”。

強豪の名に、胸が高鳴るーー。

だけど、まさかあのメンバーの中に、レンの名前を見つけるなんて思わなかった。





ーー話は数日前に遡る。


視聴覚室のカーテンが風でふわりと揺れた。

机を囲む部員たちの表情は真剣そのものだ。今日は、次の練習試合の「メンバー選び」を決める日だった。


「オレはライトか……」


「ボクはセカンドみたい」


「俺はサードだ」


三輪が頭をかきながら笑い、ユーリが苦笑いを返す。

ホワイトボードの前で、主将のヒカル先輩が静かに頷いた。


「相手は別地区の学校――神威岬高校。あの地区の優勝校だ」


その名前を聞いた瞬間、空気が変わった。

ざわ……と小さな風が走る。


「え、なんでそんな遠くから来るんですか?」


三輪が率直に尋ねると、ヒカル先輩は眼鏡を押し上げながら微笑む。



「強豪同士が同じ地区で練習試合をすると、お互い

手の内を読まれるからね。

 だからこうして“風通しのいい相手”を選ぶんだ」


「風通し……なるほど」


オレは思わず呟いた。

(虎の巻)には書かれていない“今の時代”の野球。

少子化で連合チームや廃校が増える現実を、ヒカル先輩は淡々と語った。

時代が変われば、風の流れも変わるんだ。



一方その隣で、ユーリが不安げに肩をすくめる。


「そんな強い高校に勝てるかなぁ……」


すかさずショート先輩が隣に滑り込み、肩をポンと叩いた。


「内野は任せてよ。あれからユーリ君、守備もうまくなったしね〜。連携の風が吹いてるよ」



「ちょ、距離が近いです先輩!」



「別に取って食いやしないって〜」



やれやれと笑いながらも、ユーリの頬はうっすら赤い。

前よりも拒絶していない。少しだけ春の風が、二人の距離を縮めていた。


そんなやり取りを眺めていたヒカル先輩が、エースに声をかけた。



「リュウ、調子は?」



「最高だぜ! 強豪だろうが誰だろうが、俺がねじ伏せて勝つ!」


その声が視聴覚室に響く。

一瞬、風が通り抜けるように空気が明るくなった。



(流石、エースだな。オレも……負けてられない)


最後に監督が締めくくる。


「威勢がいいのは結構だが、“スポーツマンシップに則って”だ。いいな」


ピシッと空気が締まる。

その一言で、全員の背筋が伸びた。


ミーティングが終わるころ、窓の外から春の風が吹き込む。

まるで、これから始まる戦いを告げるように。




 

強豪との試合。

それはただの練習じゃない。

“今の時代の野球”を知るための、大切な一歩だった。


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